#秒恋3 友だち以上恋人未満の貴方に、甘い甘いサプライズを〜貴方に贈るハッピーバースデー〜

ReN

文字の大きさ
上 下
16 / 50
piece3 パーティー前日

柴崎さん、明日ウチ来るの!?

しおりを挟む
日が傾き、寒さが忍び寄ってきた頃。

サプライズパーティーの最終確認、と称したお喋りを切り上げ、彩奈は伸びをする。

「さぁて。じゃあそろそろ、おいとましようかな」
「彩奈。今日は本当にありがとう」

悠里は彼女が飾ってくれた壁を仰ぎみて、心から礼を言った。
「何言ってんの水くさい!」
彩奈が笑いながら悠里の頭を撫でる。

「悠里の恋のためなら、ひと肌でもふた肌でも脱いであげるって!」
「ふふっ」
ガッツポーズをした彩奈に思わず悠里も笑ってしまう。

そして、ちょっと待ってて、と言いおいて、キッチンに姿を消す。
冷蔵庫を開けて何かを取り出した悠里が、笑顔で彩奈の傍に駆け寄ってきた。

「彩奈!受け取ってください!」
そう言って差し出したのは、ハートのチョコレートだった。

ハート型のチョコレートは入れ物のようになっており、中に可愛らしいクッキーが詰まっていた。
ハートの周りには、小さなお花を模したホワイトチョコレートが飾られている。

「うわあ、すっごい!」
彩奈が歓声をあげて悠里を抱き締める。
「えっ!悠里、これ私のために作ってくれたの!? いつの間に!?」
「ふふ、昨日の間に」
「ヤバい!私、悠里の本命じゃん!」
「ふふ、本命だよ」
「ごめんシバさーん!」
2人して大笑いする。


「明日、楽しみだね!」
赤メガネの奥の瞳が、キラキラと輝いた。
その暖かさを胸に焼き付け、悠里は大きく頷いた。

「悠里、今夜はケーキのデコレーションするんでしょ?」
「うん、がんばるよ!」
「あはは、がんばりすぎて寝不足にならないようにね!」
「ふふっ、そうだね。それもがんばる!」

じゃあまた明日!とハイタッチをして、彩奈は足取り軽く帰路に着いたのだった。


壁の壮大なデコレーションに呆気に取られたのは、悠人だ。
友だちと遊んで帰ってきた彼は、暫くの間、ぽかんと口を開けて壁を見つめていた。

「……えっ、すっごい。何これ」
「すごいでしょ!彩奈がやってくれたんだよ」
まるで自分が褒められたかのように誇らしげな姉を見つめ、悠人は溜め息を零した。
が、はたと動きを止める。

「え?……ってことは、明日はもしかして、柴崎さんの誕生日なの?」
「ん、そうだよ」
「姉ちゃん、だから毎日クッキーやらケーキやらの試作しまくってたの?」
「うん」
「明日、柴崎さんウチ来んの!?」
「サプライズだよ」

ここで弟が牙を剥く。
「姉ちゃん!なんでそんな大事なこと早く教えてくれないの!?オレも柴崎さんに会いたい!」


中学でバスケをしている悠人にとって、地域の名門である勇誠学園バスケ部の剛士は、憧れの存在。
それは勿論わかっている。

が、悠里は諭すように答えた。
「ダーメ。明日は姉ちゃんたちでサプライズする計画なんだもん。アンタに構ってあげられないよ。それに、明日は部活の日でしょ?」

壁のボードに貼ってある部活の予定表を指し、悠里は嗜める。
「部活サボるような子に、柴崎さんはスリーポイントのコツ、教えてくれないと思うなぁ」
「うう……」

珍しく姉にやり込められ、悠人はうな垂れる。
悠里は慰めるように、ポンポンと弟の背中を叩いて言った。

「今度、柴崎さんに時間取って貰えるか、お願いしてみるよ」
「姉ちゃん、マジでお願い!」
縋りついてくる悠人に、思わず悠里は笑ってしまった。


「じゃあ姉ちゃん!がんばってね!!」
夜、ケーキのデコレーションを始めようとする悠里に向かい、弟が熱い声援を送る。

剛士の誕生日だと知った途端に、この熱量である。
本当に憧れているんだなあと、悠里は微笑ましくなり、思わず悠人の頭を撫でてしまった。

「ちょ、ちょっと、何よ」
慌てて頭を振り姉の手を払うと、悠人は問いかける。

「ねえ、柴崎さん何時まで家にいる? オレが帰るまで引き留めてよ」
「うーん。お家でランチのつもりだから、そんなに遅くまではいないと思うよ」

明日の悠人の部活は午後からである。
午後練習のときは、いつも帰りは19時頃だ。
気の毒になりつつも、悠里は答えた。

ガックリと悠人は肩を落としたが、意外にもそれ以上は食い下がってはこなかった。

「じゃあ、オレはもう部屋戻るわ。オヤスミ」
「あ、うん。おやすみ」
弟の急なトーンダウンに首を傾げつつも、悠里は夜の挨拶を返した。


「さてと」
髪を結び、手を洗って、悠里はケーキとデコレーションのクッキーなどの準備をする。

まずは、スポンジの間に挟むチョコレートクリーム作りから開始する。
チョコを細かく刻みながら、悠里は皆の顔を思い浮かべた。

買い物や準備をたくさん手伝ってくれた彩奈。
誕生日サプライズをしようと、計画を立ててくれた拓真。

そして、ストーカー騒ぎのときに助けてくれて、ずっと傍にいる剛士。

綺麗な黒髪と、切れ長の強い瞳。
優しい笑顔と、落ち着いた低い声。
自分の手を包んでくれる、髪を撫でてくれる、大きな手。

大切な人へ、想いを込めて。

悠里は時間が経つのも忘れ、一生懸命に誕生日ケーキ作りに向き合ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

処理中です...