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piece5 2人の恋、4人の友情の始まりは
今日のところは、2人の世界で
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「あれえ!? 悠里ちゃん!」
拓真、彩奈の2人は、試合終了後に連れ立って現れた剛士と悠里に、目を丸くした。
「どこ行っちゃったのかと思ったら、ゴウのとこ行ってたの?」
「やだー、悠里ったら、積極的ぃ!」
ニヤニヤと囃し立てようとする2人を制するように、剛士が低い声で告げた。
「悠里のストーカー、捕まえたぞ」
拓真と彩奈は、驚きに声を失う。
「……え? どういうこと?」
眉をひそめる拓真に、剛士は事の次第を説明した。
ストーカーが、勇誠学園の生徒だったこと。
犯人が試合の盛り上がりに乗じて、悠里を連れ去ったこと。
間一髪で助け出し、犯人を生活指導の谷に引き渡したこと。
拓真と彩奈の顔から、血の気が失せていく。
「悠里ごめん。私がトイレ行っちゃったせいで……」
彩奈が、泣き出しそうな顔をして悠里に駆け寄った。
「彩奈のせいじゃないよ!」
悠里は慌てて首を横に振った。
「まさか犯人がこの学校にいるなんて、思わなかったもの……」
震える手で悠里を抱きしめ、ごめんねを繰り返す親友の肩を、優しく抱き返した。
拓真が、小さな声で呟く。
「……だからお前、第4クオーターはいなかったのか。どうしたんだろうって思ったんだよ」
「第3クオーターが終わったときに、悠里の姿が見えなかったからな」
剛士の言葉に、ふと拓真が小さく首を傾げた。
「……だからって、なんですぐに悠里ちゃんを探しに行こうと思ったんだ?」
言いながら、拓真の頭に正解が浮かぶ。
「お前、犯人が勇誠の生徒だって……知ってたのか?」
「……ああ」
頷いた剛士に、彩奈が、何より悠里が、驚きに言葉を失う。
「なんで?」
拓真にしては珍しく、厳しい表情を浮かべる。
「……悠里と登下校するようになってから、校内で俺に対する嫌がらせがあった。それで、谷には相談しておいたんだ」
「……お前さあ」
剛士の言葉に、拓真が溜め息をついた。
「なんで谷に相談してるのに、オレのことは巻き込まないの? 水臭くねえ?」
「……そうだな」
剛士が唇を引き結ぶ。
「ごめん。俺の判断ミスだ。そのせいで悠里を危ない目にも遭わせてしまった……悪かった」
そう言って、微かに頭を下げる剛士の姿に、悠里は瞳を揺らめかせた。
「柴崎さん……」
悠里は彼を見上げ、絞り出すように呟いた。
「どうして、言ってくれなかったんですか……?」
非難されても仕方ない。そんな思いで剛士は応える。
「ごめんな」
「ごめんなさい」
声がシンクロし、剛士はきょとんとする。
「……なんで、お前が謝るんだ?」
「私のせいで、柴崎さんまで嫌がらせされていたなんて……」
涙声で答える悠里に、剛士は苦笑する。
――また、俺の心配してる。
自分の方が、もっと酷い目に遭ったっていうのに……
「バカ、俺のことはいいんだよ」
剛士は、そっと彼女を抱き寄せた。
悠里の髪を撫でると、暖かくていい匂いがした。
「柴崎さん……」
悠里が、震える声で彼を呼ぶ。
「ごめんなさい……」
「俺がやりたくてやったんだよ。気にすんな」
剛士はあやすように、ぽんぽんと、彼女の頭を撫でた。
小さな手が、そっと剛士にしがみついてきた。
人に頼るのが苦手な悠里が、こうして自分に縋ってくれる。
――この手に、応えたい。
彼女を、守ってあげたい。
その感覚が嬉しくて、剛士は彼女を抱く腕に、優しく力を込めた。
「……あー、えっとな?」
拓真が、頭をポリポリかきながら言う。
「さすがに、そこまで2人の世界に入られちゃうと……見てる方が照れるっていうか」
我に返り、剛士は彼女に回した腕を解いた。
彼にしては珍しく、薄っすら頬が染まる。
呼応するように、たちまち悠里の顔も真っ赤に色づいた。
その様子を見て、ようやく拓真の顔に明るい微笑みが浮かぶ。
「まあ、オレは嬉しいけどね? ゴウが恋愛する気になったみたいでさ!」
「うっせ」
剛士が眉間に皺を寄せる。
「余計なこと言うな」
「まあまあ、照れんなって!」
拓真は笑いを深め、彩奈を振り返った。
「今日のところは若い2人に任せて、オレたち帰るぅ?」
「……そうだね!」
彩奈は彼と顔を見合わせて、同じように笑った。
「じゃあ、2人で幸せになー」
拓真がニヤニヤ笑いながら、手を振ってきた。
彩奈は、悠里にガッツポーズを送る。
「悠里、がんばれ!」
何をがんばるのか。悠里は目眩を覚える。
「じゃあ悠里ちゃん、また明日ね!」
拓真が笑う。
「明日はまた、4人で帰ろうね!」
「……うん」
その言葉は、悠里に心からの笑顔をくれた。
ストーカーが捕まった今、もう4人で帰る「理由」はない。
それなのに拓真は、当然のように今まで通りの「明日」を示してくれた。
――この4人はもう、友だちなんだ……
暖かい気持ちに包まれ、悠里は剛士を見上げた。
