40 / 50
piece7 バレンタイン・サプライズ
剛士のサプライズ
しおりを挟む
剛士の長い指が、ゆっくりと悠里の髪を撫でる。
「好きだよ」
「……え?」
「悠里のこと」
耳元で、囁くように伝えられた、剛士の気持ち。
初めて、言葉にして伝えてくれた、剛士の思い。
驚きが過ぎると、じわじわと甘い喜びが込み上げてくる。
悠里は、きゅうっと剛士にしがみついた。
「悠里」
剛士が優しい声で、彼女に願う。
「もう少しだけ、俺のこと、待っててくれる?」
「……はい」
悠里は、殆ど無意識のうちに答えた。
「いつまでも、待ってます……」
「あまり待たせないようにする」
「ふふ……うん」
剛士がくれた真っ直ぐな思いと、約束。
それさえあれば、どこまでも、がんばれる気がした。
「ゴウさん……大好き」
「俺も……大好きだよ」
2人が気持ちを伝え合い、甘やかに抱きしめ合った、その時だった。
ガチャガチャッと、玄関の鍵が開く音がした。
「えっ!?」
悠里が顔を上げる。
パチリと剛士と目が合った。
「……弟?」
「う、うん。そうみたい……」
時計を見ると、まだ17時前だ。
「いつもより2時間以上早い……どうして」
ふっと剛士が微笑んだ。
「……タイムアップかあ」
惜しむように、力を込めて抱き寄せられる。
大きな手が、悠里の後頭部を優しく包み込む――
ちゅっと、髪に柔らかな感覚が落ちた。
バタバタと廊下を小走りに近づいてくる音。
剛士がそっと悠里を離し、リビングのドアを見つめた。
その一瞬後に、勢いよくドアが開く。
剛士が、悪戯っぽく微笑んだ。
「……おかえり。お邪魔してます」
憧れの人物を認めた悠人が、顔をほころばせた。
「良かったあ、柴崎さんだあ!あ、ただいまです!あっ、お誕生日おめでとうございます!!」
興奮のあまり、いつになく早口で答え、悠人が深々と頭を下げる。
「はは、ありがとな」
弟からのお祝いの言葉に、剛士は切れ長の瞳を優しく細めた。
「今日も、部活だったんだな」
「はい!でも今日は顧問の先生の都合で、16時終わりだったんですよ!」
喜々として内部情報を報告してくる彼に、思わず剛士は笑った。
「そっか。お疲れ」
「はい!ありがとうございます!」
剛士は悠人を見つめ、悪戯っぽく首を傾げた。
「……やるか?」
長い指が、庭のゴールを指す。
ぱあっと悠人の目が輝いた。
「はい!お願いします!!」
荷物を置き、悠人がガッツポーズをする。
「やった……やった!めっちゃ走って、帰ってきた甲斐があった……」
「はは、ありがとな」
剛士は笑い、傍らの悠里に囁いた。
「じゃ、ちょっと庭借りるな?」
真っ赤な頬のまま、おずおずと剛士を見上げる悠里に微笑みかける。
「……続きはまた、今度な」
悠人には見えないように、そっと彼女の手を握り、剛士は立ち上がった。
幸い悠人は、隣にいる姉のことなど、眼中にないようだ。
甘い熱が、悠里の隣から離れていき、頭がようやく動き出す。
悠里はぎこちなく、自分の髪に触れた。
感じた甘い感覚を、繰り返し繰り返し、思い返す。
髪に触れた、剛士の優しい唇を。
――ちゅって、された。
髪に、ちゅって、されちゃった……
まさかのタイミングで帰ってきた弟。
悠里の頭に、昨夜のやり取りが蘇る。
剛士に会いたいと、さんざん駄々を捏ねていた悠人が、急に引き下がった。
あれは、今日の練習が短いことを思い出したからなのだろう。
姉には何も伝えず、一か八かで必死に走って帰ってきたに違いない。
悠里は、バスケットボールを用意して庭に向かう2人を見つめる。
楽しそうにバスケの話をしている姿は、まるで兄弟のようだ。
これはこれで、嬉しい光景だった。
剛士との絆が、また強くなる気がした。
この熱くなった頬が少し落ち着いたら、2人のシュート練習を見学させて貰おう。
