#秒恋5 恋人同士まで、秒読みの、筈だった

ReN

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piece7 青春の共犯者

焚き火のシメといえば

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「おーい、やっとるかあ?」
4人のお焚き上げが終わりに差し掛かった頃。
見計らったかのように、谷が元気よく手を振りながら戻ってきた。
「先生、おそーい!」
彩奈が立ち上がり、手を振り返しながら答える。

「何持って来たの?」
拓真が谷の方に寄っていき、その手元を見て笑い出す。
「えっマシュマロ!?」
「焚き火のシメと言えば、マシュマロだろうが」
「あははは、先生、女子力高っ」
「これでも、休日は娘と買い物や食事に行く父親だからな」
彩奈の笑顔に、谷も上機嫌だ。

「ふふっ。先生、娘さんがいらっしゃるんですね」
娘というワードを発した瞬間、笑みの柔らかくなった谷が微笑ましくて、悠里も笑ってしまう。
「うん。大学1年生だから、橘さんや石川さんの、ちょっとお姉さんだな」
「へえ! 大学生の娘さんとデートなんて、素敵なパパさんじゃん!」
彩奈も悠里の傍に来て、キラキラとした目を谷に向けた。

「いいだろう?」
谷が嬉しそうに胸を張ったのを見て、拓真も笑う。
「先生、確か息子さんもいるよね?」
「おお、いるぞ。そっちは今度、中3になる」
谷が優しい目をして、拓真と剛士を見た。

「やることは、しっかりやって。友だちとバカやって、先生をこき使って。青春を謳歌して貰いたいもんだよ。お前らみたいにな?」
「ははっ!オレたち、褒められたみたいね?」
楽しげに笑い、拓真は剛士の肩を叩く。
剛士も微笑んで応えた。
「まあ、先生の息子なら大丈夫でしょ」


谷が鼻歌交じりに、細い焚き木をくべていき、安定した焚き火を作り上げる。
「手慣れてますね」
谷を手伝いながら、剛士が楽しげに話しかける。
「おうよ。生活指導教員たる者、証拠隠滅、お焚き上げ、お手のものさ」
谷の冗談に、皆は顔を見合わせ笑った。

穏やかな空気の中、谷が皆にバーベキュー用の長い串を配る。
「ほら、これでマシュマロ刺して炙ってみろ。美味いぞ?」
「わーい、焼きマシュマロ~!」
彩奈と拓真が歓声を上げて、皿に出されたマシュマロに飛びついた。
それを微笑ましく見つめる悠里と剛士に、彩奈が手招きする。
「ほらほら、2人とも早く! みんなで焼こうよ!」

団子のように、マシュマロを3つ串刺しにする拓真に負けじと、彩奈も3つ串に刺している。
「俺はとりあえず、様子見で1個」
「ふふっ、私も」
剛士と悠里も、マシュマロを1つずつ串の先に刺すと、4人で焚き火台を囲んだ。


「火傷にだけは気をつけろよー」
「はぁい!」
谷の声に揃って返事をし、皆で串を火に掲げた。
間もなく、香ばしくて、ふわふわとした甘い匂いが立ち込める。

くるくると串を回転させながら、悠里は綺麗にマシュマロを炙っていく。
彼女のマシュマロは、キツネ色の焦げ目がつき、とても美味しそうだ。
「……ふふ、焼けた」
「おお。悠里、上手だな」
感心したように、剛士が微笑む。

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