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piece2 バースデーケーキ
もうひとつのサプライズ
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木曜日。悠里は頭を悩ませていた。
バースデーケーキに関しては、試作の甲斐もあり、準備が整ってきた。
しかし、この日は大切な、剛士の誕生日。
「何か、プレゼントしたいな.......」
サプライズだけではなく、形に残るものを贈りたい。
そう思っているのだが、なかなか良い案が浮かばないのだ。
ただの友人ではない。けれど、恋人でもない。
できるだけ、さり気ないもので、しかし気持ちを込められるプレゼントを用意したかった。
「どうすればいいかなあ……」
ダイニングテーブルに突っ伏していると、弟の悠人が帰ってきた。
「……何やってんの?」
だらんとテーブルに身体を預けている姉を見、悠人は不審な声をあげる。
悠里は目線だけを起こし、弟を見た。
寒さの中、帰宅した悠人。
その首に、目がいった。
青い毛糸のネックウォーマー。悠里が編んだものだった。
「それだ!」
「わあっ!?」
突如大きな声を上げ、ガバッと身体を起こした姉に、悠人は驚愕する。
「ありがとね悠人!」
悠里はバタバタと上着を着込み、バッグを手にした。
「私、ちょっとお買い物!1時間くらいで戻る!」
嵐のように出掛けていく姉を、悠人は唖然として見送った。
駅前の手芸屋を目指し、夕暮れの迫る道を小走りに行く。
道すがら、悠里はネックウォーマーの色や模様の案を頭に思い描いた。
剛士に贈るなら、やはり黒がいい。
彼の、透き通るような切れ長の瞳と、サラリと揺れる黒髪のように、鮮やかな。
ワクワクと胸を高鳴らせ、店の扉をくぐった。
この店は毛糸の品揃えが豊富で、編み物をしたいときに、よく利用している。
悠里は早速、黒の毛糸を物色する。
他の色も混じったような華やかな黒もあれば、引き締まった硬い黒もある。
色合いひとつをとっても、漆黒、灰色がかった優しい黒、青みを感じる黒など、いろいろな黒がある。
悠里はひとつひとつを丁寧に見ては、気になる毛糸の手触りを確かめていった。
その中に、綺麗な黒があった。
混じり気のない鮮やかな黒だが、どこか暖かい色味。
何より、柔らかな手触りがとても気に入った。
剛士の目に、似ている。
真っ直ぐに透き通って、笑ったときには優しく輝く、切れ長の瞳。
悠里は、かすかに微笑んだ。
ーーこれにしよう!
大切に毛糸を抱え、悠里は会計へと向かった。
帰宅した悠里は、お腹を空かせてブーブー文句を垂れる弟に、急いで夕飯を作る。
いま両親は国内にいるが、相変わらず多忙を極める毎日である。
そのため、夕飯の担当は悠里であることが多いのだ。
それでも母は、出勤する前に洗濯と、家族のためにしっかりとした朝食を、毎日準備してくれる。
食材の調達は宅配を利用しているので、買い物をする必要もない。
毎日仕事をがんばる父と母を、少しでも手助けしたい。
だから、晩ごはんは私が作るよ、と悠里の方から申し出た。
嬉しくて涙が出そう、と泣き真似をした父と、ありがとう、でも無理はしないでと頭を撫でてくれた母。
中学生になってから妙に大人びて生意気な弟も、悠里が作る料理を、「うま!」と言いながらいつも豪快に平らげてくれる。
そんな家族のためならば、晩ごはんを作るくらい苦ではない。
悠里は鼻歌混じりにフライパンを振った。
「はい、どうぞ」
弟の好きな照り焼きチキンをテーブルに出すと、彼はいそいそと席につき、上機嫌で食べ始めた。
「うま!あ、いただきまーす」
よほど空腹だったのだろう、感想と食前の挨拶が逆になっている。
そんな彼を見、悠里は申し訳なさそうに微笑んだ。
「ごめんね、悠人。晩ごはん遅くなっちゃって」
もぐもぐと口いっぱいに頬張りながら、悠人は答えた。
「明日、ハンバーグにしてくれたらいいよ?」
弟の可愛らしいリクエストに、悠里は思わず笑ってしまう。
「ふふ、わかった」
明日は腕によりをかけて、ハンバーグを作ってあげよう。
暖かな気持ちに包まれながら、悠里も向かいの席で手を合わせた。
「いただきます」
「今日も、クッキーの試作すんの?」
悠人からの問いかけに、微笑んで首を横に振る。
「ううん。今日は別のことをやるから」
「ふーん」
弟は席を立ち、キッチンへと向かう。
「……悠人?」
振り返らずに、彼は言った。
「今日は、洗い物やったげるから。姉ちゃんはさっさと風呂入って、やることやっちゃえば?」
「悠人……」
ぶっきらぼうな言い方に隠した弟の優しさに、悠里は少しだけ泣きそうになる。
「ありがと!」
気恥ずかしくて、直接顔を見ては言えない。
代わりに悠里は、キッチンに向かって大きな声でお礼を言った。
弟の優しさに甘えて、お風呂に入った後は早々に自室に籠る。
悠里はワクワクしながら、買ってきた毛糸を取り出した。
「やっぱり、綺麗……」
部屋の明かりで見ても、とても上品な黒だった。
大切そうに毛糸を撫で、悠里は微笑む。
時計の針は、まだ21時半。
