上 下
28 / 50
piece5 楽しい観覧車

あいつらって、似てるよな

しおりを挟む
観覧車の前に着くと、既に彩奈と拓真が並び、順番を待っていたところだった。

「ねえねえ、せっかくだからさ。観覧車は2人2人で分かれようよ」
彩奈が、ニヤニヤしながら悠里と剛士を見比べた。

拓真も、うんうんと楽しげに頷く。
「ゴウには、お化け屋敷で受けた恩があるからさ。悠里ちゃんと2人きりの時間をプレゼントする!」
「はいよ」
こともなげに応じる剛士の隣で、悠里は頬を真っ赤に染めた。

「だ……大丈夫かな、私……」
「何が!?」
高鳴る胸を持て余す悠里を見て、彩奈と拓真が笑い出す。
「だいじょーぶだいじょーぶ!シバさんに全て任せな?」
「ゴウ!優しくしてあげろよー?」
「……はいよ」
2人の揶揄いには乗らず、剛士は軽く流した。


日曜日でも、それほど混まない穴場の地元遊園地。
観覧車の順番も、すぐに巡ってきた。

彩奈と拓真の2人が、勇んで先のゴンドラに乗り込む。
彩奈がキラキラと目を輝かせ、声援を送ってきた。
「悠里!がんばれ!」
その後ろで拓真も、笑顔でガッツポーズをしている。
悠里の頬が、恥じらいに染まる。
しかし照れている暇もなく、次のゴンドラがやって来た。

「悠里、ほら」
先に乗り込んだ剛士が、手を差し伸べてくる。
「は、はい!」
慌てて悠里は、彼の大きな手にしがみついた。

「行ってらっしゃい」
係員がにこやかに微笑み、カチャンと扉が閉められる。
悠里と剛士の小さな空間が、ゆっくりと昇り始めた。


手を繋いで乗ったため、悠里は彼の隣に座っていた。
「え、えっと……向かいに座った方がいいよね」
腰を浮かせかけた悠里を、剛士の手が引き戻す。
「いいよ、このままで」

間近で見る、綺麗な黒い瞳。
優しく微笑まれ、心地よい胸の高鳴りに抱かれた。
「.....うん」

腕と腕が触れ合うほどの距離。
繋いでいた手が動き、指を絡められる。
恥ずかしさに俯きながらも、悠里はそっと剛士の温もりに身を任せた。


太陽が差し込み、観覧車の中に春が来たような、柔らかな暖かさが2人を包み込む。
ふと、先に登っていくゴンドラから、強烈な視線を感じた。

ふっと剛士が吹き出す。
「アホか、あいつら」
見上げると、彩奈と拓真の2人が思い切りこちらを覗き込んでいた。
悠里たちが気づいた瞬間、嬉しそうに手を振ってくる。
思わず悠里も吹き出した。

友人たちの顔を見ると、剛士と2人きりという緊張が解け、純粋な喜びを感じられるようになった気がする。
「まあ、とりあえず手振っとくか」
笑いながら剛士が悠里に身体を寄せ、手を振り返した。

更に間近になった彼の温もりにドキドキしながらも、悠里も笑顔で手を振る。
観覧車が昇るにつれ、友人たちのゴンドラは見えなくなった。


「……よし。邪魔者はいなくなったな」
「ふふっ」
冗談めかした剛士の言葉に、悠里は笑い出す。

「ずっと思ってたんだけどさ、」
剛士が笑いながら言った。
「あいつらって、似てるよな」
「似てる!」

悠里も同じことを考えていた。
「だよな。ああいうお調子者なところも、」
「ふふ。子どもみたいに、はしゃぐところも、」
「いつも明るくて、元気をくれるところも」
「いつも傍にいて、助けてくれるところも」
悠里と剛士は、微笑んで顔を見合わせた。

「気持ちを、わかってくれるところも」
剛士が優しい笑みを浮かべた。
「似てるよな」
「うん!」

「いい友だち持ってんな、悠里」
「ふふ、ゴウさんも」
「……これからもあの2人、大事にしような」
剛士の長い指が、優しく悠里の手を握った。
「うん!」
暖かい手をそっと握り返し、悠里は微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

犠牲の恋

詩織
恋愛
私を大事にすると言ってくれた人は…、ずっと信じて待ってたのに… しかも私は悪女と噂されるように…

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

処理中です...