46 / 50
piece8 向き合い、終わらせる
本音
しおりを挟む
少し笑って楽になったのか、エリカが穏やかに語りかける。
『……本当に、変わったね剛士。前は動揺しまくって、付け入る隙ありまくりだったのになあ』
「はは、確かにあのときの俺は、自分でも不甲斐なかった」
『今日は、余裕すら感じるよ。すごいね、好きな子パワーは』
「……俺、もう絶対、あの子を傷つけたくないんだ」
自分の首元を優しく包んでくれる黒のネックウォーマーに触れ、剛士は言った。
「カラオケでお前に会ったとき、俺すごい動揺して、情けない行動して……好きな子に、悲しい顔させた」
『……うん』
「なのに、あの子は必死に俺に向き合ってくれた。俺の話、全部聞いて、手を伸ばしてくれた」
『……全部』
驚いたように、エリカが言葉を挟んだ。
『全部って、全部?』
「うん。……全部だな」
剛士は、ゆっくりと思いを巡らせながら応える。
「全部、話せたと思う。迷いも、弱さも、カッコ悪いとこも」
『そっか……それは本当に、すごいな……』
エリカが、言葉を噛み締めるように呟いた。
「だから俺も、全力で好きな子と向き合う。あの子が俺を助けてくれたように、俺もあの子を守る。これからもあの子と、助け合っていきたいから」
『……そっかあ』
核心に触れる前に、少しだけ沈黙が訪れた。
剛士は、優しい声で言った。
「俺たち、あのとき本音をぶつけ合うべきだったんだよな」
エリカは黙したまま、剛士の声に耳を傾ける。
「俺、もう逃げないから。あの頃のお前の気持ちも、ちゃんと聞く。だから、話そう」
『剛士……』
剛士がはっきりとした口調で告げる。
「直接会って話したいなら、それでもいい。でも、そのときは高木さんにも声掛けてな」
『う……そう来たか』
「当たり前だろ。隠れてコソコソするつもりないよ。それに高木さんも、いた方がいいし」
彼も、紛れもない当事者なのだ。
高木とは、あの卒業式の日以来、言葉を交わすことはなかった。
自分は高木とも、きっちりと話をすべきなのだと、剛士は思った。
『……剛士』
暫くの沈黙の後、意を決したようにエリカは言った。
『私、正直言って、自分でもどうして剛士と話したいか、わかってなかった。カラオケで偶然会って、昔のこと、いろいろ思い出して。気持ちが噴き出したのかも知れない』
「うん。……わかるよ」
彼女の迷いや混乱は、あのとき剛士が感じたものと似ているだろう。
急激に過去の気持ちが溢れ出して、心を支配してきた、あの感覚に。
悠里に聞いて貰えなければ、もしかすると今でも、自分の中で暴れていたかも知れない、あの感情に――
ネックウォーマーの柔らかな感触を何度も手に確かめる。
自分は、悠里に助けて貰えたのだと、改めて剛士は思う。
『……本当に、変わったね剛士。前は動揺しまくって、付け入る隙ありまくりだったのになあ』
「はは、確かにあのときの俺は、自分でも不甲斐なかった」
『今日は、余裕すら感じるよ。すごいね、好きな子パワーは』
「……俺、もう絶対、あの子を傷つけたくないんだ」
自分の首元を優しく包んでくれる黒のネックウォーマーに触れ、剛士は言った。
「カラオケでお前に会ったとき、俺すごい動揺して、情けない行動して……好きな子に、悲しい顔させた」
『……うん』
「なのに、あの子は必死に俺に向き合ってくれた。俺の話、全部聞いて、手を伸ばしてくれた」
『……全部』
驚いたように、エリカが言葉を挟んだ。
『全部って、全部?』
「うん。……全部だな」
剛士は、ゆっくりと思いを巡らせながら応える。
「全部、話せたと思う。迷いも、弱さも、カッコ悪いとこも」
『そっか……それは本当に、すごいな……』
エリカが、言葉を噛み締めるように呟いた。
「だから俺も、全力で好きな子と向き合う。あの子が俺を助けてくれたように、俺もあの子を守る。これからもあの子と、助け合っていきたいから」
『……そっかあ』
核心に触れる前に、少しだけ沈黙が訪れた。
剛士は、優しい声で言った。
「俺たち、あのとき本音をぶつけ合うべきだったんだよな」
エリカは黙したまま、剛士の声に耳を傾ける。
「俺、もう逃げないから。あの頃のお前の気持ちも、ちゃんと聞く。だから、話そう」
『剛士……』
剛士がはっきりとした口調で告げる。
「直接会って話したいなら、それでもいい。でも、そのときは高木さんにも声掛けてな」
『う……そう来たか』
「当たり前だろ。隠れてコソコソするつもりないよ。それに高木さんも、いた方がいいし」
彼も、紛れもない当事者なのだ。
高木とは、あの卒業式の日以来、言葉を交わすことはなかった。
自分は高木とも、きっちりと話をすべきなのだと、剛士は思った。
『……剛士』
暫くの沈黙の後、意を決したようにエリカは言った。
『私、正直言って、自分でもどうして剛士と話したいか、わかってなかった。カラオケで偶然会って、昔のこと、いろいろ思い出して。気持ちが噴き出したのかも知れない』
「うん。……わかるよ」
彼女の迷いや混乱は、あのとき剛士が感じたものと似ているだろう。
急激に過去の気持ちが溢れ出して、心を支配してきた、あの感覚に。
悠里に聞いて貰えなければ、もしかすると今でも、自分の中で暴れていたかも知れない、あの感情に――
ネックウォーマーの柔らかな感触を何度も手に確かめる。
自分は、悠里に助けて貰えたのだと、改めて剛士は思う。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる