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piece5 2人の恋、4人の友情の始まりは
ゴウって、呼べよ
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悠里と剛士、そして谷は校長室を辞した。
「本当に、すまないね。橘さん」
職員用の出入り口まで来たところで、谷は悠里を見つめ、ゆっくりと言った。
「分校の教諭は精鋭揃いだから、ひとまずは安心してよいと思う。……しかし、また何か心配なことがあれば、遠慮なく私に相談してくれ」
「ありがとうございます」
谷の立場としては、これが精一杯の言葉であることを理解し、悠里はそっと頷いた。
谷は剛士に目をやる。
「柴崎。彼女をしっかり守ってやれよ」
「はい」
「……ま、言うまでもないか」
しっかりと応えた剛士に、ふっと谷は笑った。
「あんなに熱くなったお前を、初めて見たぞ」
悠里を救出したときのことを思い返し、谷は言う。
バスケの試合ですら冷静なお前がな、と言うか早いか、剛士の頭を捕らえ、グシャグシャと撫でた。
「うわ」
突然のことに避けられず、剛士は目を白黒させた。
綺麗な黒髪が、無残な形に崩れてしまう。
「お前ら、気を付けて帰れよー!」
谷は豪快に笑い、去って行った。
「……大丈夫ですか?」
笑ってはいけないと思いつつ、悠里は口元を緩めながら囁いた。
剛士は頭を振り、溜め息をついた。
「いい先生なんだけど、たまにうっとおしい」
堪えきれず悠里は笑い出す。
その拍子に、サブバックに入れていた袋が、かさりと音を立てた。
「あ、」
悠里は慌てて袋を取り出し、剛士に差し出す。
「そうだ、彩奈から預かったんです。試合の写真」
「昨日の? 早い」
剛士は笑顔になり、受け取った。
「すごく、素敵でしたよ!」
ここに来る前、悠里も同じものを貰ったのだ。
美しいフォームでシュートをする剛士。
仲間とハイタッチする笑顔。
そしてボールを追うひたむきな姿。
試合の緊張感、剛士の勝利への意識までも写しこんだ、綺麗な写真ばかりだった。
写真を見たときの感動が蘇り、自然と悠里の顔がほころぶ。
「へえ。じゃ、今見よう」
剛士も微笑み、廊下の壁にもたれかかると、袋から膨大な写真を取り出した。
悠里も同じように、隣にもたれかかる。
剛士は1枚1枚、丁寧に見ては悠里に写真を手渡した。
「……すごいな。うまく撮れてる」
感心した様子で剛士が呟く。
その様子に、悠里も嬉しくなる。
改めて見返しても、戦う剛士の姿を生き生きと捉えた、素晴らしい写真ばかりだった。
彩奈の技術、何より写真に対する熱意に敬服するばかりだ。
最後の1枚。
剛士は一瞬目を丸くした後、ふわりと微笑を浮かべた。
「……へえ。いい写真」
どの写真だろう。
悠里は彼の手元を覗き込み、そして驚きに頬を赤らめた。
「これ……」
剛士が持っていた最後の写真は、悠里の横顔だった。
試合前、観客席から剛士を見つめていたとき、ふいに撮られたことを思い出す。
この写真は、悠里が貰ったものの中には入っていなかった。
わざとそうしたに違いない。
「彩奈ったら……」
悠里は恥ずかしさに目を伏せる。
剛士が微笑んだ。
「……拓真から聞いたけど。彩奈の写真のこと、暖かい空気とか、優しい色合いが詰まってて大好きだって、言ってたんだってな」
優しい声で剛士は言った。
「それ、よくわかった。俺、この写真好きだから」
その言葉は、悠里の胸をトクトクと揺さぶる。
「柴崎さん……」
「悠里」
剛士が、ゆっくりと囁いた。
「敬語で喋るの、やめろよ」
「え……?」
「それから、」
剛士が腰を屈め、目線を悠里の高さまで下ろした。
「ゴウって、呼べよ」
