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piece4 楽しい遊園地
ジェットコースターと剛士の弱点
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「......絶叫系、平気?」
前を歩く彩奈たちとは少し距離をとった状態で、そっと剛士が尋ねた。
「うん! 大好き」
答えながら気がついた。
悠里は小声で聞き返す。
「......もしかして、ゴウさん、苦手?」
剛士は前を歩く友人たちを気にしながら、微かに頷いた。
なるほど、先程ジェットコースターのレールを固い表情で見つめていたのは、そういうことだったのか。
悠里は彼を気遣いながら、そっと囁く。
「大丈夫? 私も乗らずに、2人を待ってる?」
「……いや。乗る」
剛士が、首を横に振り、唇を引き結んだ。
「拓真に知られたら、末代までネタにされるから」
悲壮な決意を固めた様子の剛士だが、明らかに顔色が悪い。
「悠里……俺の隣に乗って」
剛士がこんなふうに自分を頼ってくるのは、初めてではないだろうか。
悠里は思わず笑ってしまう。
「ゴウさん、可愛い」
「う、うっせ」
「ふふっ」
剛士の頬が微かに染まり、悠里はますます笑みを堪えることができなかった。
「ん? 楽しそうだねえ、お2人さん!」
悠里の笑い声が聞こえたのだろう、彩奈が振り返った。
「……ん。今日、悠里の隣は、俺のもんだから」
剛士が悠里の手を掬い上げ、彩奈たちに見せつけるように胸の辺りにまで掲げた。
拓真が口笛を吹き、彩奈はお腹を抱えて笑い出す。
「あっはは!いいですよ! 悠里のこと、よろしくお願いします!」
「はいよ」
ふっと不敵な微笑を浮かべ、剛士は答えた。
顔いっぱいに、ニヤニヤ笑いを広げた彩奈の目が、満足げにこちらを向く。
「だってさ!私と拓真くんのことは、まあその辺のオブジェだとでも思って」
「あ、彩奈……」
余計な弁明をするわけにもいかず、悠里はただ俯くしかなかった。
剛士の意図は、わかっている。
あえて悠里と近づいて見せることで、彩奈と拓真の注意を逸らしたのだ。
剛士のウィークポイントを、2人に悟らせるわけにはいかない。
悠里は真っ赤な顔をしながらも、大人しく手を繋がれたままでいた。
「ごめんな、巻き込んで」
そっと囁かれる優しい声に、悠里は首を振って微笑んだ。
「……ふふ。2人の秘密ですね」
「……ん。悠里だけ」
ほっとしたように剛士が笑ったのを見て、悠里の胸は幸せに弾む。
剛士にとって、人には知られたくないであろう、可愛らしい弱点。
自分だけに見せてくれたことが、嬉しかった。
ジェットコースターに乗り込み、安全バーを装着する。
肩をがっちりと押さえるタイプではなく、腰部分を固定するためのレバーだ。
この形の安全バーであれば、それほど激しいコースではないだろう。
レールを確認したが、一回転などのハードなポイントは、もちろん見当たらなかった。
それでも、剛士の表情は、可哀想な程に固い。
前の席で、はしゃいでいる彩奈と拓真は、剛士の口数が極端に減ったことには気がついていないようだ。
悠里は、そっと剛士の手に触れる。
「ゴウさん、大丈夫?」
「うん.......無理」
耐えきれず、悠里は吹き出してしまう。
剛士は、ふてくされたように横目で彼女を見つめた。
「ふふ、ごめんね」
悠里は彼の冷たくなってしまった手を、きゅっと握った。
恐怖を拭い去ることはできないだろうが、せめて乗っている間、ずっと手を繋いでいようと思った。
出発を告げるブザーが鳴り、剛士の手に力が込もった。
励ますように悠里も握り返す。
ガタンッとひとつ大きく揺れ、コースターが動き始めた。
「わあ、高~い!」
「やっほーお!」
前の2人は、楽しくて堪らないといったふうに大騒ぎしている。
良い天気だ。青空に向かって進んでいくような感覚。
2月の冷たい風さえも、爽快だ。
カタカタと、小気味よくレールが鳴る。
剛士を見ると、固く目を閉じ、俯いていた。
――本当に、苦手なんだなあ。
少しでも力づけてあげたくて、悠里はそっと、彼の肩に身を寄せた。
剛士の頭が、悠里に寄り添ってくる。
カタリ。
レールの音が止み、一瞬の制止。
剛士の身体が強張ったのが、わかった。
ジェットコースターが、彼にとっての地獄に向かって、急降下を始める。
「うっひゃあああ~」
「きゃーっ!」
楽しそうな悲鳴が、前から後ろから聞こえる。
その中を無言で、ひたすらに耐えている剛士。
――可哀想、だけど。
ゴウさん、可愛い!