同じ思いを持ったのだろう、剛士も優しく微笑む。
悠里は、明るい笑顔を拓真と彩奈に向けた。
「うん! 2人とも、また明日ね!」
拓真、彩奈の2人は、試合終了後に連れ立って現れた剛士と悠里に、目を丸くした。
「どこ行っちゃったのかと思ったら、ゴウのとこ行ってたの?」
「やだー、悠里ったら、積極的ぃ!」
ニヤニヤと囃し立てようとする2人を制するように、剛士が低い声で告げた。
「悠里のストーカー、捕まえたぞ」
拓真と彩奈は、驚きに声を失う。
「……え? どういうこと?」
眉をひそめる拓真に、剛士は事の次第を説明した。
ストーカーが、勇誠学園の生徒だったこと。
犯人が試合の盛り上がりに乗じて、悠里を連れ去ったこと。
間一髪で助け出し、犯人を生活指導の谷に引き渡したこと。
拓真と彩奈の顔から、血の気が失せていく。
「悠里ごめん。私がトイレ行っちゃったせいで……」
彩奈が、泣き出しそうな顔をして悠里に駆け寄った。
「彩奈のせいじゃないよ!」
悠里は慌てて首を横に振った。
「まさか犯人がこの学校にいるなんて、思わなかったもの……」
震える手で悠里を抱きしめ、ごめんねを繰り返す親友の肩を、優しく抱き返した。
拓真が、小さな声で呟く。
「……だからお前、第4クオーターはいなかったのか。どうしたんだろうって思ったんだよ」
「第3クオーターが終わったときに、悠里の姿が見えなかったからな」
剛士の言葉に、ふと拓真が小さく首を傾げた。
「……だからって、なんですぐに悠里ちゃんを探しに行こうと思ったんだ?」
言いながら、拓真の頭に正解が浮かぶ。
「お前、犯人が勇誠の生徒だって……知ってたのか?」
「……ああ」
頷いた剛士に、彩奈が、何より悠里が、驚きに言葉を失う。
「なんで?」
拓真にしては珍しく、厳しい表情を浮かべる。
「……悠里と登下校するようになってから、校内で俺に対する嫌がらせがあった。それで、谷には相談しておいたんだ」
「……お前さあ」
剛士の言葉に、拓真が溜め息をついた。
「なんで谷に相談してるのに、オレのことは巻き込まないの? 水臭くねえ?」
「……そうだな」
剛士が唇を引き結ぶ。
「ごめん。俺の判断ミスだ。そのせいで悠里を危ない目にも遭わせてしまった……悪かった」
そう言って、微かに頭を下げる剛士の姿に、悠里は瞳を揺らめかせた。
「柴崎さん……」
悠里は彼を見上げ、絞り出すように呟いた。
「どうして、言ってくれなかったんですか……?」
非難されても仕方ない。そんな思いで剛士は応える。
「ごめんな」
「ごめんなさい」
声がシンクロし、剛士はきょとんとする。
「……なんで、お前が謝るんだ?」
「私のせいで、柴崎さんまで嫌がらせされていたなんて……」
涙声で答える悠里に、剛士は苦笑する。
――また、俺の心配してる。
自分の方が、もっと酷い目に遭ったっていうのに……
「バカ、俺のことはいいんだよ」
剛士は、そっと彼女を抱き寄せた。
悠里の髪を撫でると、暖かくていい匂いがした。
「柴崎さん……」
悠里が、震える声で彼を呼ぶ。
「ごめんなさい……」
「俺がやりたくてやったんだよ。気にすんな」
剛士はあやすように、ぽんぽんと、彼女の頭を撫でた。
小さな手が、そっと剛士にしがみついてきた。
人に頼るのが苦手な悠里が、こうして自分に縋ってくれる。
――この手に、応えたい。
彼女を、守ってあげたい。
その感覚が嬉しくて、剛士は彼女を抱く腕に、優しく力を込めた。
「……あー、えっとな?」
拓真が、頭をポリポリかきながら言う。
「さすがに、そこまで2人の世界に入られちゃうと……見てる方が照れるっていうか」
我に返り、剛士は彼女に回した腕を解いた。
彼にしては珍しく、薄っすら頬が染まる。
呼応するように、たちまち悠里の顔も真っ赤に色づいた。
その様子を見て、ようやく拓真の顔に明るい微笑みが浮かぶ。
「まあ、オレは嬉しいけどね? ゴウが恋愛する気になったみたいでさ!」
「うっせ」
剛士が眉間に皺を寄せる。
「余計なこと言うな」
「まあまあ、照れんなって!」
拓真は笑いを深め、彩奈を振り返った。
「今日のところは若い2人に任せて、オレたち帰るぅ?」
「……そうだね!」
彩奈は彼と顔を見合わせて、同じように笑った。
「じゃあ、2人で幸せになー」
拓真がニヤニヤ笑いながら、手を振ってきた。
彩奈は、悠里にガッツポーズを送る。
「悠里、がんばれ!」
何をがんばるのか。悠里は目眩を覚える。
「じゃあ悠里ちゃん、また明日ね!」
拓真が笑う。
「明日はまた、4人で帰ろうね!」
「……うん」
その言葉は、悠里に心からの笑顔をくれた。
ストーカーが捕まった今、もう4人で帰る「理由」はない。
それなのに拓真は、当然のように今まで通りの「明日」を示してくれた。
――この4人はもう、友だちなんだ……
暖かい気持ちに包まれ、悠里は剛士を見上げた。
同じ思いを持ったのだろう、剛士も優しく微笑む。
悠里は、明るい笑顔を拓真と彩奈に向けた。
「うん! 2人とも、また明日ね!」
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