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piece5 がんばろうよ
見られたくなかった写真
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「こないだの公園でいいか?」
交差点に集まった皆の顔を見回し、剛士は言った。
その静かな声と表情からは、彼の感情は読み取れない。
言い知れぬ不安が、悠里の胸を覆い尽くす。
悠里と彩奈は、寄り添うようにして、ただ先を行く剛士と拓真の背を見て歩いた。
その公園の周囲は、公民館などの公共施設で、夕方以降は人の気配もない。
初めて来たときと同じ、そこだけが周囲から切り離されたような、小さな、静かな空間だった。
夕闇の中、ぽつりと佇むバスケットゴール。
藤棚の下に置かれた、木のテーブルとベンチ。
その近くには、ほんのりと柔らかな光を放つ電灯があった。
4人は言葉なく、テーブルを囲んで腰掛ける。
先日と同じように、悠里と彩奈は隣りに座り、その向かいに剛士と拓真が座った。
剛士は落ち着いた声音で、まずは悠里に問いかける。
「彩奈から連絡貰った。また呼び出されたんだよな。……どんな話だった?」
教室内での悠里とのやり取りがあったからか。
彩奈は、今日は口を開かなかった。
皆の視線が自分に降り注ぐ気配に、押しつぶされてしまいそうだ。
悠里は、不器用に浅い呼吸を繰り返し、何とか声を絞り出す。
「……あの、大丈夫。ちょっと、注意を受けただけだから……」
「どんな?」
剛士の声が、静かに追ってくる。
上手な言葉を探し出せなくて、悠里は唇を噛み、ぎゅっと両手を握り締めた。
「……言いたくない?」
剛士の声は、静かなままだった。
「じゃあ、俺から聞くよ」
そう言って彼は、封筒を取り出した。
長い指が、ゆっくりと、膨大な中身を取り出す。
瞬間、悠里は両手で口を押さえた――
「……何、これ」
傍らの彩奈が、震える声で呟いた。
彼女は、テーブルに置かれたそれに、恐る恐る手を伸ばす。
拓真は、ここに来る前に先に目にしていたのか、何も言わなかった。
ただ、痛ましいものを見るように、目に悲しい色を浮かべた。
悠里は、必死に目を逸らす。
写真だ。
生活指導室で見せられた、膨大なあれと同じ。
みんなには……剛士にだけは、見られたくなかったのに……
カンナ。
全身から体温が抜けて、小刻みに脚が震え出す。
今更ながら、カンナの目的を、理解した。
いや、むしろ何故、今まで想像すらしなかったのか。
カンナは男子生徒を集め、悠里に触れさせ、執拗に写真を撮った。
それが、あの日限りの嫌がらせである筈がない。
彼女の本当の目的は、この写真を学校に送り、悠里を貶め、追い詰めること。
そして何より、剛士に見せつけることだったのだ。
交差点に集まった皆の顔を見回し、剛士は言った。
その静かな声と表情からは、彼の感情は読み取れない。
言い知れぬ不安が、悠里の胸を覆い尽くす。
悠里と彩奈は、寄り添うようにして、ただ先を行く剛士と拓真の背を見て歩いた。
その公園の周囲は、公民館などの公共施設で、夕方以降は人の気配もない。
初めて来たときと同じ、そこだけが周囲から切り離されたような、小さな、静かな空間だった。
夕闇の中、ぽつりと佇むバスケットゴール。
藤棚の下に置かれた、木のテーブルとベンチ。
その近くには、ほんのりと柔らかな光を放つ電灯があった。
4人は言葉なく、テーブルを囲んで腰掛ける。
先日と同じように、悠里と彩奈は隣りに座り、その向かいに剛士と拓真が座った。
剛士は落ち着いた声音で、まずは悠里に問いかける。
「彩奈から連絡貰った。また呼び出されたんだよな。……どんな話だった?」
教室内での悠里とのやり取りがあったからか。
彩奈は、今日は口を開かなかった。
皆の視線が自分に降り注ぐ気配に、押しつぶされてしまいそうだ。
悠里は、不器用に浅い呼吸を繰り返し、何とか声を絞り出す。
「……あの、大丈夫。ちょっと、注意を受けただけだから……」
「どんな?」
剛士の声が、静かに追ってくる。
上手な言葉を探し出せなくて、悠里は唇を噛み、ぎゅっと両手を握り締めた。
「……言いたくない?」
剛士の声は、静かなままだった。
「じゃあ、俺から聞くよ」
そう言って彼は、封筒を取り出した。
長い指が、ゆっくりと、膨大な中身を取り出す。
瞬間、悠里は両手で口を押さえた――
「……何、これ」
傍らの彩奈が、震える声で呟いた。
彼女は、テーブルに置かれたそれに、恐る恐る手を伸ばす。
拓真は、ここに来る前に先に目にしていたのか、何も言わなかった。
ただ、痛ましいものを見るように、目に悲しい色を浮かべた。
悠里は、必死に目を逸らす。
写真だ。
生活指導室で見せられた、膨大なあれと同じ。
みんなには……剛士にだけは、見られたくなかったのに……
カンナ。
全身から体温が抜けて、小刻みに脚が震え出す。
今更ながら、カンナの目的を、理解した。
いや、むしろ何故、今まで想像すらしなかったのか。
カンナは男子生徒を集め、悠里に触れさせ、執拗に写真を撮った。
それが、あの日限りの嫌がらせである筈がない。
彼女の本当の目的は、この写真を学校に送り、悠里を貶め、追い詰めること。
そして何より、剛士に見せつけることだったのだ。
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