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有名な写真
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「そういえばゴウってさ、」
ある日の休み時間、ふと思い出したように拓真が彼を振り返る。
「悠里ちゃんが一躍有名になった例の写真、見てないんだっけ?」
「……ああ」
さして興味の無さそうに、剛士は生返事をした。
拓真が悪戯っぽく微笑む。
「見る?」
剛士の答えを待たず、拓真は1人のクラスメートに声をかける。
「ねえねえ。お前、悠里ちゃんの写真持ってるよな?」
「おお、持ってるぞー」
クラスメートは喜々として、コレクションファイルを取り出した。
話題になった女子の写真を収集している彼は、鼻歌まじりにページを捲る。
クラスメートは程なくして、ある1ページを開くと、拓真に写真を手渡した。
「ほら、丁重に扱えよー」
「さんきゅー」
拓真は笑いながら、まるで賞状のような大仰な仕草で写真を受け取る。
そうして悪戯っぽく片目をつぶり、剛士に差し出した。
「ほらゴウ、これこれ!」
見せられたのは、袴姿の悠里だった。
桜色の着物に、えんじ色の上品な袴。
その色合いは、彼女の優しい顔立ちによく似合っていた。
友人と談笑でもしていたのだろう、楽しげな微笑みを浮かべている。
いつもは結ばずに流されている、悠里の綺麗な茶色の髪。
このときは着物に合わせて、横髪を赤いリボンで軽く結っていたようだ。
色白の細い首筋が、和装の美しさを際立たせている。
柔らかさと、凛とした空気感の両方を併せ持ったこの日の彼女は、普段よりずっと大人びて見えた。
「学祭で、大正浪漫風ってコンセプトの喫茶店をやってて。悠里ちゃんは受付嬢だったらしいよ」
写真を見せてくれたクラスメートが、自慢げに解説を加える。
うんうん、と大きく頷き、拓真が微笑んだ。
「な、ゴウ! 超可愛いよね?」
実物はもっと、綺麗だっただろう。
着物を着て、動いて、笑う悠里は。
大きな目がキラキラと表情を変え、柔らかな微笑みを浮かべる彼女は。
クラスメートの言葉も、拓真の声も、殆ど耳に入らなかった。
剛士はただ、写真に納められた清楚な美しさに見入っていた。
「……惚れ直しちゃった?」
ニヤニヤ声の拓真。
「そ、そんなんじゃねえよ」
我に返り、剛士は慌てて悠里から目を離した。
「うわー! 剛士がどもるの初めて見たわ」
ケラケラとクラスメートが笑った。
そして、芝居がかった口調で言う。
「剛士がそこまで言うならば、仕方あるまい!その写真、譲ってやろう!」
「わーさんきゅー!」
剛士が口を開くより先に、拓真が顔を輝かせ、バシバシとクラスメートと剛士の肩を叩く。
「良かったなゴウ!これで好きなだけ悠里ちゃんを見つめられるじゃん!」
「剛士、穴が開くほど見るんだもんなあ。返せなんて、ヤボなこと言えねえわ」
拓真とクラスメートが、口を揃えて囃し立てる。
「剛士ー、お礼は焼きそばパンでいいぞー!」
「いやー良かった良かった。言ってみるもんだねえ、ゴウ?」
剛士は、不貞腐れたように呟いた。
「……俺、何も言ってないんだけど」
「まったまたー! ゴウったら照れちゃってー!だって欲しいでしょ?悠里ちゃんの写真!」
「うっせ」
「耳まで赤くなってんぞ?」
苦し紛れに、剛士は勢いよく親友の頭をはたいた。
「いてえー! 恩を仇で返すとは!」
不機嫌な表情を崩さずに、剛士はガタンっと席を立った。
「あれ?ゴウ、どこ行くの?」
「うっせ。焼きそばパン買ってくんだよ」
「やっぱ欲しいんじゃん!」
拓真とクラスメートが、弾かれたように笑い出す。
2人の方を振り返らず、剛士は足早に教室を出た。
