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piece1 密告
好ましくない情報
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「橘さん」
指導教諭が、厳かな声音で口火を切った。
歳の頃は、50代前半であろうか。
銀縁眼鏡の奥にある厳格な目が、真っ直ぐに悠里を射抜いた。
「貴女の交友関係に対して、あまり好ましくない情報が寄せられました」
「……え?」
まったく予想の外にあった指導教諭の言葉。
悠里は目を丸くし、首を傾げた。
悠里の困惑した空気を読み取ったのだろう。
指導教諭は、一瞬パソコンの画面に目を落とし、それから悠里に向き直った。
「学校の相談窓口に、メールが届きました。橘悠里さんが、ご両親が仕事で家を空けがちであるのをいいことに、男子校の生徒を頻繁に連れ込んでいると」
「え?」
ズキリ、と胸に深い痛みが走る。
指導教諭は抑揚のない声で、悠里に尋ねた。
「これは、事実でしょうか」
悠里の脳裏に、剛士と拓真の笑顔が浮かぶ。
『男子校の生徒』というのが、彼らを指していることは間違いない。
けれど、『連れ込んでいる』という言われ方は、あまりにも自分の意識からは、かけ離れていて。
悠里は少しの間、頭を働かせることができなかった。
暫くの沈黙の後、悠里は注意深く回答する。
「……あの。お友だちを自宅に招待したことは、何度かあります」
「頻度としては、どの程度ですか?」
「……月に1、2回程度です。一緒にランチをしたりですとか」
こう説明することで、悠里はさり気なく、集まりが日中であることを示した。
指導教諭が、悠里の心の動きを見逃すまいとするかのように、じっと見つめてくる。
悠里は膝の上で、ぎゅっと両手を握りしめ、その視線に耐える。
しっかりと、答えなければ。
自分が下手な回答をすれば、剛士や拓真、そして彩奈に飛び火するかも知れない。
悠里は指導教諭の尋問にできるだけ簡潔に答え、必要以上に詮索されまいとする。
「男子校の生徒」が、どこの学校の、誰であるのかを質問されないで済むように。
そこに、他の女子生徒がいたかどうかを、聞かれずに済むように……
自分が、しっかりしなくては。
悠里は唇を噛み締めながらも、指導教諭からの厳しい視線から目を逸らさなかった。
指導教諭が、厳かな声音で口火を切った。
歳の頃は、50代前半であろうか。
銀縁眼鏡の奥にある厳格な目が、真っ直ぐに悠里を射抜いた。
「貴女の交友関係に対して、あまり好ましくない情報が寄せられました」
「……え?」
まったく予想の外にあった指導教諭の言葉。
悠里は目を丸くし、首を傾げた。
悠里の困惑した空気を読み取ったのだろう。
指導教諭は、一瞬パソコンの画面に目を落とし、それから悠里に向き直った。
「学校の相談窓口に、メールが届きました。橘悠里さんが、ご両親が仕事で家を空けがちであるのをいいことに、男子校の生徒を頻繁に連れ込んでいると」
「え?」
ズキリ、と胸に深い痛みが走る。
指導教諭は抑揚のない声で、悠里に尋ねた。
「これは、事実でしょうか」
悠里の脳裏に、剛士と拓真の笑顔が浮かぶ。
『男子校の生徒』というのが、彼らを指していることは間違いない。
けれど、『連れ込んでいる』という言われ方は、あまりにも自分の意識からは、かけ離れていて。
悠里は少しの間、頭を働かせることができなかった。
暫くの沈黙の後、悠里は注意深く回答する。
「……あの。お友だちを自宅に招待したことは、何度かあります」
「頻度としては、どの程度ですか?」
「……月に1、2回程度です。一緒にランチをしたりですとか」
こう説明することで、悠里はさり気なく、集まりが日中であることを示した。
指導教諭が、悠里の心の動きを見逃すまいとするかのように、じっと見つめてくる。
悠里は膝の上で、ぎゅっと両手を握りしめ、その視線に耐える。
しっかりと、答えなければ。
自分が下手な回答をすれば、剛士や拓真、そして彩奈に飛び火するかも知れない。
悠里は指導教諭の尋問にできるだけ簡潔に答え、必要以上に詮索されまいとする。
「男子校の生徒」が、どこの学校の、誰であるのかを質問されないで済むように。
そこに、他の女子生徒がいたかどうかを、聞かれずに済むように……
自分が、しっかりしなくては。
悠里は唇を噛み締めながらも、指導教諭からの厳しい視線から目を逸らさなかった。
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