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piece7 青春の共犯者
お焚き上げ
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「さて。じゃあ、お焚き上げかあ」
拓真が口火を切る。
「と言っても、どうしようか。外でこの量の写真に火つけたら、ちょっとしたボヤ騒ぎだよね」
恐らく30枚はあるだろうカラオケの写真と、A5サイズのフォトブック。
確かに、自分たちで燃やすには、いささか量が多いかも知れない。
安全かつ確実に灰に帰すのは、意外と難しいのだなと、皆は首を捻った。
剛士が、ちらりと腕時計を確認する。
つられて悠里も時計を見ると、時刻は19時近かった。
公園についてから、2時間弱が過ぎていることに気がつき、内心驚いてしまう。
「……相談してみるか」
剛士はそう呟くと、電話をかけ始めた。
「え、誰に?」
きょとんと尋ねた拓真の声が終わるか終わらないかのうちに、すぐ電話は繋がったようだ。
「あ、お疲れ様です。先生、まだ学校にいます?」
先生?
予想外のワードに、3人は顔を見合わせる。
「はは、もちろん、いますよね」
剛士が楽しげに笑い、彼のスマートフォンからも豪快な笑い声が聞こえてきた。
拓真が目を丸くし、悠里と彩奈に囁いた。
「生活指導の谷だ」
勇誠学園の教師の中で、ほぼ唯一、悠里たちが接触したことのある先生。
強面ではあるが、頼りになる大人の顔を思い浮かべ、3人は剛士の声に聞き入る。
「先生。大至急、燃やしたいものがあるんですけど」
剛士の、単刀直入に過ぎる斬り込み方に、皆が小さく吹き出す。
「いや、犯罪じゃないから」
谷からも突っ込まれたようで、剛士も笑っている。
それから、声の調子を切り替えて、相談を始めた。
「中身は、写真なんですけど。事情を知らない人から見れば普通だけど、俺たちにとっては……要らないものなんです」
剛士は、電話の先の声に対して、小さく頷いた。
「……ん。できれば、自分たちの手で、きちんと処分したいです」
また二言三言、谷が何かを話した後、剛士がふっと笑った。
「はい。俺と酒井拓真。……あと、マリ女の橘さんと、友だちもいますよ?」
急に自分の名を出され、悠里の胸が飛び跳ねる。
剛士が、谷に対して笑いながら頷く。
「はい。はい。じゃ、今から行きます」
通話が終わり、剛士は笑顔のまま3人を見回した。
「ごめんな、急に電話して」
拓真が、笑って彼の頭をクシャクシャと撫でる。
「お前、なんで谷と電話できる仲になってんだよ」
剛士も笑いながら、首を傾げた。
「いや、前に職員室で数学の先生と連絡先交換してたら、谷が乱入してきたんだよ」
「仲良しか!」
「谷と繋がってると、意外と便利だぞ?」
切れ長の黒い瞳が、優しく悠里に向けられる。
「いい道具持ってるから、貸してくれるってさ。お前が一緒にいるって知ったら、何か喜んでた」
「ふふっ。びっくりしちゃった」
時々、『橘さんは元気か?』と剛士に聞いてくれていたという谷。
直接会えるなら、今でも気にかけてくれる先生にお礼を言おうと、悠里も微笑んだ。
剛士が、皆に向かって言った。
「谷が、燃やす道具を準備しといてくれるから。人目につかないように、裏門から入って来いってさ」
拓真が、目を輝かせる。
「あははっ、何かワクワクしてきた!」
「確かに!ちょっと背徳感あるよね」
彩奈が笑いながら同意した。
先生から許可を貰ったのだから、実際には問題ない。
しかし、これはなかなか経験できない事態だ。
共犯者の4人は顔を見合わせて笑うと、夜の学校侵入ごっこをするべく、立ち上がった。
剛士が、そっと悠里の隣りにやって来る。
見上げると、憂いを帯びた切れ長の瞳が、優しく微笑んでくれた。
大きな手が、悠里を包み込む。
いつもと同じ行動ではあるが、手に込められた力は、いつもより少し、強い気がした。
応えるように、悠里も、きゅっと彼の手を握り返す。
そのまま2人は互いに寄り添い、勇誠学園への道を歩き始めた。
拓真が口火を切る。
「と言っても、どうしようか。外でこの量の写真に火つけたら、ちょっとしたボヤ騒ぎだよね」
恐らく30枚はあるだろうカラオケの写真と、A5サイズのフォトブック。
確かに、自分たちで燃やすには、いささか量が多いかも知れない。
安全かつ確実に灰に帰すのは、意外と難しいのだなと、皆は首を捻った。
剛士が、ちらりと腕時計を確認する。
つられて悠里も時計を見ると、時刻は19時近かった。
公園についてから、2時間弱が過ぎていることに気がつき、内心驚いてしまう。
「……相談してみるか」
剛士はそう呟くと、電話をかけ始めた。
「え、誰に?」
きょとんと尋ねた拓真の声が終わるか終わらないかのうちに、すぐ電話は繋がったようだ。
「あ、お疲れ様です。先生、まだ学校にいます?」
先生?
