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piece2 紹介してくれないか?
小さな公園
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19時過ぎ、悠里と彩奈は集合場所の交差点にいた。
いつもは、心の湧き立つ待ち合わせ場所。
今日は、重くて暗い。
2人は言葉少なに、剛士と拓真を待っていた。
程なくして、こちらに向かって駆けてくる人影が見える。
「おーい!」
手を振りながら走る人影から、拓真の声が飛んできた。
「お疲れー」
同じように、彩奈が手を振り応える。
「ごめんな、待たせて」
剛士が、彩奈そして悠里を見つめた。
「いいえ」
悠里は首を振り、すまなそうに頭を下げた。
少しだけ、息を乱した剛士。
制服を着てはいるが、ネクタイは着けていない。
それだけ急いで来てくれたのだと思うと、ますます悠里の胸は痛む。
「じゃあ話は、公園に着いてからにするか」
剛士は、優しい声で皆を促す。
そうして、俯いたまま唇を噛んでいる悠里の手を、そっと握った。
悲しそうに自分を見上げる悠里に、剛士は大丈夫だというように、微笑みかけた。
剛士の提案した公園は、待ち合わせた交差点から、歩いて5分程度のところにあった。
駅に続く大通りから、ひとつ外れた細い道。
公園はそこに、ぽつんと存在していた。
小さな敷地に、バスケットゴールがひとつ。
端には藤棚があり、木製のテーブルとベンチが置いてある。
ひと気もなく、ここだけが、現実から切り取られているような。
静かな、静かな空間だった。
「へえ。学校の近くに、こんなとこあったんだあ」
拓真が、明るい声で言った。
「バスケゴールがある公園は、全チェック済み」
冗談めかした声音で、剛士が笑う。
藤棚の下、テーブルを囲んで座る。
傍にある電灯が、4人を仄かに照らし出した。
今日は、悠里の隣りに彩奈。
その向かいに、剛士と拓真が並んで腰掛ける。
剛士が口火を切った。
「じゃあ、早速だけど。話してくれるか?」
その視線は、主に彩奈の方に注がれている。
彩奈が小さく頷き、簡潔に事情を説明した。
「今日、悠里が生活指導の先生に呼び出されたの」
剛士、拓真の目に、驚きの色が浮かぶ。
しかし2人は口を挟まず、彩奈の声に耳を傾けた。
「内容は、学校の相談窓口に届いた、クレームのメール」
そこで一瞬、彩奈が言い難そうに唇を引き締める。
しかし彼女は気持ちを立て直すと、小さく息を吸って2人に話した。
「悠里が、他校の男子を、家に連れ込んでるって」
「……それって、オレたちだよね」
拓真が、小さな声で呟く。
「一体、誰が……」
「わからない」
悠里の代わりに、彩奈が答えた。
「メールは、学校のホームページ経由で来たものなんだって。それなら匿名で送れちゃうし、学校は送り主を調査する予定はないって」
「そっかあ……」
わかった、というように拓真は小さく頷き、沈黙した。
次いで剛士が、悠里に目を向け、問いかける。
「それで、学校としては、何て?」
「……友だちを家に招いただけで、両親もそれを知っているのなら、問題にはしないって。今日は、それで済みました」
「……そっか」
剛士は切れ長の目を伏せ、考えを巡らせている。
悠里は唇を噛み、向かいにいる彼の顔を、そっと見つめた。
いつもは、心の湧き立つ待ち合わせ場所。
今日は、重くて暗い。
2人は言葉少なに、剛士と拓真を待っていた。
程なくして、こちらに向かって駆けてくる人影が見える。
「おーい!」
手を振りながら走る人影から、拓真の声が飛んできた。
「お疲れー」
同じように、彩奈が手を振り応える。
「ごめんな、待たせて」
剛士が、彩奈そして悠里を見つめた。
「いいえ」
悠里は首を振り、すまなそうに頭を下げた。
少しだけ、息を乱した剛士。
制服を着てはいるが、ネクタイは着けていない。
それだけ急いで来てくれたのだと思うと、ますます悠里の胸は痛む。
「じゃあ話は、公園に着いてからにするか」
剛士は、優しい声で皆を促す。
そうして、俯いたまま唇を噛んでいる悠里の手を、そっと握った。
悲しそうに自分を見上げる悠里に、剛士は大丈夫だというように、微笑みかけた。
剛士の提案した公園は、待ち合わせた交差点から、歩いて5分程度のところにあった。
駅に続く大通りから、ひとつ外れた細い道。
公園はそこに、ぽつんと存在していた。
小さな敷地に、バスケットゴールがひとつ。
端には藤棚があり、木製のテーブルとベンチが置いてある。
ひと気もなく、ここだけが、現実から切り取られているような。
静かな、静かな空間だった。
「へえ。学校の近くに、こんなとこあったんだあ」
拓真が、明るい声で言った。
「バスケゴールがある公園は、全チェック済み」
冗談めかした声音で、剛士が笑う。
藤棚の下、テーブルを囲んで座る。
傍にある電灯が、4人を仄かに照らし出した。
今日は、悠里の隣りに彩奈。
その向かいに、剛士と拓真が並んで腰掛ける。
剛士が口火を切った。
「じゃあ、早速だけど。話してくれるか?」
その視線は、主に彩奈の方に注がれている。
彩奈が小さく頷き、簡潔に事情を説明した。
「今日、悠里が生活指導の先生に呼び出されたの」
剛士、拓真の目に、驚きの色が浮かぶ。
しかし2人は口を挟まず、彩奈の声に耳を傾けた。
「内容は、学校の相談窓口に届いた、クレームのメール」
そこで一瞬、彩奈が言い難そうに唇を引き締める。
しかし彼女は気持ちを立て直すと、小さく息を吸って2人に話した。
「悠里が、他校の男子を、家に連れ込んでるって」
「……それって、オレたちだよね」
拓真が、小さな声で呟く。
「一体、誰が……」
「わからない」
悠里の代わりに、彩奈が答えた。
「メールは、学校のホームページ経由で来たものなんだって。それなら匿名で送れちゃうし、学校は送り主を調査する予定はないって」
「そっかあ……」
わかった、というように拓真は小さく頷き、沈黙した。
次いで剛士が、悠里に目を向け、問いかける。
「それで、学校としては、何て?」
「……友だちを家に招いただけで、両親もそれを知っているのなら、問題にはしないって。今日は、それで済みました」
「……そっか」
剛士は切れ長の目を伏せ、考えを巡らせている。
悠里は唇を噛み、向かいにいる彼の顔を、そっと見つめた。
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