#秒恋5 恋人同士まで、秒読みの、筈だった

ReN

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piece5 がんばろうよ

彩奈のSOS

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さすがの剛士も、堪えきれなかった。
はあっと、苛立ち混じりの鋭い溜め息をつくと、悠里から手を離す。
悠里は、ハッとして彼を止めようとしたが、間に合わなかった。

「お前、マジでいい加減にしろよ」
剛士が立ち上がり、真っ直ぐに彩奈を見据えた。
「お前は、元カノのことも何も知らないだろ。わかってねえのに、勝手に決めつけんな」


彩奈が、グッと言葉を飲み込んだ。

張り詰めていた空気は、ピシリとヒビ割れ、くずおれる。
彩奈の怒りは、根から引き抜かれてしまったように力を失い、ボトリと地面に落ちた。


「彩奈……」
悠里は震える声で彼女を呼び、手に触れようとする。
しかし、彩奈が後ずさるようにして、それを避けた。
悠里の手は空を掠り、虚しくベンチに落ちた。


うな垂れた彩奈は、ポツリと呟いた。
「……わかんないよ」

寂しい声だった。

「私は、シバさんから何も聞いてないし、拓真くんみたいに、過去のこと、知ってるわけじゃない」
彼女は静かに、視線を悠里に動かした。

「悠里も私には、何も言ってくれなかった」
彩奈は悠里に向かい、不器用に微笑んだ。
「私、待ってたんだけどさ……」


息が、止まりそうだった。
悠里の脳裏に、卒業式の前日のことが蘇る。

『まあ……悠里にも、いろいろあるわな。根掘り葉掘り聞き出すのは、良くないよね』

いつもの彩奈らしくない。
悠里の心の扉を開けるのを、躊躇う言葉だった。

『あ、もちろん、悠里が話したくなったら何でも聞くからね!』

それでも彩奈は優しく笑って、悠里に向かい両腕を広げてくれた――


あの日から。いや、あの日より前から、ずっと。
彩奈は、待っていてくれた。
扉を開けて欲しいと、悠里に向かって必死に祈ってくれていた。
あの日、彼女の口から漏れた寂しい躊躇いは、彩奈からのSOSだったのに。


「彩奈……」
悠里は、掠れた声で親友を呼ぶ。
彩奈に言わなければならない、たくさんの言葉。
濁流のように胸から溢れ出してしまい、悠里の喉を詰まらせる。

何から……何から、伝えればいい?

焦れば焦るほど、正しい始まりの言葉が見当たらない。
秩序を失った言葉は、声になれずに積み上がり、悠里の喉を堰き止める。

息が、できない。
悠里はただ、親友の悲しい顔を見上げることしかできなかった。


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