#秒恋5 恋人同士まで、秒読みの、筈だった

ReN

文字の大きさ
上 下
22 / 68
piece3 初めまして!

伝統のご挨拶

しおりを挟む
そのとき、悠里のスマートフォンが震え出した。
待ちに待った、彩奈からのメッセージだ。

『無事に3人集合したよ!
今から行くね!
面白いよ』

最後の不思議な言葉に、悠里は微笑んだまま首を傾げる。
意味はよくわからなかったが、間もなく皆が到着するという事実に浮き足立つ悠里には、それを考える余裕はなかった。

悠里は、傍らの父に笑いかける。
「彩奈と、勇誠学園の2人のお友だち、駅に着いたって。もうすぐ来るよ」
「了解! 彩奈ちゃんに会うのも、久しぶりだなあ」
「ふふ、彩奈も楽しみにしてたよ」
彩奈は、父とも数度会ったことがあり、もう気軽に話ができる間柄である。

さあ、母にも声をかけて、何か手伝おう。
悠里は良い匂いの漂うキッチンに目を向けた。
「私、お母さんのとこ行ってくるね!」
父に手を振り、悠里はパタパタとキッチンに向かった。


軽やかにインターフォンが鳴り響く。
ドキン、と胸が高鳴る。
「来た……」
緊張した様子で呟く悠里を見つめ、母がにっこり笑った。
「さあ、行きましょ!」

悠里、そして母と父が、いそいそと玄関に向かう。
ひとつ深呼吸をして、悠里は扉を開けた。
「いらっしゃい!」
笑顔で皆を迎えた悠里の目が、きょとんと丸くなる。

ニコニコ顔で、手を振ってくる彩奈。
その横にいる剛士と拓真は、何故か制服姿だった。

「あれ? ……もしかして今日、学校だった?」
心配になり、悠里がそっと、剛士たちに問いかける。
剛士は、口元に笑みを浮かべて、首を横に振った。


母の柔らかな声が耳を打つ。
「皆さん、いらっしゃい! さあ、どうぞ、入って?」
その声にハッとした悠里は、扉を大きく開いて皆を招き入れた。
「どうぞ」

剛士と拓真が、しっかりとした足取りで進み出た。
そして、母と父の前に並んで微笑む。
「初めまして。今日はお時間をいただき、ありがとうございます」

初めて、耳にする。
少しよそ行きな、剛士の爽やかな声音。
悠里と彩奈は、顔を見合わせた。

「勇誠学園2年の、柴崎剛士と申します」
「同じく勇誠学園2年の、酒井拓真です。よろしくお願いします」
そうして2人揃って、両親に向かい、頭を下げた。


母と父が、笑顔で拍手をしている。
「まあ、ご丁寧に」
「勇誠学園伝統のご挨拶だね」

――伝統?
初めて聞くワードに、悠里と彩奈は再び顔を見合わせる。

そんな2人をよそに、両親がいそいそと、剛士たちを家に招き入れていた。
悠里たちも慌てて中に入り、連れ立ってリビングに向かった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。 彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。 亀じゃなくて良かったな・・ と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。 結は吾郎が何度振っても諦めない。 むしろ、変に条件を出してくる。 誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

#秒恋7 それぞれの翌日――壊れた日常を取り戻すために

ReN
恋愛
#秒恋7 それぞれの翌日――壊れた日常を取り戻すために 悠里と剛士を襲った悲しい大事件の翌日と翌々日を描いた今作。 それぞれの家族や、剛士の部活、そして2人の親友を巻き込み、悲しみが膨れ上がっていきます。 壊れてしまった幸せな日常を、傷つき閉ざされてしまった悠里の心を、剛士は取り戻すことはできるのでしょうか。 過去に登場した悠里の弟や、これまで登場したことのなかった剛士の家族。 そして、剛士のバスケ部のメンバー。 何より、親友の彩奈と拓真。 周りの人々に助けられながら、壊れた日常を取り戻そうと足掻いていきます。 やはりあの日の大事件のショックは大きくて、簡単にハッピーエンドとはいかないようです…… それでも、2人がもう一度、手を取り合って、抱き合って。 心から笑い合える未来を掴むために、剛士くんも悠里ちゃんもがんばっていきます。 心の傷。トラウマ。 少しずつ、乗り越えていきます。 ぜひ見守ってあげてください!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

愛、焦がれ

環流 虹向
恋愛
みせいねん、らめっ。 転載防止のため、毎話末に[環流 虹向/愛、焦がれ]をつけています。 あぶないってことは分かってる けど、会ってみたいから会いにいく 愛が欲しいから会いにいく だから今日も見える愛を求めて君に会いにいく まいべすと 下北バンドマンと女子高生の夜 / ぽわん

最愛の彼

詩織
恋愛
部長の愛人がバレてた。 彼の言うとおりに従ってるうちに私の中で気持ちが揺れ動く

処理中です...