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piece1 密告
生活指導室へ
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「橘さん。放課後、生徒指導室へ」
卒業式を終えた、翌週月曜日のことだった。
1年生と2年生だけしかいない、少し広く感じる学内。
春休みへのカウントダウンに入り、皆がワクワクと浮き立っている。
悠里が、生徒指導教諭に声をかけられたのは、彩奈と共に廊下を歩いていたときだった。
これまで、挨拶以外の会話をしたことのない、厳格で有名な教師。
悠里は、緊張のあまり背筋を伸ばし、慌てて返事をした。
「は、はい!」
生徒指導教諭は、表情を崩すことなく小さく頷き、去って行った。
「……うわあ、マジで?」
彩奈が、赤メガネの下の目を丸くして、心配そうに悠里を見つめる。
「悠里、何か心当たりある?」
「な、ない……」
悠里は、おろおろと首を横に振った。
放課後、悠里は緊張の面持ちで生徒指導室に向かっていた。
隣りには何故か、心配そうな目をした、担任教師の皆川までついている。
大きな問題が起こっている気配を、充分に察知できる。
しかしその問題の正体は、悠里には皆目見当もつかなかった。
「あの、先生……」
まだ20代の若い担任の女性教師に、悠里は声をかけてみる。
「大丈夫よ、橘さん」
皆川は、悠里以上に緊張しているようだ。
しかし、悠里を励まそうということなのか、しっかりと頷いて答えた。
「先生、橘さんのこと、信じてるからね」
どういう意味なのだろう。
ますます訳がわからなくなるとともに、不安だけが大きくなり、悠里は口をつぐんだ。
「失礼します」
皆川が生徒指導室のドアをノックする。
ややあって、中から「どうぞ」と返事があった。
皆川はドアを開け、優しく悠里の背に手を当てた。
悠里は緊張する喉を振り絞り、「失礼します」と声を掛けた。
初めて入る生徒指導室。
部屋の真ん中に大きなテーブルがあり、その向こう側に指導教諭がいた。
「どうぞ、お座りください」
ノートパソコンの画面から目を離し、指導教諭は優雅に椅子を指し示した。
一挙手一投足を、厳しい目で見られている気がする。
悠里の心は、ますます縮み上がった。
悠里の隣りに座ってくれた担任の皆川の気配だけが、頼りだ。
悠里は心を奮い立たせて、指導教諭の目を見つめる。
卒業式を終えた、翌週月曜日のことだった。
1年生と2年生だけしかいない、少し広く感じる学内。
春休みへのカウントダウンに入り、皆がワクワクと浮き立っている。
悠里が、生徒指導教諭に声をかけられたのは、彩奈と共に廊下を歩いていたときだった。
これまで、挨拶以外の会話をしたことのない、厳格で有名な教師。
悠里は、緊張のあまり背筋を伸ばし、慌てて返事をした。
「は、はい!」
生徒指導教諭は、表情を崩すことなく小さく頷き、去って行った。
「……うわあ、マジで?」
彩奈が、赤メガネの下の目を丸くして、心配そうに悠里を見つめる。
「悠里、何か心当たりある?」
「な、ない……」
悠里は、おろおろと首を横に振った。
放課後、悠里は緊張の面持ちで生徒指導室に向かっていた。
隣りには何故か、心配そうな目をした、担任教師の皆川までついている。
大きな問題が起こっている気配を、充分に察知できる。
しかしその問題の正体は、悠里には皆目見当もつかなかった。
「あの、先生……」
まだ20代の若い担任の女性教師に、悠里は声をかけてみる。
「大丈夫よ、橘さん」
皆川は、悠里以上に緊張しているようだ。
しかし、悠里を励まそうということなのか、しっかりと頷いて答えた。
「先生、橘さんのこと、信じてるからね」
どういう意味なのだろう。
ますます訳がわからなくなるとともに、不安だけが大きくなり、悠里は口をつぐんだ。
「失礼します」
皆川が生徒指導室のドアをノックする。
ややあって、中から「どうぞ」と返事があった。
皆川はドアを開け、優しく悠里の背に手を当てた。
悠里は緊張する喉を振り絞り、「失礼します」と声を掛けた。
初めて入る生徒指導室。
部屋の真ん中に大きなテーブルがあり、その向こう側に指導教諭がいた。
「どうぞ、お座りください」
ノートパソコンの画面から目を離し、指導教諭は優雅に椅子を指し示した。
一挙手一投足を、厳しい目で見られている気がする。
悠里の心は、ますます縮み上がった。
悠里の隣りに座ってくれた担任の皆川の気配だけが、頼りだ。
悠里は心を奮い立たせて、指導教諭の目を見つめる。
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