剛士の、切れ長の綺麗な瞳が、真っ直ぐに悠里を見つめる。
息が止まりそうだった。
彼の視線で熱を帯びてしまう頬を、悠里は持て余してしまう。
「悠里」
彼の低くて暖かい声が、柔らかく耳をくすぐる。
「……ゴウ、さん」
やっとの思いで、悠里は応えた。
心臓が、甘やかに飛び跳ねていた。
ふっと、剛士が小さく吹き出す。
「ん。……まあ、始めはそれでいいや」
そして、歩き始める。
「帰ろうぜ、悠里」
悠里は心のなかで、剛士の声を反復した。
『始めはそれでいいや』
そう。自分たちは、始まったばかりなのだ。
胸の高鳴りが、心地いい。
「……うん!」
頬をほころばせ、悠里は彼の後を追った。
***
「あ、」
校門では、金髪頭と赤いメガネの2人が、話し込んでいた。
盛り上がりすぎて大声になっており、周囲からの注目を浴びている。
「拓真!」
「彩奈!」
それぞれが親友の名を呼ぶ。
悠里と剛士の姿に気づくと、2人はパッと顔を輝かせ、大きく手を振ってきた。
「やっほー! 終わったのー?」
悠里たちは2人の元に駆け寄る。
「うん! 彩奈、来てくれたの?」
「やっぱり、心配でさあ」
赤メガネの奥の瞳が、柔らかく悠里を見つめた。
「それで、拓真くんに連絡取って、一緒に待ってたってわけ」
「ありがと、彩奈」
いつだって暖かい親友の笑顔に、悠里は微笑み返した。
「お疲れ、ゴウ!」
「おう」
拓真の声に軽い返事を返し、剛士は彩奈に言った。
「写真、ありがとな」
「いえいえ! お礼はジュースでいいですよ!」
彩奈の言葉に、思わず剛士は笑った。
「お、試合の写真?」
拓真が笑顔で食いつく。
「オレも見たい!」
「じゃ、どっか店行くか?」
剛士は3人の顔を見回した。
「俺、ジュース奢らなくちゃいけないし」
「さんせーい!」
彩奈が両手を上げて笑う。
「ごちでーす!」
「お前には奢らねえよ」
軽口を叩きあう拓真と剛士。
その光景に、悠里たちは笑い出す。
偶然の出会いから始まった4人の友情が、ゆっくりと動き出した。
「本当に、すまないね。橘さん」
職員用の出入り口まで来たところで、谷は悠里を見つめ、ゆっくりと言った。
「分校の教諭は精鋭揃いだから、ひとまずは安心してよいと思う。……しかし、また何か心配なことがあれば、遠慮なく私に相談してくれ」
「ありがとうございます」
谷の立場としては、これが精一杯の言葉であることを理解し、悠里はそっと頷いた。
谷は剛士に目をやる。
「柴崎。彼女をしっかり守ってやれよ」
「はい」
「……ま、言うまでもないか」
しっかりと応えた剛士に、ふっと谷は笑った。
「あんなに熱くなったお前を、初めて見たぞ」
悠里を救出したときのことを思い返し、谷は言う。
バスケの試合ですら冷静なお前がな、と言うか早いか、剛士の頭を捕らえ、グシャグシャと撫でた。
「うわ」
突然のことに避けられず、剛士は目を白黒させた。
綺麗な黒髪が、無残な形に崩れてしまう。
「お前ら、気を付けて帰れよー!」
谷は豪快に笑い、去って行った。
「……大丈夫ですか?」
笑ってはいけないと思いつつ、悠里は口元を緩めながら囁いた。
剛士は頭を振り、溜め息をついた。
「いい先生なんだけど、たまにうっとおしい」
堪えきれず悠里は笑い出す。
その拍子に、サブバックに入れていた袋が、かさりと音を立てた。
「あ、」
悠里は慌てて袋を取り出し、剛士に差し出す。
「そうだ、彩奈から預かったんです。試合の写真」
「昨日の? 早い」
剛士は笑顔になり、受け取った。
「すごく、素敵でしたよ!」
ここに来る前、悠里も同じものを貰ったのだ。
美しいフォームでシュートをする剛士。
仲間とハイタッチする笑顔。
そしてボールを追うひたむきな姿。
試合の緊張感、剛士の勝利への意識までも写しこんだ、綺麗な写真ばかりだった。
