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桜のブックマーカー
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「……私ね。さっき彩奈と、もう友だちでいられなくなっちゃうのかなと思ったら……すごく悲しかった」
彩奈が、苦しげに唇をへの字に曲げる。
悠里は悲しみを分かち合うように、その背を撫で返した。
そして、睫毛を伏せて言う。
「エリカさんと安藤さんも、親友同士だから。エリカさんは、すごく辛い役を背負ってくれたんだって。改めて思ったんだ……」
「悠里……」
「それにね、」
悠里は、潤んだ目で微苦笑を浮かべる。
「安藤さんがこんなことをしたのも、エリカさんが好きだからなんだと思うと……何だか、憎めなくて」
「ちょっと悠里? それはお人好し過ぎだからね!」
「うん。そうだよね……」
呆れ顔で笑う彩奈に、パシンッと背を叩かれ、悠里も笑ってしまう。
剛士は何も言わなかったが、その黒い瞳に深い翳りを見せた。
代わりに拓真が、冷静に話の整理を始める。
「時系列としては、ゴウの元カノと悠里ちゃんが話したのが、卒業式前日。つまり先週の木曜日だね?」
悠里は、拓真を見つめて頷いた。
「で、週明け月曜日の今日、悠里ちゃんはまた生活指導室に呼び出されて。ゴウのとこには、この写真が届けられた」
拓真が、少しだけ申し訳なさそうに問う。
「ってことはさ……安藤カンナの嫌がらせは、終わってなくない? 元カノの説得に、応じなかったってことなのかな」
悠里は僅かな沈黙を挟み、かぶりを振った。
そうして鞄から手帳を取り出し、エリカから貰った、桜のブックマーカーを見せた。
「……エリカさん、卒業式当日に、私の靴箱に手紙を入れてくれてたの。もう大丈夫だからねって。このブックマーカーと一緒に」
他の3人の視線が、吸い寄せられるように、桜に向かう。
「……可愛い」
思わず彩奈の口から、率直な感想が漏れた。
きっと皆にも、この手紙とプレゼントに込められた、エリカの真心は伝わる。
悠里は、そう信じた。
悠里は、殆ど訴えかけるような声音で、拓真に答えた。
「安藤さんは、木曜日にエリカさんと話した時点では、説得に応じたんだと思う。きっと、金曜日の卒業式の日から月曜日までの間に、また安藤さんの気持ちが変わってしまう何かが、あったんじゃないかな。それが何かは、わからないけど……」
「んー。そっかあ……」
拓真が、少し複雑な顔をしながら相槌を打った。
「なんか……そこまで悠里ちゃんが、元カノのこと信じてるのを見るとさ。ちょっと、元カノがいい人に思えてくるから、不思議だよね」
言いながら拓真は、傍らにいる剛士の顔を見た。
剛士が苦笑し、応じる。
「まあ……浮気したこと以外は、いい人だったよ」
「いや、それが1番ダメ」
拓真が、まるでお笑い芸人のようなツッコミを入れたことで皆が吹き出し、また緊張が和らいだ。
彩奈が、苦しげに唇をへの字に曲げる。
悠里は悲しみを分かち合うように、その背を撫で返した。
そして、睫毛を伏せて言う。
「エリカさんと安藤さんも、親友同士だから。エリカさんは、すごく辛い役を背負ってくれたんだって。改めて思ったんだ……」
「悠里……」
「それにね、」
悠里は、潤んだ目で微苦笑を浮かべる。
「安藤さんがこんなことをしたのも、エリカさんが好きだからなんだと思うと……何だか、憎めなくて」
「ちょっと悠里? それはお人好し過ぎだからね!」
「うん。そうだよね……」
呆れ顔で笑う彩奈に、パシンッと背を叩かれ、悠里も笑ってしまう。
剛士は何も言わなかったが、その黒い瞳に深い翳りを見せた。
代わりに拓真が、冷静に話の整理を始める。
「時系列としては、ゴウの元カノと悠里ちゃんが話したのが、卒業式前日。つまり先週の木曜日だね?」
悠里は、拓真を見つめて頷いた。
「で、週明け月曜日の今日、悠里ちゃんはまた生活指導室に呼び出されて。ゴウのとこには、この写真が届けられた」
拓真が、少しだけ申し訳なさそうに問う。
「ってことはさ……安藤カンナの嫌がらせは、終わってなくない? 元カノの説得に、応じなかったってことなのかな」
悠里は僅かな沈黙を挟み、かぶりを振った。
そうして鞄から手帳を取り出し、エリカから貰った、桜のブックマーカーを見せた。
「……エリカさん、卒業式当日に、私の靴箱に手紙を入れてくれてたの。もう大丈夫だからねって。このブックマーカーと一緒に」
他の3人の視線が、吸い寄せられるように、桜に向かう。
「……可愛い」
思わず彩奈の口から、率直な感想が漏れた。
きっと皆にも、この手紙とプレゼントに込められた、エリカの真心は伝わる。
悠里は、そう信じた。
悠里は、殆ど訴えかけるような声音で、拓真に答えた。
「安藤さんは、木曜日にエリカさんと話した時点では、説得に応じたんだと思う。きっと、金曜日の卒業式の日から月曜日までの間に、また安藤さんの気持ちが変わってしまう何かが、あったんじゃないかな。それが何かは、わからないけど……」
「んー。そっかあ……」
拓真が、少し複雑な顔をしながら相槌を打った。
「なんか……そこまで悠里ちゃんが、元カノのこと信じてるのを見るとさ。ちょっと、元カノがいい人に思えてくるから、不思議だよね」
言いながら拓真は、傍らにいる剛士の顔を見た。
剛士が苦笑し、応じる。
「まあ……浮気したこと以外は、いい人だったよ」
「いや、それが1番ダメ」
拓真が、まるでお笑い芸人のようなツッコミを入れたことで皆が吹き出し、また緊張が和らいだ。
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