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piece3 初めまして!
悠里と父
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土曜日。
悠里は、朝からソワソワしていた。
今日は、剛士と拓真を両親に紹介する日だ。
約束は、14時。
皆でお茶を飲みながら、話を楽しもうという時間帯である。
母が、楽しげにお菓子を焼いている。
父は、今は書斎にいて、弟は既に、部活の練習に出かけていた。
これから皆を招くリビングに、悠里は1人きり。とても静かだった。
悠里は落ち着きなく、母の手伝いをしたり、掃除をしたりしていた。
剛士と拓真には、最寄りの駅で彩奈と待ち合わせをし、3人で家に来てもらう予定だ。
集合したら、彩奈から連絡が来るはずである。
キッチンからは、お菓子の焼ける良い香りが漂ってきた。
「お、いい匂いだなあ」
2階の書斎から、父が伸びをしながら降りてくる。
今日の父は、すらりとした細身のパンツに、綺麗めのシャツを合わせている。
ロマンスグレーの髪は、サイドは短めに刈り上げ、トップは爽やかに流してある。
娘の悠里から見ても、さり気ないお洒落の似合う、いわゆるイケオジな父だ。
父は悠里の姿を認めると、にこりと優しい笑顔を見せた。
「今日は、14時だったね?」
「う、うん」
今週の父は、ずっと帰宅が遅く、顔を合わせて今日のことを話す暇がなかった。
「お父さん。今日は、よろしくね」
上目遣いに父を見つめ、悠里は、ぺこりと頭を下げる。
「うん、こちらこそね」
「あ、そうだ」
拓真の顔が思い浮かび、悠里は、ポンと手を打った。
「お母さんから聞いてると思うんだけど、お友だちの1人がギターを弾く人でね。すごくお洒落なんだ」
「ああ、金髪の子なんだって?」
父が、明るい顔で頷いた。
「勇誠学園は昔から、制服さえきちんと着ていれば、髪色やピアスは自由だからね。お洒落な子が多かったよ」
「そうなんだ」
ホッとして、悠里は笑顔になる。
「そうそう、外見に関する校則は寛容で、羨ましかったね。だからというわけでもないけど、お父さん、大学入ってから金髪にしたぞ」
「えっ? そうだったの?」
「大学デビューってヤツだな」
「あはは」
悠里は手を叩いて笑う。
「お父さん、写真ないの? 見たい!」
「はっは、あったかなあ?」
まあ今度ね、と笑うと、父は戯けたように呟いた。
「ああ~どうしよう。お父さん、お友だちに気に入って貰えるかなあ」
「な、何それ」
悠里は思わず、吹き出してしまう。
父も笑いながら答えた。
「そりゃあ、悠里の大切なお友だちだからね。気に入られたいよ」
「ふふっ」
父の優しい目を見つめ、悠里は微笑む。
「大丈夫だよ、お父さんは。面白くて、優しいもん」
父娘で笑い合う。
緊張していた悠里の心は、いつの間にか、柔らかくほぐれていた。
父のおかげだ。
悠里は、朝からソワソワしていた。
今日は、剛士と拓真を両親に紹介する日だ。
約束は、14時。
皆でお茶を飲みながら、話を楽しもうという時間帯である。
母が、楽しげにお菓子を焼いている。
父は、今は書斎にいて、弟は既に、部活の練習に出かけていた。
これから皆を招くリビングに、悠里は1人きり。とても静かだった。
悠里は落ち着きなく、母の手伝いをしたり、掃除をしたりしていた。
剛士と拓真には、最寄りの駅で彩奈と待ち合わせをし、3人で家に来てもらう予定だ。
集合したら、彩奈から連絡が来るはずである。
キッチンからは、お菓子の焼ける良い香りが漂ってきた。
「お、いい匂いだなあ」
2階の書斎から、父が伸びをしながら降りてくる。
今日の父は、すらりとした細身のパンツに、綺麗めのシャツを合わせている。
ロマンスグレーの髪は、サイドは短めに刈り上げ、トップは爽やかに流してある。
娘の悠里から見ても、さり気ないお洒落の似合う、いわゆるイケオジな父だ。
父は悠里の姿を認めると、にこりと優しい笑顔を見せた。
「今日は、14時だったね?」
「う、うん」
今週の父は、ずっと帰宅が遅く、顔を合わせて今日のことを話す暇がなかった。
「お父さん。今日は、よろしくね」
上目遣いに父を見つめ、悠里は、ぺこりと頭を下げる。
「うん、こちらこそね」
「あ、そうだ」
拓真の顔が思い浮かび、悠里は、ポンと手を打った。
「お母さんから聞いてると思うんだけど、お友だちの1人がギターを弾く人でね。すごくお洒落なんだ」
「ああ、金髪の子なんだって?」
父が、明るい顔で頷いた。
「勇誠学園は昔から、制服さえきちんと着ていれば、髪色やピアスは自由だからね。お洒落な子が多かったよ」
「そうなんだ」
ホッとして、悠里は笑顔になる。
「そうそう、外見に関する校則は寛容で、羨ましかったね。だからというわけでもないけど、お父さん、大学入ってから金髪にしたぞ」
「えっ? そうだったの?」
「大学デビューってヤツだな」
「あはは」
悠里は手を叩いて笑う。
「お父さん、写真ないの? 見たい!」
「はっは、あったかなあ?」
まあ今度ね、と笑うと、父は戯けたように呟いた。
「ああ~どうしよう。お父さん、お友だちに気に入って貰えるかなあ」
「な、何それ」
悠里は思わず、吹き出してしまう。
父も笑いながら答えた。
「そりゃあ、悠里の大切なお友だちだからね。気に入られたいよ」
「ふふっ」
父の優しい目を見つめ、悠里は微笑む。
「大丈夫だよ、お父さんは。面白くて、優しいもん」
父娘で笑い合う。
緊張していた悠里の心は、いつの間にか、柔らかくほぐれていた。
父のおかげだ。
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