きゅっと彼の腕と手にしがみつき、悠里はこの状況を思い切り楽しんでしまった。
前を歩く彩奈たちとは少し距離をとった状態で、そっと剛士が尋ねた。
「うん! 大好き」
答えながら気がついた。
悠里は小声で聞き返す。
「......もしかして、ゴウさん、苦手?」
剛士は前を歩く友人たちを気にしながら、微かに頷いた。
なるほど、先程ジェットコースターのレールを固い表情で見つめていたのは、そういうことだったのか。
悠里は彼を気遣いながら、そっと囁く。
「大丈夫? 私も乗らずに、2人を待ってる?」
「……いや。乗る」
剛士が、首を横に振り、唇を引き結んだ。
「拓真に知られたら、末代までネタにされるから」
悲壮な決意を固めた様子の剛士だが、明らかに顔色が悪い。
「悠里……俺の隣に乗って」
剛士がこんなふうに自分を頼ってくるのは、初めてではないだろうか。
悠里は思わず笑ってしまう。
「ゴウさん、可愛い」
「う、うっせ」
「ふふっ」
剛士の頬が微かに染まり、悠里はますます笑みを堪えることができなかった。
「ん? 楽しそうだねえ、お2人さん!」
悠里の笑い声が聞こえたのだろう、彩奈が振り返った。
「……ん。今日、悠里の隣は、俺のもんだから」
剛士が悠里の手を掬い上げ、彩奈たちに見せつけるように胸の辺りにまで掲げた。
拓真が口笛を吹き、彩奈はお腹を抱えて笑い出す。
「あっはは!いいですよ! 悠里のこと、よろしくお願いします!」
「はいよ」
ふっと不敵な微笑を浮かべ、剛士は答えた。
顔いっぱいに、ニヤニヤ笑いを広げた彩奈の目が、満足げにこちらを向く。
「だってさ!私と拓真くんのことは、まあその辺のオブジェだとでも思って」
「あ、彩奈……」
余計な弁明をするわけにもいかず、悠里はただ俯くしかなかった。
剛士の意図は、わかっている。
あえて悠里と近づいて見せることで、彩奈と拓真の注意を逸らしたのだ。
剛士のウィークポイントを、2人に悟らせるわけにはいかない。
悠里は真っ赤な顔をしながらも、大人しく手を繋がれたままでいた。
「ごめんな、巻き込んで」
そっと囁かれる優しい声に、悠里は首を振って微笑んだ。
「……ふふ。2人の秘密ですね」
「……ん。悠里だけ」
ほっとしたように剛士が笑ったのを見て、悠里の胸は幸せに弾む。
剛士にとって、人には知られたくないであろう、可愛らしい弱点。
自分だけに見せてくれたことが、嬉しかった。
ジェットコースターに乗り込み、安全バーを装着する。
肩をがっちりと押さえるタイプではなく、腰部分を固定するためのレバーだ。
この形の安全バーであれば、それほど激しいコースではないだろう。
レールを確認したが、一回転などのハードなポイントは、もちろん見当たらなかった。
それでも、剛士の表情は、可哀想な程に固い。
前の席で、はしゃいでいる彩奈と拓真は、剛士の口数が極端に減ったことには気がついていないようだ。
悠里は、そっと剛士の手に触れる。
「ゴウさん、大丈夫?」
「うん.......無理」
耐えきれず、悠里は吹き出してしまう。
剛士は、ふてくされたように横目で彼女を見つめた。
「ふふ、ごめんね」
悠里は彼の冷たくなってしまった手を、きゅっと握った。
恐怖を拭い去ることはできないだろうが、せめて乗っている間、ずっと手を繋いでいようと思った。
出発を告げるブザーが鳴り、剛士の手に力が込もった。
励ますように悠里も握り返す。
ガタンッとひとつ大きく揺れ、コースターが動き始めた。
「わあ、高~い!」
「やっほーお!」
前の2人は、楽しくて堪らないといったふうに大騒ぎしている。
良い天気だ。青空に向かって進んでいくような感覚。
2月の冷たい風さえも、爽快だ。
カタカタと、小気味よくレールが鳴る。
剛士を見ると、固く目を閉じ、俯いていた。
――本当に、苦手なんだなあ。
少しでも力づけてあげたくて、悠里はそっと、彼の肩に身を寄せた。
剛士の頭が、悠里に寄り添ってくる。
カタリ。
レールの音が止み、一瞬の制止。
剛士の身体が強張ったのが、わかった。
ジェットコースターが、彼にとっての地獄に向かって、急降下を始める。
「うっひゃあああ~」
「きゃーっ!」
楽しそうな悲鳴が、前から後ろから聞こえる。
その中を無言で、ひたすらに耐えている剛士。
――可哀想、だけど。
ゴウさん、可愛い!
きゅっと彼の腕と手にしがみつき、悠里はこの状況を思い切り楽しんでしまった。
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