写真を見たときの感動が蘇り、自然と悠里の顔がほころぶ。
「へえ。じゃ、今見よう」
剛士も微笑み、廊下の壁にもたれかかると、袋から膨大な写真を取り出した。
悠里も同じように、隣にもたれかかる。
剛士は1枚1枚、丁寧に見ては悠里に写真を手渡した。
「……すごいな。うまく撮れてる」
感心した様子で剛士が呟く。
その様子に、悠里も嬉しくなる。
改めて見返しても、戦う剛士の姿を生き生きと捉えた、素晴らしい写真ばかりだった。
彩奈の技術、何より写真に対する熱意に敬服するばかりだ。
最後の1枚。
剛士は一瞬目を丸くした後、ふわりと微笑を浮かべた。
「……へえ。いい写真」
どの写真だろう。
悠里は彼の手元を覗き込み、そして驚きに頬を赤らめた。
「これ……」
剛士が持っていた最後の写真は、悠里の横顔だった。
試合前、観客席から剛士を見つめていたとき、ふいに撮られたことを思い出す。
この写真は、悠里が貰ったものの中には入っていなかった。
わざとそうしたに違いない。
「彩奈ったら……」
悠里は恥ずかしさに目を伏せる。
剛士が微笑んだ。
「……拓真から聞いたけど。彩奈の写真のこと、暖かい空気とか、優しい色合いが詰まってて大好きだって、言ってたんだってな」
優しい声で剛士は言った。
「それ、よくわかった。俺、この写真好きだから」
その言葉は、悠里の胸をトクトクと揺さぶる。
「柴崎さん……」
「悠里」
剛士が、ゆっくりと囁いた。
「敬語で喋るの、やめろよ」
「え……?」
「それから、」
剛士が腰を屈め、目線を悠里の高さまで下ろした。
「ゴウって、呼べよ」
剛士の、切れ長の綺麗な瞳が、真っ直ぐに悠里を見つめる。
息が止まりそうだった。
彼の視線で熱を帯びてしまう頬を、悠里は持て余してしまう。
「悠里」
彼の低くて暖かい声が、柔らかく耳をくすぐる。
「……ゴウ、さん」
やっとの思いで、悠里は応えた。
心臓が、甘やかに飛び跳ねていた。
ふっと、剛士が小さく吹き出す。
「ん。……まあ、始めはそれでいいや」
そして、歩き始める。
「帰ろうぜ、悠里」
悠里は心のなかで、剛士の声を反復した。
『始めはそれでいいや』
そう。自分たちは、始まったばかりなのだ。
胸の高鳴りが、心地いい。
「……うん!」
頬をほころばせ、悠里は彼の後を追った。
***
「あ、」
校門では、金髪頭と赤いメガネの2人が、話し込んでいた。
盛り上がりすぎて大声になっており、周囲からの注目を浴びている。
「拓真!」
「彩奈!」
それぞれが親友の名を呼ぶ。
悠里と剛士の姿に気づくと、2人はパッと顔を輝かせ、大きく手を振ってきた。
「やっほー! 終わったのー?」
悠里たちは2人の元に駆け寄る。
「うん! 彩奈、来てくれたの?」
「やっぱり、心配でさあ」
赤メガネの奥の瞳が、柔らかく悠里を見つめた。
「それで、拓真くんに連絡取って、一緒に待ってたってわけ」
「ありがと、彩奈」
いつだって暖かい親友の笑顔に、悠里は微笑み返した。
「お疲れ、ゴウ!」
「おう」
拓真の声に軽い返事を返し、剛士は彩奈に言った。
「写真、ありがとな」
「いえいえ! お礼はジュースでいいですよ!」
彩奈の言葉に、思わず剛士は笑った。
「お、試合の写真?」
拓真が笑顔で食いつく。
「オレも見たい!」
「じゃ、どっか店行くか?」
剛士は3人の顔を見回した。
「俺、ジュース奢らなくちゃいけないし」
「さんせーい!」
彩奈が両手を上げて笑う。
「ごちでーす!」
「お前には奢らねえよ」
軽口を叩きあう拓真と剛士。
その光景に、悠里たちは笑い出す。
偶然の出会いから始まった4人の友情が、ゆっくりと動き出した。
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