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piece4 楽しい遊園地
お化け屋敷モニタリング 後半戦
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結局、拓真はスタート地点の椅子に座った人形まで戻ってしまった。
『どうする?ギブアップするか?』
『うう……しない』
『しないのかよ!』
呆れた剛士から、突っ込みと説得が入っている。
『ここ入口だから、すぐ出られるぞ?』
『うう、入口は、入るから入口なんです。オレはちゃんと、出口から出るんです……』
『アホか』
剛士が軽く溜め息をついた。
『ああ、もう。じゃあ行こう? ほら』
剛士がうずくまっている拓真に手を差し伸べる。
そうして拓真を立ち上がらせると、クシャクシャと頭を撫でた。
『俺から離れんなよ?』
『うう、ゴウ~』
手を引いて歩くことにしたのだろう。
剛士は拓真と手を繋いだまま、ゆっくりと歩き始めた。
その様子にまた笑いを誘われながらも、彩奈は言った。
「シバさん、優しいね。こんな有様でも怒らないし、しかも手ぇ繋いであげてるし」
「うん、拓真さんのこと励まして……優しいね」
こんなに怖がりなのに、怖いものが好きだという拓真。
彼の意思を尊重して、ギブアップをさせなかった剛士に、改めて悠里は暖かい気持ちを抱いた。
『わあああ、怖いー!』
『これ、さっき見ただろ』
剛士と拓真は、先程の障子に差し掛かっていた。
怯える拓真を宥めながら、剛士は彼の手を引き、次の地点に向かう。
「おお、クリアした」
パチパチと拍手しながら悠里と彩奈は喜んだ。
もはや気分は保護者である。
最後に辿り着いたのは、薄暗い和室だった。
『な、何が出てくる……?』
部屋の中央まで進み、拓真はビクビクと周囲を見回している。
和室には、不気味な鏡台があった。
拓真の手を引きながら、剛士がそこに近づいていく。
ガタンッ、ガタンッ!と鏡台が揺れ動き、勢いよく引き出しが飛び出す。
『ぎゃあああああ!!』
『おお』
拓真の耳をつんざくような悲鳴。
どちらかといえば、その声に驚いたような剛士。
そんな2人の前にある鏡台の鏡に、白装束の女の姿が映った。
『いやあああああー!!』
甲高い悲鳴とともに腰を抜かす拓真。
彼を庇うようにして隣にしゃがみ、剛士は周囲を確認した。
『アハハハハハハ……!』
不気味な女の笑い声が、エコーがかかって部屋中に響き渡る。
バタン!バタン!と大きな音を立てながら、襖が開いた。
白装束に乱れ髪の女が4人、ゆっくりと部屋に入ってくる。
『きゃあああああ!?』
『うわ』
女たちを見て悲鳴を上げる拓真と、その声に驚いて声を出したらしい剛士。
剛士が拓真を立たせようとするが、完全に腰が抜けてしまった拓真の身体は、グニャグニャと畳に崩れ落ちてしまう。
剛士の奮闘も虚しく、白装束の女たちは2人の目の前に辿り着き、四方を取り囲んでしまった。
『やだあ、やだあ。もうムリ、オレたち、ここで朽ち果てるんだあぁ』
『アホか。ほら拓真、しっかりしろって』
剛士に抱きつき、泣き声を上げる拓真を、剛士が必死に励ましている。
『……あのう。大丈夫ですか?』
見兼ねたのか、お化け役の女性の1人が小声で問いかけた。
本来なら、彼女らの登場に驚いて逃げ出すはずの客がそこに留まっているので、女性としても困っているようだ。
『あ、すいません。大丈夫です』
剛士がすまなそうに答える。
『いつものことなんで』
『えっと……一応流れとしては、そちらの襖から出ていただきましたら、お化け屋敷は終了となります』
『わかりました』
『あ、最後に、プシューっと空気で脅かす仕掛けがありますので、お気をつけて』
『あ、ありがとうございます』
再び、モニタリングスペースの女子2人が崩れ落ちる。
「待て待て。お化け役の人に、ガチで心配されちゃってんじゃん!」
「ゴウさんが、お化けと普通に会話してる……」
とんでもない状況に、息も絶え絶えに笑いながら、彩奈と悠里が顔を見合わせた。
程なくして、ぐったりとした拓真と、彼を担ぐようにして剛士が出てきた。
2人の姿を確認するなり、悠里と彩奈はまた笑い出す。
「2人とも、お疲れさま!」
「ちょっと、大丈夫?拓真くーん」
彩奈が、バシバシと拓真の背を叩いた。
「はああああ……」
彩奈の手の感触に、生きて出られたことを実感したのだろう。
拓真は長い溜め息をつくと、ズルズルとその場に座り込んだ。
「……いやあ、楽しかったあ!」
「いや楽しかったんかーい!」
ケラケラと彩奈が笑い、また拓真の背を叩く。
「まあ、シバさんは大変だったろうけどねえ?」
彩奈の労いの言葉に、剛士は苦笑しながらも首を横に振った。
「……いや、今日はまだマシだぞ」
「あれで!?」
彩奈と悠里は目を見開く。
「うん。今日は最後まで自分で歩いたから上出来。一番ヤバいときは、最終的に俺がおんぶしたからな」
悠里は笑い過ぎて涙を零し、彩奈はお腹を抱えて笑い転げた。
「ほんとに、ほんとにもう、勘弁して!」
そして三たび、拓真の背をバシバシと叩いた。
「アンタ、マジでシバさんに感謝しなよね!」
「うんうん。ありがと、ゴウ! これからもよろしくね!」