必死に仏頂面を保ってみるものの、染まった頬は、なかなか元には戻らなかった。
ある日の休み時間、ふと思い出したように拓真が彼を振り返る。
「悠里ちゃんが一躍有名になった例の写真、見てないんだっけ?」
「……ああ」
さして興味の無さそうに、剛士は生返事をした。
拓真が悪戯っぽく微笑む。
「見る?」
剛士の答えを待たず、拓真は1人のクラスメートに声をかける。
「ねえねえ。お前、悠里ちゃんの写真持ってるよな?」
「おお、持ってるぞー」
クラスメートは喜々として、コレクションファイルを取り出した。
話題になった女子の写真を収集している彼は、鼻歌まじりにページを捲る。
クラスメートは程なくして、ある1ページを開くと、拓真に写真を手渡した。
「ほら、丁重に扱えよー」
「さんきゅー」
拓真は笑いながら、まるで賞状のような大仰な仕草で写真を受け取る。
そうして悪戯っぽく片目をつぶり、剛士に差し出した。
「ほらゴウ、これこれ!」
見せられたのは、袴姿の悠里だった。
桜色の着物に、えんじ色の上品な袴。
その色合いは、彼女の優しい顔立ちによく似合っていた。
友人と談笑でもしていたのだろう、楽しげな微笑みを浮かべている。
いつもは結ばずに流されている、悠里の綺麗な茶色の髪。
このときは着物に合わせて、横髪を赤いリボンで軽く結っていたようだ。
色白の細い首筋が、和装の美しさを際立たせている。
柔らかさと、凛とした空気感の両方を併せ持ったこの日の彼女は、普段よりずっと大人びて見えた。
「学祭で、大正浪漫風ってコンセプトの喫茶店をやってて。悠里ちゃんは受付嬢だったらしいよ」
写真を見せてくれたクラスメートが、自慢げに解説を加える。
うんうん、と大きく頷き、拓真が微笑んだ。
「な、ゴウ! 超可愛いよね?」
実物はもっと、綺麗だっただろう。
着物を着て、動いて、笑う悠里は。
大きな目がキラキラと表情を変え、柔らかな微笑みを浮かべる彼女は。
クラスメートの言葉も、拓真の声も、殆ど耳に入らなかった。
剛士はただ、写真に納められた清楚な美しさに見入っていた。
「……惚れ直しちゃった?」
ニヤニヤ声の拓真。
「そ、そんなんじゃねえよ」
我に返り、剛士は慌てて悠里から目を離した。
「うわー! 剛士がどもるの初めて見たわ」
ケラケラとクラスメートが笑った。
そして、芝居がかった口調で言う。
「剛士がそこまで言うならば、仕方あるまい!その写真、譲ってやろう!」
「わーさんきゅー!」
剛士が口を開くより先に、拓真が顔を輝かせ、バシバシとクラスメートと剛士の肩を叩く。
「良かったなゴウ!これで好きなだけ悠里ちゃんを見つめられるじゃん!」
「剛士、穴が開くほど見るんだもんなあ。返せなんて、ヤボなこと言えねえわ」
拓真とクラスメートが、口を揃えて囃し立てる。
「剛士ー、お礼は焼きそばパンでいいぞー!」
「いやー良かった良かった。言ってみるもんだねえ、ゴウ?」
剛士は、不貞腐れたように呟いた。
「……俺、何も言ってないんだけど」
「まったまたー! ゴウったら照れちゃってー!だって欲しいでしょ?悠里ちゃんの写真!」
「うっせ」
「耳まで赤くなってんぞ?」
苦し紛れに、剛士は勢いよく親友の頭をはたいた。
「いてえー! 恩を仇で返すとは!」
不機嫌な表情を崩さずに、剛士はガタンっと席を立った。
「あれ?ゴウ、どこ行くの?」
「うっせ。焼きそばパン買ってくんだよ」
「やっぱ欲しいんじゃん!」
拓真とクラスメートが、弾かれたように笑い出す。
2人の方を振り返らず、剛士は足早に教室を出た。
必死に仏頂面を保ってみるものの、染まった頬は、なかなか元には戻らなかった。
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