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piece9 おまけのお話 彩奈と拓真
ミッション・フェイルド!
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「……さて、じゃあオレたちは帰るぅ?」
拓真が悪戯っぽく微笑む。
「さすがに、こっから先を見てるのは、ヤボだしね」
「だね」
彩奈も満足げに頷いた。
拓真が、プルプルと震えてみせる。
「あとオレ、寒くなってきた」
「私も。駅前で3次会しよ」
そう言って、2人がそっと庭を後にしようとしたときだった。
ガチャガチャっと、慌ただしく玄関の鍵を開ける音がする。
「えっ」
庭の2人は顔を見合わせた。
「だ、誰?」
緊張の色を浮かべた拓真を落ち着かせるように、彩奈が声を顰めて答える。
「多分、悠人くん……弟だ」
弟は部活で、帰りは19時くらいだと悠里は言っていた。
これは嬉しくないサプライズだな、と同情しながら彩奈は部屋の中を見た。
案の定、部屋の2人も驚いて顔を見合わせている。
拓真も言葉には出さないが、残念そうにして窓越しに2人を見守る。
剛士が優しく微笑み、悠里を抱き寄せた。
最後の時間を惜しむように腕に力を込めると、剛士はそっと、悠里の髪に唇を当てた。
そうして、何事もなかったかのように彼女から腕を離す。
「……おおっ」
庭の2人は驚嘆する。
「最後の最後に。やったねえ、シバさん」
「うわあ、ゴウってば、やべぇ」
少しキザで、何より悠里への気持ちに溢れた剛士の行為に、彩奈と拓真の興奮は収まらない。
「シバさん、悠里の髪好きって言ってたもんねえ」
「今日、めちゃめちゃ悠里ちゃんの頭撫でてたしね」
「あの2人、今日1日でめちゃめちゃ距離が縮んだよね」
「うんうん、これはもう大丈夫っしょ、いけるっしょ」
興奮のあまり、2人は部屋の様子を確認していなかった。
カラカラカラっと、勢いよく窓が開く、その瞬間まで。
悠里に似た大きな目が、庭の2人を認め、更に見開かれた。
「うわああっ!?」
「わあっ」
つられて彩奈と拓真も叫んでしまう。
第一発見者になってしまった悠里の弟――悠人は、庭の不審者に固まっている。
次いで、すぐ後ろにいた剛士が2人を発見した。
同じように、切れ長の瞳が驚愕に見開かれた後、驚き、疑問、怒り、何より羞恥。さまざまな色を浮かべた。
「なっ……何やって……お前ら」
庭の2人に、全てを見られていたことを察したのだろう。
さすがの剛士も、動揺して頬を赤らめている。
慌てたように、悠里がパタパタと走ってくる。
「ど、どうしたの?……あっ」
悠里の大きな目が2人に注がれた瞬間、彼女の顔は真っ赤に色づいてしまった。
考えたことは、きっと剛士と同じだ。
「彩奈!拓真さん……」
悠里の柔らかな声が、恥じらいに震えている。
最後の最後で、脱出失敗。
ミッション・フェイルドだ。
「や、やっほー……」
庭の2人は、ぎこちない笑みを浮かべ、挨拶を返すしかなかったのだった。
拓真が悪戯っぽく微笑む。
「さすがに、こっから先を見てるのは、ヤボだしね」
「だね」
彩奈も満足げに頷いた。
拓真が、プルプルと震えてみせる。
「あとオレ、寒くなってきた」
「私も。駅前で3次会しよ」
そう言って、2人がそっと庭を後にしようとしたときだった。
ガチャガチャっと、慌ただしく玄関の鍵を開ける音がする。
「えっ」
庭の2人は顔を見合わせた。
「だ、誰?」
緊張の色を浮かべた拓真を落ち着かせるように、彩奈が声を顰めて答える。
「多分、悠人くん……弟だ」
弟は部活で、帰りは19時くらいだと悠里は言っていた。
これは嬉しくないサプライズだな、と同情しながら彩奈は部屋の中を見た。
案の定、部屋の2人も驚いて顔を見合わせている。
拓真も言葉には出さないが、残念そうにして窓越しに2人を見守る。
剛士が優しく微笑み、悠里を抱き寄せた。
最後の時間を惜しむように腕に力を込めると、剛士はそっと、悠里の髪に唇を当てた。
そうして、何事もなかったかのように彼女から腕を離す。
「……おおっ」
庭の2人は驚嘆する。
「最後の最後に。やったねえ、シバさん」
「うわあ、ゴウってば、やべぇ」
少しキザで、何より悠里への気持ちに溢れた剛士の行為に、彩奈と拓真の興奮は収まらない。
「シバさん、悠里の髪好きって言ってたもんねえ」
「今日、めちゃめちゃ悠里ちゃんの頭撫でてたしね」
「あの2人、今日1日でめちゃめちゃ距離が縮んだよね」
「うんうん、これはもう大丈夫っしょ、いけるっしょ」
興奮のあまり、2人は部屋の様子を確認していなかった。
カラカラカラっと、勢いよく窓が開く、その瞬間まで。
悠里に似た大きな目が、庭の2人を認め、更に見開かれた。
「うわああっ!?」
「わあっ」
つられて彩奈と拓真も叫んでしまう。
第一発見者になってしまった悠里の弟――悠人は、庭の不審者に固まっている。
次いで、すぐ後ろにいた剛士が2人を発見した。
同じように、切れ長の瞳が驚愕に見開かれた後、驚き、疑問、怒り、何より羞恥。さまざまな色を浮かべた。
「なっ……何やって……お前ら」
庭の2人に、全てを見られていたことを察したのだろう。
さすがの剛士も、動揺して頬を赤らめている。
慌てたように、悠里がパタパタと走ってくる。
「ど、どうしたの?……あっ」
悠里の大きな目が2人に注がれた瞬間、彼女の顔は真っ赤に色づいてしまった。
考えたことは、きっと剛士と同じだ。
「彩奈!拓真さん……」
悠里の柔らかな声が、恥じらいに震えている。
最後の最後で、脱出失敗。
ミッション・フェイルドだ。
「や、やっほー……」
庭の2人は、ぎこちない笑みを浮かべ、挨拶を返すしかなかったのだった。
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