「……まったく。しょうがねえな」
親友から、輝かんばかりの笑顔を向けられ、剛士も笑わずにはいられなかった。
『どうする?ギブアップするか?』
『うう……しない』
『しないのかよ!』
呆れた剛士から、突っ込みと説得が入っている。
『ここ入口だから、すぐ出られるぞ?』
『うう、入口は、入るから入口なんです。オレはちゃんと、出口から出るんです……』
『アホか』
剛士が軽く溜め息をついた。
『ああ、もう。じゃあ行こう? ほら』
剛士がうずくまっている拓真に手を差し伸べる。
そうして拓真を立ち上がらせると、クシャクシャと頭を撫でた。
『俺から離れんなよ?』
『うう、ゴウ~』
手を引いて歩くことにしたのだろう。
剛士は拓真と手を繋いだまま、ゆっくりと歩き始めた。
その様子にまた笑いを誘われながらも、彩奈は言った。
「シバさん、優しいね。こんな有様でも怒らないし、しかも手ぇ繋いであげてるし」
「うん、拓真さんのこと励まして……優しいね」
こんなに怖がりなのに、怖いものが好きだという拓真。
彼の意思を尊重して、ギブアップをさせなかった剛士に、改めて悠里は暖かい気持ちを抱いた。
『わあああ、怖いー!』
『これ、さっき見ただろ』
剛士と拓真は、先程の障子に差し掛かっていた。
怯える拓真を宥めながら、剛士は彼の手を引き、次の地点に向かう。
「おお、クリアした」
パチパチと拍手しながら悠里と彩奈は喜んだ。
もはや気分は保護者である。
最後に辿り着いたのは、薄暗い和室だった。
『な、何が出てくる……?』
部屋の中央まで進み、拓真はビクビクと周囲を見回している。
和室には、不気味な鏡台があった。
拓真の手を引きながら、剛士がそこに近づいていく。
ガタンッ、ガタンッ!と鏡台が揺れ動き、勢いよく引き出しが飛び出す。
『ぎゃあああああ!!』
『おお』
拓真の耳をつんざくような悲鳴。
どちらかといえば、その声に驚いたような剛士。
そんな2人の前にある鏡台の鏡に、白装束の女の姿が映った。
『いやあああああー!!』
甲高い悲鳴とともに腰を抜かす拓真。
彼を庇うようにして隣にしゃがみ、剛士は周囲を確認した。
『アハハハハハハ……!』
不気味な女の笑い声が、エコーがかかって部屋中に響き渡る。
バタン!バタン!と大きな音を立てながら、襖が開いた。
白装束に乱れ髪の女が4人、ゆっくりと部屋に入ってくる。
『きゃあああああ!?』
『うわ』
女たちを見て悲鳴を上げる拓真と、その声に驚いて声を出したらしい剛士。
剛士が拓真を立たせようとするが、完全に腰が抜けてしまった拓真の身体は、グニャグニャと畳に崩れ落ちてしまう。
剛士の奮闘も虚しく、白装束の女たちは2人の目の前に辿り着き、四方を取り囲んでしまった。
『やだあ、やだあ。もうムリ、オレたち、ここで朽ち果てるんだあぁ』
『アホか。ほら拓真、しっかりしろって』
剛士に抱きつき、泣き声を上げる拓真を、剛士が必死に励ましている。
『……あのう。大丈夫ですか?』
見兼ねたのか、お化け役の女性の1人が小声で問いかけた。
本来なら、彼女らの登場に驚いて逃げ出すはずの客がそこに留まっているので、女性としても困っているようだ。
『あ、すいません。大丈夫です』
剛士がすまなそうに答える。
『いつものことなんで』
『えっと……一応流れとしては、そちらの襖から出ていただきましたら、お化け屋敷は終了となります』
『わかりました』
『あ、最後に、プシューっと空気で脅かす仕掛けがありますので、お気をつけて』
『あ、ありがとうございます』
再び、モニタリングスペースの女子2人が崩れ落ちる。
「待て待て。お化け役の人に、ガチで心配されちゃってんじゃん!」
「ゴウさんが、お化けと普通に会話してる……」
とんでもない状況に、息も絶え絶えに笑いながら、彩奈と悠里が顔を見合わせた。
程なくして、ぐったりとした拓真と、彼を担ぐようにして剛士が出てきた。
2人の姿を確認するなり、悠里と彩奈はまた笑い出す。
「2人とも、お疲れさま!」
「ちょっと、大丈夫?拓真くーん」
彩奈が、バシバシと拓真の背を叩いた。
「はああああ……」
彩奈の手の感触に、生きて出られたことを実感したのだろう。
拓真は長い溜め息をつくと、ズルズルとその場に座り込んだ。
「……いやあ、楽しかったあ!」
「いや楽しかったんかーい!」
ケラケラと彩奈が笑い、また拓真の背を叩く。
「まあ、シバさんは大変だったろうけどねえ?」
彩奈の労いの言葉に、剛士は苦笑しながらも首を横に振った。
「……いや、今日はまだマシだぞ」
「あれで!?」
彩奈と悠里は目を見開く。
「うん。今日は最後まで自分で歩いたから上出来。一番ヤバいときは、最終的に俺がおんぶしたからな」
悠里は笑い過ぎて涙を零し、彩奈はお腹を抱えて笑い転げた。
「ほんとに、ほんとにもう、勘弁して!」
そして三たび、拓真の背をバシバシと叩いた。
「アンタ、マジでシバさんに感謝しなよね!」
「うんうん。ありがと、ゴウ! これからもよろしくね!」
「……まったく。しょうがねえな」
親友から、輝かんばかりの笑顔を向けられ、剛士も笑わずにはいられなかった。
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