#秒恋5 恋人同士まで、秒読みの、筈だった

ReN

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piece2 紹介してくれないか?

信じて?

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剛士が、そっと手を差し伸べてくれる。
悠里は彼を見上げ、その大きな手を、きゅっと握った。

土曜日の作戦会議をしながら歩く、彩奈と拓真。
気合い充分な2人から、少し距離を取って歩く。


「ゴウさん……」
悠里は、おずおずと切れ長の瞳を見上げた。
「土曜日。ごめんなさい……」
「バカ、気にすんな」
大きな手が、悠里の頭をクシャクシャと撫でる。

剛士は思いを込めて、悠里の冷たい手を握った。
「お前のことの方が、大事だよ」
「でも……」


土曜日は、本当はエリカとの話し合いをする日だったのに――


悠里は、自分に向かい頭を下げてくれた、エリカの真摯な気持ちを思い返す。

『悠里ちゃん。最後にもう一度、剛士と話をさせてください』

『剛士の顔を見て、謝りたい。あのときのお互いの気持ち、ちゃんと理解して、終わりたいんだ』


お互いに、正直な気持ちをぶつけることなく、別れた剛士とエリカ。
心に傷を残したままになってしまった、剛士とエリカ。

土曜日は、2人が過去の思いを解き放ち、互いに理解し、許し合い。
そうして、前に進むための日だったのに。

そんな大切な話し合いの場を、自分のために、延期させてしまう。
エリカの大輪の花束のような、美しい笑顔を、裏切ってしまう。
悠里は、きつく唇を噛んだ。


「……お前って本当、いいヤツだよな」
悠里を見つめ、剛士は優しく微笑する。

「大丈夫だって。事情は説明しとく。日を改めて、ちゃんと話もする」
長い指が、労るように悠里の手を握り込む。
「だから、何も心配すんな」

剛士の温もりに縋るように、悠里も彼の手を握り返した。
泣かないように我慢するのに、必死だった。


「……悠里」
ふいに、剛士が立ち止まった。
つられて、悠里も足を止める。

綺麗な黒の瞳が、真っ直ぐに悠里を映し出した。
剛士はそっと、彼女の耳元に、唇を寄せる。

「好きだよ」
「……え?」

クシャクシャッと、大きな手が悠里の髪を撫でる。
「悠里のことは、俺が守る」
「ゴウ、さん……」

優しい切れ長の瞳が、悠里を覗き込んだ。
「信じて?」


大好きな、剛士の声が、胸に響く。
力をくれる。
温めてくれる。

悠里は必死に、剛士を見上げて、微笑んでみせた。
「……うん。うん、ゴウさん」
「ん」
剛士が、ふわりと甘い微笑を浮かべてくれる。

「さ、行こうぜ」
「……うん!」


悠里の心にあった悲しみや不安、自責の念。
重苦しい感情は、優しく解けて、消えていく。

2人、手を取り合う。
2人で、笑い合う。

そうして悠里と剛士は、先を歩く親友たちの背を、追いかけた。

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