上 下
29 / 50
piece5 楽しい観覧車

2人の小さな空間

しおりを挟む
窓から差し込む日差しが、とても暖かかった。
何を話すことがなくても、剛士をすぐ傍に感じる。

いつもなら、こんなことはできないはずなのに。
悠里は心のままに、彼の逞しい肩に頭を預ける。
剛士も何も言わず、ただ優しく、髪を撫でてくれる。

――気持ちいいな……

穏やかな幸せに包まれて。
優しい温もりに誘われて。
悠里はそっと、目を閉じた。


「……悠里」
優しい声とともに、ポンポンと頭を撫でられる。
「ん……」
ゆっくりと、悠里は目を開けた。

一瞬、自分の状況がわからなかった。
繋がれた暖かい手。もたれかかった優しい腕。
「……ん?」
「大丈夫か? もう少しで着くぞ」
「えっ?」

慌てて身体を起こし、悠里は傍らの剛士を見つめる。
「……私……寝てた?」
ふっと剛士が吹き出す。
「うん」
「ええっ」
一気に耳まで赤くなってしまう。

「ご、ごめんなさい!」
あまりの衝撃にあたふたする悠里を見て、剛士が優しく笑い彼女の頭を撫でる。
「疲れてたんだろ?別にいいよ」
悠里は首を横に振り、俯いた。

「ごめんなさい……」
「なんで? 俺、嬉しかったよ?」
「え……?」
おそるおそる彼の顔を窺うと、剛士の切れ長の瞳が、柔らかく悠里を見つめていた。

「悠里が、俺に甘えてくれたから」
「ゴウさん……」
長い指が、嬉しそうに悠里の髪に触れる。
「可愛かった」
「ゴ、ゴウさん……」
今度は別の理由で、悠里の頬が真っ赤に色づく。

「……ほら。もう少しで、着いちゃうからさ、」
剛士の逞しい腕が、距離を取って座り直していた悠里を、そっと引き寄せた。

「もう少しだけ、傍にいよう?」
「……うん」
彼の暖かさを間近に感じながら、悠里はこの優しい時間を胸に刻みつけた。


「悠里ーおっはよー!」
地上に辿り着くと、彩奈が顔いっぱいに笑いを浮かべて悠里を抱きしめた。
「お、おはよ……?」

どうして、眠っていたことを知られているのだろう。
戸惑う悠里の顔を見、拓真が微笑んだ。
「2周目の観覧車は、どうだった?」
「……2周目!?」

悠里は大きな目を更に見開き、3人の顔を見回す。
「2周目、だったの……?」

「だって悠里ちゃん、めちゃめちゃ気持ち良さそうに寝てんだもん」
拓真が笑いながら応えた。

「起こすの可哀想だったし、普通に降り損なったしで、スタッフさんが『じゃあ2周目行ってらっしゃい』って、言ってくれたんだ」

顔から火が出るとは、このことだろう。
悠里は両手で顔を隠しながら、力なく崩れ落ちる。

「もう、悠里ったらー!超可愛かったよ~?」
彩奈の笑い声とともに、遠慮なくバシバシと叩かれる背中。
「うぅ……」

一体自分は、何分寝ていたのだろう。

2周目であることも言わず、ただ微笑んでくれた、優しい剛士。
「ごめんなさい……」
改めて悠里は彼を見上げ、心からの謝罪を繰り返す。

剛士が笑いながら、悠里の隣にしゃがんだ。
「ちょっとは、スッキリしたか?」

言われてみれば、頭の芯にこびりついていた眠気が、かなり引いていた。
「……はい。スッキリしました……」
「良かったな」
優しい笑顔とともに、クシャクシャと髪を撫でられる。

彩奈と拓真が笑って、口々に励ましと冷やかしを投げかけてくる。
3人の明るい笑顔を見ているうちに、悠里も笑ってしまった。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

#秒恋5 恋人同士まで、秒読みの、筈だった

ReN
恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

異世界じゃスローライフはままならない~聖獣の主人は島育ち~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:9,040pt お気に入り:9,077

更年期と付き合う

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

処理中です...