#秒恋3 友だち以上恋人未満の貴方に、甘い甘いサプライズを〜貴方に贈るハッピーバースデー〜

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piece9 おまけのお話 彩奈と拓真

サプライズ、しない?

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剛士がトイレに立ったすぐ後に、悠里も立ち上がる。

「私、ちょっと2階に行ってくるね!」
柔らかな微笑みを浮かべ、悠里がパタパタとリビングを出て行った。
何だかとても嬉しそうな彼女の後ろ姿を、彩奈は微笑ましく見守る。


「……ねえ、彩奈ちゃん」
拓真が声を顰めて、隣に座る彩奈に囁いた。
「サプライズ、しない?」
「……気が合うねえ、拓真くん」

彩奈が赤メガネの縁を指で押し上げ、ニヤリと笑った。
同じタイミングで席を外した悠里と剛士。
その瞬間に考えたことは、どうやら同じだったようだ。


2人は上着を着込み、荷物を持って、いそいそと部屋を出る。
「あっ、ちょっと待って」
彩奈が慌てて部屋に引き返した。

庭に面した窓のカーテンの端を、少しだけ開ける。
「……彩奈ちゃん、ナーイス」
意図を理解した拓真が微笑み、親指を立てて見せた。


2人は急いで、しかし足音を忍ばせながら玄関に向かった。
幸い、まだトイレから剛士が戻る気配も、悠里が2階から降りてくる音もしない。
なるべく音のしないよう、そっと玄関の扉を開け、拓真と彩奈は脱出に成功した。

鍵を開けたままの状態で扉を離れることだけが、少し気がかりではある。
しかし間もなく悠里と剛士はリビングに戻り、2人がいないことに気がつくだろう。
そうすれば、玄関まで確認に来るはずだ。
その間、万が一のことがないように、隠れて扉を見ていればよい。
彩奈と拓真は息を潜め、家の壁に張り付いていた。


「……そろそろかな?」
拓真がニコッとして彩奈を見やる。
「もう少し、頭を下げて隠れといた方がいいよ」
「へ?」

玄関に視線を向け、拓真が小声で言った。
「多分ゴウは、オレたちの靴がないことに気づいたら、玄関を開けて外を確認すると思う」
「マジ?」
「マジ。あいつ結構、指差し確認タイプだから」

拓真の、わかるようでわからない喩えに、思わず吹き出しそうになる。
どうして人は、笑ってはいけないときに限って、笑いの沸点が下がってしまうのか。
彩奈はニヤニヤしてしまう頬を震わせながらも、拓真に従い身を屈めた。


そのとき、カチャッと玄関の扉が開く音がした。
目で確認することはできないが、拓真の予想どおり、きっと剛士だろう。
周囲を確認している気配を感じる。
彩奈と拓真は、ひたすら気配を消し、耳の感覚だけを研ぎ澄ませた。

諦めたのか、やがて扉が静かに閉められ、カチリ、と鍵の掛かる音がする。
思わず彩奈たちは顔を見合わせ、小さくハイタッチをした。
一つ目のミッション、クリアである。


2人は、そろそろと足音を忍ばせて庭にまわる。
はやる気持ちを抑え、慎重に慎重にリビングの窓に近づいた。

彩奈が、絶妙な具合に開けておいたレースのカーテン。
外から室内が確認できるが、部屋からは自然に感じられる、ギリギリの開き具合。

その隙間から、悠里と剛士が笑い合いながらリビングに戻ってきたのが見える。
2人は並んでソファに腰を下ろした。

ちょうど、窓側を向いた位置だ。
庭からでも2人の表情が、よく見える。
なおかつ、悠里たちはずっとお互いを見つめるだろうから、カーテンの隙間から覗く彩奈と拓真には気づきにくいだろう。


「……彩奈ちゃん、マジでグッジョブ」
最高のポジショニングが取れ、拓真が小声で讃える。
彩奈もにっかりと歯を見せて笑うと、そっと窓の内側を見守った。
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