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piece7 青春の共犯者
ゴミみたいに扱うのは嫌
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剛士は、悠里の心を慮るように、優しい声で問いかける。
「悠里の学校に写真が渡ってるなら、わざわざこっちを保管しとく必要は無い……むしろ、早く処分したいよな?」
「……うん」
悠里は小さく、しかしはっきりと首を縦に振った。
「ん」
剛士も頷き、封筒に収めたカラオケの写真と、フォトブックを重ねて持った。
「じゃ、さっさと捨てようぜ」
「あ、あの……待って!」
思わず悠里は、身を乗り出してしまった。
「ん?」
切れ長の瞳が、きょとんと丸くなる。
悠里は、おずおずとフォトブックを指した。
「それは……昔のゴウさんが写ってるから」
「え?」
言葉の意味を測りかね、首を傾げる剛士に、悠里は訴えた。
「ゴミみたいに扱うのは……嫌」
剛士は、困ったように悠里を見つめる。
「……でも、こんなもの、お前に持たせとくわけにはいかない」
拓真と彩奈も、顔を見合わせた。
「うーん、そうだよねえ。悠里ちゃんに持たせたくないからって、ゴウが引き取るのも良くないしなあ」
「そりゃそうだよ。シバさんに、元カノとの思い出写真なんて渡せない」
「俺だって要らないわ」
剛士も、2人の意見に賛同する。
拓真が、更に首を捻った。
「じゃ、どうしよっか。ゴウのとこだけ切り抜いて、保管する?」
「いやー、ムリでしょー」
彩奈が、フォトブックを剛士から受け取り、眉を顰める。
「ページの裏表に、びっしりと写真がプリントされてるし。シバさんだけ切り取るのは不可能だよ、これ」
「んー、どうすっかー」
拓真が腕を組み、すっかり暗くなってしまった空を見上げた。
「切り離せないんだったら、このまま、お焚き上げ……とか?」
「俺は、怨霊か何かなの?」
剛士から真顔でツッコミが入り、彩奈が思わず吹き出す。
「えー? じゃあ、どうするよー」
拓真が白旗を上げたところで、悠里が遠慮がちに挙手した。
「……じゃあやっぱり、私が持っときます」
「それが1番ダメ!」
3人から盛大にツッコミを受け、悠里は、しょんぼりした。
「……ねえ、悠里?」
彩奈が優しい顔をして、そっと隣りの悠里の背に手を添えた。
「写真部として正直、悠里の気持ちは、めっちゃよくわかるよ」
彩奈の目が、フォトブックに注がれる。
「写真に写ってる人みんな、ニコニコ笑ってて、楽しそうで。ホント、いい写真」
パラパラと、フォトブックのページを捲りながら、彩奈は呟いた。
その顔は優しくて、とても穏やかだ。
「この中に、好きな人の笑顔が詰まってたら。そりゃあ、捨てるのは忍びないわな」
悠里は唇を噛み、小さく頷いた。
彩奈が、よくわかるよ、と言うように、悠里の背中をトントンと叩いた。
そして、ゆっくりと話し始める。
「写真ってね。そこに写る人や見る人たちを、幸せにするために撮るものだと、私は思ってる」
赤メガネの下にある知的な瞳が、静かな怒りに燃えた。
「それを、悠里を傷つけるために悪用するなんて、最低。人間性を疑うわ」
全く同意だというふうに、拓真は深く頷く。
「悠里。この写真は、もとは勇誠とマリ女のバスケ部みんなを、幸せにするために生まれたものなの」
彩奈の目が、真っ直ぐに悠里を見て、訴えかけてくる。
「だからこれで悠里が傷つくのは、すごく悲しいことだし、何よりも、自分の思い出を盾に取られちゃったシバさんが、とても辛い」
彩奈の言葉ひとつひとつが、胸に沁み入る。
悠里は唇を噛み締め、深く頷いた。
彩奈が、優しい顔で微笑んだ。
「だからね、悠里。このフォトブックは、やっぱり処分するべき。ゴミとして捨てるということじゃなくて……ある意味、お焚き上げって、アリかもだね」
拓真をちらりと見て、彩奈は笑った。
そして悠里を諭すように、ゆっくりと語りかける。
「この写真はね。当時のバスケ部を幸せにする役目を、果たしたの。今、ここにあるべきものじゃないんだ。だからちゃんと、処分してあげよう?」
