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piece7 青春の共犯者
焚き火台
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「さてさて。じゃあ、始めますかっと」
谷が、着火剤と炭を入れた焚き火台に、何枚かの紙を放り込んだ。
「ん? 書類?」
焚き火台の中を軽く覗いた剛士の首根っこを、谷の大きな手が掴む。
「柴崎よ。大人ってのはな、人に知られちゃいけねえ秘密を抱えてるもんなんだよ」
「要するに、先生も何か、証拠隠滅したかったんですね?」
「危ない橋を渡らずして、生活指導が務まるか、このぉ!」
「いててててっ」
首を掴んだ手に力を込められ、剛士が悲鳴を上げる。
一応、侵入者である悠里たちは静かにしていなければならないのだが、堪えきれず吹き出してしまった。
谷が鼻歌混じりに、焚き火台の中の着火剤に点火した。
みるみるうちに火が生まれ、谷の入れた書類を熱に飲み込んでいく。
谷は、慣れた手つきで焚き火台を扇いで風を送り、火を広げていった。
「よし! お前らも入れていいぞ? 危ないから、少しずつな?」
火が安定したのを見計らい、谷は生徒たちに声を掛ける。
「はぁい!」
4人は元気よく返事をし、焚き火台と谷の周りに集まった。
剛士が、写真を裏返した状態で封筒から取り出し、皆に配っていく。
「よっし! お焚き上げだね!」
拓真が明るい声を出して、鼓舞してくれた。
「おお、そうだお焚き上げ。行けいけ!」
公園での会話を知らない谷も、お焚き上げという言い方が気に入ったらしく、上機嫌に応じる。
しかし谷は、皆で分担して持った写真には目を向けなかった。
豪傑な言動で、生徒の懐に飛び込んではいくが、細やかな気遣いも忘れない。
生徒のデリケートな部分に、無神経に触れることはしない。
そんな先生だからこそ、剛士も彼を頼ったのだろう。
谷という教師に対して、悠里は更に、感謝と尊敬の気持ちを抱いた。
「……ああ、いかんいかん、忘れ物」
4人が少しずつ、写真を火に焚べていく様を見守っていた谷が、ポン、と手を打つ。
「まだヤバい書類でもあるんすか?」
剛士が小さく笑い、谷を揶揄う。
丸太のような太い腕が、がっしりと剛士の肩に回った。
「もはや俺たちは共犯者だぞ、柴崎?」
「えぇー? しょうがねえなあ」
剛士は、どこか嬉しそうに応えた。
谷が笑いながら、ヒラヒラと手を振る。
「ちょっと指導室に戻る。15分くらいで戻るから、お前らは女子に怪我させないように、ちゃんと見とけよ」
「はいよ」
「オッケー」
谷の背中を見送った後も、4人は少しずつ、写真を火に焚べていく。
こうして皆と一緒に燃やすと、あの日の恐怖と悲しみも、浄化されていく気がした。
本当に、お焚き上げみたいだ、と悠里は小さく微笑む。
谷が、着火剤と炭を入れた焚き火台に、何枚かの紙を放り込んだ。
「ん? 書類?」
焚き火台の中を軽く覗いた剛士の首根っこを、谷の大きな手が掴む。
「柴崎よ。大人ってのはな、人に知られちゃいけねえ秘密を抱えてるもんなんだよ」
「要するに、先生も何か、証拠隠滅したかったんですね?」
「危ない橋を渡らずして、生活指導が務まるか、このぉ!」
「いててててっ」
首を掴んだ手に力を込められ、剛士が悲鳴を上げる。
一応、侵入者である悠里たちは静かにしていなければならないのだが、堪えきれず吹き出してしまった。
谷が鼻歌混じりに、焚き火台の中の着火剤に点火した。
みるみるうちに火が生まれ、谷の入れた書類を熱に飲み込んでいく。
谷は、慣れた手つきで焚き火台を扇いで風を送り、火を広げていった。
「よし! お前らも入れていいぞ? 危ないから、少しずつな?」
火が安定したのを見計らい、谷は生徒たちに声を掛ける。
「はぁい!」
4人は元気よく返事をし、焚き火台と谷の周りに集まった。
剛士が、写真を裏返した状態で封筒から取り出し、皆に配っていく。
「よっし! お焚き上げだね!」
拓真が明るい声を出して、鼓舞してくれた。
「おお、そうだお焚き上げ。行けいけ!」
公園での会話を知らない谷も、お焚き上げという言い方が気に入ったらしく、上機嫌に応じる。
しかし谷は、皆で分担して持った写真には目を向けなかった。
豪傑な言動で、生徒の懐に飛び込んではいくが、細やかな気遣いも忘れない。
生徒のデリケートな部分に、無神経に触れることはしない。
そんな先生だからこそ、剛士も彼を頼ったのだろう。
谷という教師に対して、悠里は更に、感謝と尊敬の気持ちを抱いた。
「……ああ、いかんいかん、忘れ物」
4人が少しずつ、写真を火に焚べていく様を見守っていた谷が、ポン、と手を打つ。
「まだヤバい書類でもあるんすか?」
剛士が小さく笑い、谷を揶揄う。
丸太のような太い腕が、がっしりと剛士の肩に回った。
「もはや俺たちは共犯者だぞ、柴崎?」
「えぇー? しょうがねえなあ」
剛士は、どこか嬉しそうに応えた。
谷が笑いながら、ヒラヒラと手を振る。
「ちょっと指導室に戻る。15分くらいで戻るから、お前らは女子に怪我させないように、ちゃんと見とけよ」
「はいよ」
「オッケー」
谷の背中を見送った後も、4人は少しずつ、写真を火に焚べていく。
こうして皆と一緒に燃やすと、あの日の恐怖と悲しみも、浄化されていく気がした。
本当に、お焚き上げみたいだ、と悠里は小さく微笑む。
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