#秒恋5 恋人同士まで、秒読みの、筈だった

ReN

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拓真の明るい空気

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「と、とにかく!安藤カンナに腹立つ気持ちはわかるけど。お前がいちいちキレてたら、悠里ちゃんが話せないだろ。落ち着けよな」
拓真が自分のこめかみを押さえながら、涙目で剛士を睨みつけた。

剛士は憮然とした表情のままだったが、わかったよ、と言うように、クシャクシャと金髪頭を撫でた。

そして表情を和らげ、悠里を見つめる。
「……ごめん。俺が取り乱してたら、駄目だよな」
切れ長の瞳が、優しい色を浮かべたのを見て、悠里の心も凪いでくる。
悠里は小さく微笑み、首を振った。
「ううん。私も落ち着いて、ちゃんと話すね」

拓真が一生懸命作ってくれた、明るい空気を損ねたくない。
剛士と悠里は、息を吸い、気持ちを立て直した。


剛士の唇から、素直な後悔の気持ちが零れ落ちる。
「俺、なんであの日、違和感に気づけなかったんだろう。可愛いなんて、言ってる場合じゃなかったのに……ごめんな」

悠里は、少しオロオロしながらも剛士に応えた。
「で、でも、私……ゴウさんに、可愛いって言って貰えて、嬉しかったよ」
剛士が、優しい微笑を浮かべる。

「……すげえ可愛かったよ。デニムも。三つ編みも」
「ゴウさん……」
2人はテーブルの上で、指を絡め合わせる。

「はー? オレの犠牲の上で、イチャついてんじゃねーわ!」
そこへ拓真の盛大なツッコミが割って入り、皆はまた笑ってしまう。


こうして、いつもと同じように、ふざけ合っていると、吹っ切れていく気がする。

そうだ。カンナに撮られたカラオケの写真も、渡された剛士とエリカのフォトブックも。
全部、皆に見られた――見て、貰えた。

もう皆に、剛士に、隠し事をしなくていい。
もう何も、怖くない――


悠里は、落ち着いた声音で、事情の説明を再開した。
テーブルに置かれたままの、カラオケボックスの写真を指し示す。
「安藤さんは、私が彼氏募集中だって嘘を言って、男子を集めていたみたい」
それを聞いた瞬間、再び剛士の眉間に深く皺が刻まれた。
が、今度は怒りの声を上げはしなかった。

少しでも皆を安心させようと、悠里は続ける。
「でもそれが嘘だってわかったら、みんな帰って行った。それに、私を安藤さんから逃がしてくれた人たちもいたから……大丈夫だったの」


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