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piece5 がんばろうよ
それが、紳士ってもんなのよ
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2人して、子どものように、声を上げて泣いてしまう。
初めての大げんかは、痛くて、悲しくて。
自分が傷ついた痛みよりも何よりも、互いを傷つけて、失ってしまうことが、怖かった。
ごめんねと、大好きが言えた2人は、ほっとして、お互いの温もりを感じ合う。
2人は抱きしめ合ったまま、暫くの間、動けなかった。
「……2人とも、大丈夫? ちょっとは、落ち着けた?」
それまで、じっと皆を静観していた拓真が、柔らかい声で問いかけた。
悠里たちは、テーブルの向かいに腰掛けていた拓真を振り返る。
拓真は、2人の顔を交互に見つめ、優しい声で笑った。
「彩奈ちゃんはともかくとして、悠里ちゃんも、そんな大っきい声、出せたんだねぇ」
2人の近くにいたはずの剛士も、いつの間にか拓真の隣に戻っていた。
目を伏せて頬杖をついている剛士は、やはり、かなり落ち込んでいるように見えた。
心配そうに剛士を見つめた悠里に、拓真が、ニコッと笑いかける。
「あ、大丈夫だよ。これは、悠里ちゃん争奪戦で、彩奈ちゃんに競り負けたから、しょんぼりしてるだけ。な、ゴウ?」
拓真は冗談ぽく言うと、剛士の頭をクシャクシャと撫でた。
剛士は顔をふいと横にそむけ、ボソリと呟く。
「……別に最初から、彩奈に敵うとは思ってねえし……」
「ちょっと、振られちゃった気分ー?」
「うっせ……」
拓真の揶揄い半分、励まし半分の言葉に応える剛士の声は、いつもよりずっと小さい。
「あの……シバさん……」
固い表情で口を開き、謝ろうとした彩奈を、拓真が手を上げて制した。
そしてニコッと笑うと、あっけらかんと言い放つ。
「気にしなくていいよ、彩奈ちゃん」
「いや、そんなわけには……」
「女の子が取り乱してるときは、何を言われようが、耐える。それが、紳士ってもんなのよ」
拓真がまた遠慮なく、グシャグシャと剛士の頭を撫でる。
「だからさっきのは、彩奈ちゃんが落ち着けるまで、きちんと話を聞かなかったゴウが悪い」
「……うん。反省してます……」
剛士は、拓真の手を振り払うこともせず、しょんぼりと、うな垂れた。
初めての大げんかは、痛くて、悲しくて。
自分が傷ついた痛みよりも何よりも、互いを傷つけて、失ってしまうことが、怖かった。
ごめんねと、大好きが言えた2人は、ほっとして、お互いの温もりを感じ合う。
2人は抱きしめ合ったまま、暫くの間、動けなかった。
「……2人とも、大丈夫? ちょっとは、落ち着けた?」
それまで、じっと皆を静観していた拓真が、柔らかい声で問いかけた。
悠里たちは、テーブルの向かいに腰掛けていた拓真を振り返る。
拓真は、2人の顔を交互に見つめ、優しい声で笑った。
「彩奈ちゃんはともかくとして、悠里ちゃんも、そんな大っきい声、出せたんだねぇ」
2人の近くにいたはずの剛士も、いつの間にか拓真の隣に戻っていた。
目を伏せて頬杖をついている剛士は、やはり、かなり落ち込んでいるように見えた。
心配そうに剛士を見つめた悠里に、拓真が、ニコッと笑いかける。
「あ、大丈夫だよ。これは、悠里ちゃん争奪戦で、彩奈ちゃんに競り負けたから、しょんぼりしてるだけ。な、ゴウ?」
拓真は冗談ぽく言うと、剛士の頭をクシャクシャと撫でた。
剛士は顔をふいと横にそむけ、ボソリと呟く。
「……別に最初から、彩奈に敵うとは思ってねえし……」
「ちょっと、振られちゃった気分ー?」
「うっせ……」
拓真の揶揄い半分、励まし半分の言葉に応える剛士の声は、いつもよりずっと小さい。
「あの……シバさん……」
固い表情で口を開き、謝ろうとした彩奈を、拓真が手を上げて制した。
そしてニコッと笑うと、あっけらかんと言い放つ。
「気にしなくていいよ、彩奈ちゃん」
「いや、そんなわけには……」
「女の子が取り乱してるときは、何を言われようが、耐える。それが、紳士ってもんなのよ」
拓真がまた遠慮なく、グシャグシャと剛士の頭を撫でる。
「だからさっきのは、彩奈ちゃんが落ち着けるまで、きちんと話を聞かなかったゴウが悪い」
「……うん。反省してます……」
剛士は、拓真の手を振り払うこともせず、しょんぼりと、うな垂れた。
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