予想外のワードに、3人は顔を見合わせる。
「はは、もちろん、いますよね」
剛士が楽しげに笑い、彼のスマートフォンからも豪快な笑い声が聞こえてきた。
拓真が目を丸くし、悠里と彩奈に囁いた。
「生活指導の谷だ」
勇誠学園の教師の中で、ほぼ唯一、悠里たちが接触したことのある先生。
強面ではあるが、頼りになる大人の顔を思い浮かべ、3人は剛士の声に聞き入る。
「先生。大至急、燃やしたいものがあるんですけど」
剛士の、単刀直入に過ぎる斬り込み方に、皆が小さく吹き出す。
「いや、犯罪じゃないから」
谷からも突っ込まれたようで、剛士も笑っている。
それから、声の調子を切り替えて、相談を始めた。
「中身は、写真なんですけど。事情を知らない人から見れば普通だけど、俺たちにとっては……要らないものなんです」
剛士は、電話の先の声に対して、小さく頷いた。
「……ん。できれば、自分たちの手で、きちんと処分したいです」
また二言三言、谷が何かを話した後、剛士がふっと笑った。
「はい。俺と酒井拓真。……あと、マリ女の橘さんと、友だちもいますよ?」
急に自分の名を出され、悠里の胸が飛び跳ねる。
剛士が、谷に対して笑いながら頷く。
「はい。はい。じゃ、今から行きます」
通話が終わり、剛士は笑顔のまま3人を見回した。
「ごめんな、急に電話して」
拓真が、笑って彼の頭をクシャクシャと撫でる。
「お前、なんで谷と電話できる仲になってんだよ」
剛士も笑いながら、首を傾げた。
「いや、前に職員室で数学の先生と連絡先交換してたら、谷が乱入してきたんだよ」
「仲良しか!」
「谷と繋がってると、意外と便利だぞ?」
切れ長の黒い瞳が、優しく悠里に向けられる。
「いい道具持ってるから、貸してくれるってさ。お前が一緒にいるって知ったら、何か喜んでた」
「ふふっ。びっくりしちゃった」
時々、『橘さんは元気か?』と剛士に聞いてくれていたという谷。
直接会えるなら、今でも気にかけてくれる先生にお礼を言おうと、悠里も微笑んだ。
剛士が、皆に向かって言った。
「谷が、燃やす道具を準備しといてくれるから。人目につかないように、裏門から入って来いってさ」
拓真が、目を輝かせる。
「あははっ、何かワクワクしてきた!」
「確かに!ちょっと背徳感あるよね」
彩奈が笑いながら同意した。
先生から許可を貰ったのだから、実際には問題ない。
しかし、これはなかなか経験できない事態だ。
共犯者の4人は顔を見合わせて笑うと、夜の学校侵入ごっこをするべく、立ち上がった。
剛士が、そっと悠里の隣りにやって来る。
見上げると、憂いを帯びた切れ長の瞳が、優しく微笑んでくれた。
大きな手が、悠里を包み込む。
いつもと同じ行動ではあるが、手に込められた力は、いつもより少し、強い気がした。
応えるように、悠里も、きゅっと彼の手を握り返す。
そのまま2人は互いに寄り添い、勇誠学園への道を歩き始めた。
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