悠里がそう思った瞬間だった。
「好きだよ」
「……え?」
「悠里のこと」
耳元で、囁くように伝えられた、剛士の気持ち。
初めて、言葉にして伝えてくれた、剛士の思い。
驚きが過ぎると、じわじわと甘い喜びが込み上げてくる。
悠里は、きゅうっと剛士にしがみついた。
「悠里」
剛士が優しい声で、彼女に願う。
「もう少しだけ、俺のこと、待っててくれる?」
「……はい」
悠里は、殆ど無意識のうちに答えた。
「いつまでも、待ってます……」
「あまり待たせないようにする」
「ふふ……うん」
剛士がくれた真っ直ぐな思いと、約束。
それさえあれば、どこまでも、がんばれる気がした。
「ゴウさん……大好き」
「俺も……大好きだよ」
2人が気持ちを伝え合い、甘やかに抱きしめ合った、その時だった。
ガチャガチャッと、玄関の鍵が開く音がした。
「えっ!?」
悠里が顔を上げる。
パチリと剛士と目が合った。
「……弟?」
「う、うん。そうみたい……」
時計を見ると、まだ17時前だ。
「いつもより2時間以上早い……どうして」
ふっと剛士が微笑んだ。
「……タイムアップかあ」
惜しむように、力を込めて抱き寄せられる。
大きな手が、悠里の後頭部を優しく包み込む――
ちゅっと、髪に柔らかな感覚が落ちた。
バタバタと廊下を小走りに近づいてくる音。
剛士がそっと悠里を離し、リビングのドアを見つめた。
その一瞬後に、勢いよくドアが開く。
剛士が、悪戯っぽく微笑んだ。
「……おかえり。お邪魔してます」
憧れの人物を認めた悠人が、顔をほころばせた。
「良かったあ、柴崎さんだあ!あ、ただいまです!あっ、お誕生日おめでとうございます!!」
興奮のあまり、いつになく早口で答え、悠人が深々と頭を下げる。
「はは、ありがとな」
弟からのお祝いの言葉に、剛士は切れ長の瞳を優しく細めた。
「今日も、部活だったんだな」
「はい!でも今日は顧問の先生の都合で、16時終わりだったんですよ!」
喜々として内部情報を報告してくる彼に、思わず剛士は笑った。
「そっか。お疲れ」
「はい!ありがとうございます!」
剛士は悠人を見つめ、悪戯っぽく首を傾げた。
「……やるか?」
長い指が、庭のゴールを指す。
ぱあっと悠人の目が輝いた。
「はい!お願いします!!」
荷物を置き、悠人がガッツポーズをする。
「やった……やった!めっちゃ走って、帰ってきた甲斐があった……」
「はは、ありがとな」
剛士は笑い、傍らの悠里に囁いた。
「じゃ、ちょっと庭借りるな?」
真っ赤な頬のまま、おずおずと剛士を見上げる悠里に微笑みかける。
「……続きはまた、今度な」
悠人には見えないように、そっと彼女の手を握り、剛士は立ち上がった。
幸い悠人は、隣にいる姉のことなど、眼中にないようだ。
甘い熱が、悠里の隣から離れていき、頭がようやく動き出す。
悠里はぎこちなく、自分の髪に触れた。
感じた甘い感覚を、繰り返し繰り返し、思い返す。
髪に触れた、剛士の優しい唇を。
――ちゅって、された。
髪に、ちゅって、されちゃった……
まさかのタイミングで帰ってきた弟。
悠里の頭に、昨夜のやり取りが蘇る。
剛士に会いたいと、さんざん駄々を捏ねていた悠人が、急に引き下がった。
あれは、今日の練習が短いことを思い出したからなのだろう。
姉には何も伝えず、一か八かで必死に走って帰ってきたに違いない。
悠里は、バスケットボールを用意して庭に向かう2人を見つめる。
楽しそうにバスケの話をしている姿は、まるで兄弟のようだ。
これはこれで、嬉しい光景だった。
剛士との絆が、また強くなる気がした。
この熱くなった頬が少し落ち着いたら、2人のシュート練習を見学させて貰おう。
悠里がそう思った瞬間だった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる