#秒恋5 恋人同士まで、秒読みの、筈だった

ReN

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piece6 フォトアルバム

打ち明け話

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元通り席に着くと、自然と皆の視線は、悠里に集まった。
悠里は深呼吸して、胸を落ち着かせる。
そうして、皆の優しい目を見つめ、気持ちを奮い立たせた。

「……みんな、本当にごめんなさい」
悠里は小さな、しかし丁寧な声で、口火を切る。
この4人の中に、言い争いの種を蒔いてしまった。
責任は、自分にある。

自分が、彩奈にも、拓真にも、剛士にさえも――隠し事をしたからだ。
自分独りでは抱えきれない、トラブルの種を隠し続けた結果、こんなに大きくしてしまった。


悠里はそっと、自分の鞄に手をかける。
みんなに、全てを話そう。
そのためには、見て貰わなければならないものがある――


悠里は、鞄の中から1冊のフォトブックを取り出した。
ずっと、自分の心を締めつけていたもの。
皆の前に、さらけ出した。


隣りに座る彩奈が、うっと息を詰める。
「……また写真? 今度は、何……?」

剛士は、悠里の出したフォトブックを訝しむように、一瞬眉を顰める。
が、まずは穏やかな声で、悠里に確認をとった。
「見ていいか?」
悠里は、自分を優しく見つめる切れ長の瞳に向かい、静かに頷いた。

胸がドクドクと、嫌な音を立てている。
これを見せるということは、剛士にショックを受けさせ、傷つけることだとわかっている。
しかし、もう引き返せない。
彼を守るためにと、その場凌ぎで繕ったとしても、いつかは傷つけてしまう。
それならばせめて、これからの自分は、剛士と親友たちに対して、正直でありたかった。


きっと、まったく予想の外にあっただろう。
フォトブックを開いた剛士は、驚きに目を見張り、眉間に深く皺を刻んだ。
剛士はパラパラと、ページを流し見していく。
「なんで……これをお前が……?」

当然の疑問だ。
このフォトブックは、剛士とエリカが付き合っていた頃の――両校のバスケ部が、深い交流をしていたときの写真。
悠里が知り得ない、ましてや持っているはずのない写真なのだから。


「こんなもの、誰がお前に……」
悠里に尋ねようとした剛士の声が、最後のページを見た瞬間、止まった。
痛みに近い衝撃を感じたのだろう。
彼が、ぎり、と歯を食いしばったのがわかった。

寄り添って、幸せそうに微笑む剛士とエリカ。
この写真を撮ったときの記憶はきっと、彼の中にも残っていただろう。


『貴重なツーショット!これ、私が撮ってあげたんだ』
喜々として悠里に写真を見せつけてきたときの、カンナの声と笑みが悠里の脳裏を去来した。


切れ長の瞳に、深い憂いと、怒りをたたえ、剛士は顔を上げる。
彼は、真っ直ぐに悠里を見つめ、正解を口にした。
「――安藤カンナか」

剛士に、彼女の名を口にさせてしまったことが悲しい。
しかし、独りで抱えていた重荷を見せることができ、ホッとする自分もいた。
悠里は唇を噛み、そっと頷く。

剛士は溜め息をつき、額に手を当てた。
「くそ……」
彼は振り絞るように、やるせない悔しさを吐き出した。


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