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piece4 ストーカーの正体

てめえら、ふざけんじゃねえ

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男たちの目線が、一斉に用具室に向かった。
同時に、目つきの悪い男が乱暴に悠里の腕を掴む。
悠里の心が、恐怖に早鐘を打った。

「来なよ、悠里ちゃん」
小太りの男が、用具室の扉を開ける。
背の高い男も加勢し、悠里の身体を無理矢理に中へ押し込もうとする。
「いや! いや離して!!」
悠里は悲鳴を上げた。
力の限り抵抗する。しかし、男の力には敵わない。

身体が暗い用具室の中へ、引き摺りこまれていく。
何とか腕だけは扉にしがみつき、ガンガンと叩いた。
「柴崎さん!」
叫ばずにはいられなかった。
「助けて! 柴崎さん!!」

「うるせえって!」
「試合中だし。アイツが来るわけないじゃん」
男たちが、せせら笑う。
「来ないよ、誰も。諦めて?」
目つきの悪い男が、とどめを刺すように、囁いた。

「取られてたまるかよ、柴崎なんかに。キミは、オレタチのもんなんだからね……」
腕を掴まれ、最後の砦だった扉からも、引き剥がされていく。
絶望に凍りつき、悠里の目に涙が溢れた。

――柴崎さん……
助けて、助けて。
柴崎さん――!

「悠里!!」
心に浮かべたその人の声が聞こえ、悠里は反射的に叫んだ。
「柴崎さん!!」

薄暗い廊下の角から、ユニフォーム姿の長身が姿を現した。
「悠里!!」

黒い切れ長の瞳が、怒りに燃えている。
彼の後ろには、門で会った生活指導の教師、谷も付いていた。
「柴崎!?……え、先生?」
男たちが、狼狽えたように呟く。

剛士が大股で駆け寄る。
「てめえら、ふざけんじゃねえ!」
剛士は男たちを次々に蹴り飛ばし、悠里から引き剥がした。
そして、悠里を抱きしめる。
「悠里……!」
「柴崎さん!」
泣きじゃくりながら、彼女も剛士にしがみついた。


谷が、へたりこんだ男3人に重々しく告げる。
「……お前たち。これは、厳しい処罰になるぞ」
「ち、違うんです先生、これは」
「黙れ!」

言い逃れを吐こうとする男たちに向かい、谷は激しく一喝した。
「お前らの悪行は、柴崎から聞いている。とりわけ、この現行犯だ。覚悟しろよ」
息をつき、谷はちらりと剛士に目を向けた。
「あとのことは、俺に任せろ。お前は早く、彼女を連れ出してあげなさい」
剛士は頷き、悠里を支えながらその場を離れた。



薄暗い廊下を歩き、谷と男たちの姿が見えなくなった。
剛士は息をつき、悠里の瞳を覗き込んだ。
そうして無事を確かめるように、もう一度、優しく彼女を抱き締める。

「探してたら……ドアを叩く音と、お前の声が聞こえた。だから、居場所が分かったんだ」
剛士の大きな手が、悠里の髪をそっと撫でる。
「ありがとう。俺を呼んでくれて……」

彼の鼓動が、伝わってくる。
早鐘を打つ、暖かい胸。
「柴崎さん……」

助けに来てくれた。
自分を、守ってくれた……
ぽろぽろと、悠里は涙を零す。
安堵に力が抜け、彼女は目を閉じた。

剛士に抱き締められていると、男たちに触れられた恐怖が、少しずつ拭われていく気がする。
きゅっとしがみつき、彼の胸に顔をうずめる。
剛士の温もりに抱かれ、彼女の怯えた心は、暖められていった。


わあっと、一際大きい歓声が耳に届く。
悠里は、ハッと顔を上げた。
そうだ、今は試合中。剛士は、戦っていたはずだった。

「柴崎さん……」
まだ涙ながらではあるが、悠里は問うた。
「試合、は……?」
剛士は静かに応える。

「監督に頼んで、抜けさせて貰った。第3クオーターが終わったとき、お前がいなくて、嫌な予感がしたんだ」
試合中にも関わらず、剛士は異変に気がついてくれた。
感謝の思いでいっぱいになる。
しかし同時に、彼の戦いを中断させてしまったことが、申し訳なくてたまらなかった。
勝利を渇望していた鋭い瞳を、思い返す。
広いコートで躍動する、強い瞳を。
彼の意志を、邪魔したくない。

悠里は言った。
「……柴崎さん。戻ろう」
「え?」
悠里は、ぽかんと目を丸くする彼の手を取った。

「ごめんなさい、大事な試合を抜けさせてしまって……早く戻らなきゃ!」
「でもお前……」
「私は大丈夫です!」
悠里は彼を見上げ、懸命に言った。
剛士は、まじまじと彼女の顔を見つめる。

――あんな酷い目にあったばかりなのに。
なんで俺の試合のこと、考えるんだよ……

彼女の真剣な眼差しに、圧倒されてしまう。
「お前……すごいな」
剛士は静かに微笑んだ。
そして、彼女の手を握る。

大事な試合。
悠里がそう言ってくれたことが、嬉しかった。
「うん。お前も一緒に、来て」
試合の場に戻るため、2人は手を取り合い、駆け出した。
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