「……うん」
悠里は彩奈を見つめ返し、しっかりと頷いた。
「悠里の学校に写真が渡ってるなら、わざわざこっちを保管しとく必要は無い……むしろ、早く処分したいよな?」
「……うん」
悠里は小さく、しかしはっきりと首を縦に振った。
「ん」
剛士も頷き、封筒に収めたカラオケの写真と、フォトブックを重ねて持った。
「じゃ、さっさと捨てようぜ」
「あ、あの……待って!」
思わず悠里は、身を乗り出してしまった。
「ん?」
切れ長の瞳が、きょとんと丸くなる。
悠里は、おずおずとフォトブックを指した。
「それは……昔のゴウさんが写ってるから」
「え?」
言葉の意味を測りかね、首を傾げる剛士に、悠里は訴えた。
「ゴミみたいに扱うのは……嫌」
剛士は、困ったように悠里を見つめる。
「……でも、こんなもの、お前に持たせとくわけにはいかない」
拓真と彩奈も、顔を見合わせた。
「うーん、そうだよねえ。悠里ちゃんに持たせたくないからって、ゴウが引き取るのも良くないしなあ」
「そりゃそうだよ。シバさんに、元カノとの思い出写真なんて渡せない」
「俺だって要らないわ」
剛士も、2人の意見に賛同する。
拓真が、更に首を捻った。
「じゃ、どうしよっか。ゴウのとこだけ切り抜いて、保管する?」
「いやー、ムリでしょー」
彩奈が、フォトブックを剛士から受け取り、眉を顰める。
「ページの裏表に、びっしりと写真がプリントされてるし。シバさんだけ切り取るのは不可能だよ、これ」
「んー、どうすっかー」
拓真が腕を組み、すっかり暗くなってしまった空を見上げた。
「切り離せないんだったら、このまま、お焚き上げ……とか?」
「俺は、怨霊か何かなの?」
剛士から真顔でツッコミが入り、彩奈が思わず吹き出す。
「えー? じゃあ、どうするよー」
拓真が白旗を上げたところで、悠里が遠慮がちに挙手した。
「……じゃあやっぱり、私が持っときます」
「それが1番ダメ!」
3人から盛大にツッコミを受け、悠里は、しょんぼりした。
「……ねえ、悠里?」
彩奈が優しい顔をして、そっと隣りの悠里の背に手を添えた。
「写真部として正直、悠里の気持ちは、めっちゃよくわかるよ」
彩奈の目が、フォトブックに注がれる。
「写真に写ってる人みんな、ニコニコ笑ってて、楽しそうで。ホント、いい写真」
パラパラと、フォトブックのページを捲りながら、彩奈は呟いた。
その顔は優しくて、とても穏やかだ。
「この中に、好きな人の笑顔が詰まってたら。そりゃあ、捨てるのは忍びないわな」
悠里は唇を噛み、小さく頷いた。
彩奈が、よくわかるよ、と言うように、悠里の背中をトントンと叩いた。
そして、ゆっくりと話し始める。
「写真ってね。そこに写る人や見る人たちを、幸せにするために撮るものだと、私は思ってる」
赤メガネの下にある知的な瞳が、静かな怒りに燃えた。
「それを、悠里を傷つけるために悪用するなんて、最低。人間性を疑うわ」
全く同意だというふうに、拓真は深く頷く。
「悠里。この写真は、もとは勇誠とマリ女のバスケ部みんなを、幸せにするために生まれたものなの」
彩奈の目が、真っ直ぐに悠里を見て、訴えかけてくる。
「だからこれで悠里が傷つくのは、すごく悲しいことだし、何よりも、自分の思い出を盾に取られちゃったシバさんが、とても辛い」
彩奈の言葉ひとつひとつが、胸に沁み入る。
悠里は唇を噛み締め、深く頷いた。
彩奈が、優しい顔で微笑んだ。
「だからね、悠里。このフォトブックは、やっぱり処分するべき。ゴミとして捨てるということじゃなくて……ある意味、お焚き上げって、アリかもだね」
拓真をちらりと見て、彩奈は笑った。
そして悠里を諭すように、ゆっくりと語りかける。
「この写真はね。当時のバスケ部を幸せにする役目を、果たしたの。今、ここにあるべきものじゃないんだ。だからちゃんと、処分してあげよう?」
「……うん」
悠里は彩奈を見つめ返し、しっかりと頷いた。
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