これなら、今夜のうちに仕上げられそうだ。
悠里は、使い慣れた棒針を取り出す。
剛士に贈る、ネックウォーマー。
柄は、マフラーやセーターにもよく使われる縄編みに決めた。
見た目にも暖かそうな雰囲気がでる模様で、悠里の好きな編み方だった。
柔らかな黒の毛糸で輪を作り、棒針を入れて最初の一目を作る。
悠里は心を込めて、剛士へのネックウォーマーを編み始めた。
バースデーケーキに関しては、試作の甲斐もあり、準備が整ってきた。
しかし、この日は大切な、剛士の誕生日。
「何か、プレゼントしたいな.......」
サプライズだけではなく、形に残るものを贈りたい。
そう思っているのだが、なかなか良い案が浮かばないのだ。
ただの友人ではない。けれど、恋人でもない。
できるだけ、さり気ないもので、しかし気持ちを込められるプレゼントを用意したかった。
「どうすればいいかなあ……」
ダイニングテーブルに突っ伏していると、弟の悠人が帰ってきた。
「……何やってんの?」
だらんとテーブルに身体を預けている姉を見、悠人は不審な声をあげる。
悠里は目線だけを起こし、弟を見た。
寒さの中、帰宅した悠人。
その首に、目がいった。
青い毛糸のネックウォーマー。悠里が編んだものだった。
「それだ!」
「わあっ!?」
突如大きな声を上げ、ガバッと身体を起こした姉に、悠人は驚愕する。
「ありがとね悠人!」
悠里はバタバタと上着を着込み、バッグを手にした。
「私、ちょっとお買い物!1時間くらいで戻る!」
嵐のように出掛けていく姉を、悠人は唖然として見送った。
駅前の手芸屋を目指し、夕暮れの迫る道を小走りに行く。
道すがら、悠里はネックウォーマーの色や模様の案を頭に思い描いた。
剛士に贈るなら、やはり黒がいい。
彼の、透き通るような切れ長の瞳と、サラリと揺れる黒髪のように、鮮やかな。
ワクワクと胸を高鳴らせ、店の扉をくぐった。
この店は毛糸の品揃えが豊富で、編み物をしたいときに、よく利用している。
悠里は早速、黒の毛糸を物色する。
他の色も混じったような華やかな黒もあれば、引き締まった硬い黒もある。
色合いひとつをとっても、漆黒、灰色がかった優しい黒、青みを感じる黒など、いろいろな黒がある。
悠里はひとつひとつを丁寧に見ては、気になる毛糸の手触りを確かめていった。
その中に、綺麗な黒があった。
混じり気のない鮮やかな黒だが、どこか暖かい色味。
何より、柔らかな手触りがとても気に入った。
剛士の目に、似ている。
真っ直ぐに透き通って、笑ったときには優しく輝く、切れ長の瞳。
悠里は、かすかに微笑んだ。
ーーこれにしよう!
大切に毛糸を抱え、悠里は会計へと向かった。
帰宅した悠里は、お腹を空かせてブーブー文句を垂れる弟に、急いで夕飯を作る。
いま両親は国内にいるが、相変わらず多忙を極める毎日である。
そのため、夕飯の担当は悠里であることが多いのだ。
それでも母は、出勤する前に洗濯と、家族のためにしっかりとした朝食を、毎日準備してくれる。
食材の調達は宅配を利用しているので、買い物をする必要もない。
毎日仕事をがんばる父と母を、少しでも手助けしたい。
だから、晩ごはんは私が作るよ、と悠里の方から申し出た。
嬉しくて涙が出そう、と泣き真似をした父と、ありがとう、でも無理はしないでと頭を撫でてくれた母。
中学生になってから妙に大人びて生意気な弟も、悠里が作る料理を、「うま!」と言いながらいつも豪快に平らげてくれる。
そんな家族のためならば、晩ごはんを作るくらい苦ではない。
悠里は鼻歌混じりにフライパンを振った。
「はい、どうぞ」
弟の好きな照り焼きチキンをテーブルに出すと、彼はいそいそと席につき、上機嫌で食べ始めた。
「うま!あ、いただきまーす」
よほど空腹だったのだろう、感想と食前の挨拶が逆になっている。
そんな彼を見、悠里は申し訳なさそうに微笑んだ。
「ごめんね、悠人。晩ごはん遅くなっちゃって」
もぐもぐと口いっぱいに頬張りながら、悠人は答えた。
「明日、ハンバーグにしてくれたらいいよ?」
弟の可愛らしいリクエストに、悠里は思わず笑ってしまう。
「ふふ、わかった」
明日は腕によりをかけて、ハンバーグを作ってあげよう。
暖かな気持ちに包まれながら、悠里も向かいの席で手を合わせた。
「いただきます」
「今日も、クッキーの試作すんの?」
悠人からの問いかけに、微笑んで首を横に振る。
「ううん。今日は別のことをやるから」
「ふーん」
弟は席を立ち、キッチンへと向かう。
「……悠人?」
振り返らずに、彼は言った。
「今日は、洗い物やったげるから。姉ちゃんはさっさと風呂入って、やることやっちゃえば?」
「悠人……」
ぶっきらぼうな言い方に隠した弟の優しさに、悠里は少しだけ泣きそうになる。
「ありがと!」
気恥ずかしくて、直接顔を見ては言えない。
代わりに悠里は、キッチンに向かって大きな声でお礼を言った。
弟の優しさに甘えて、お風呂に入った後は早々に自室に籠る。
悠里はワクワクしながら、買ってきた毛糸を取り出した。
「やっぱり、綺麗……」
部屋の明かりで見ても、とても上品な黒だった。
大切そうに毛糸を撫で、悠里は微笑む。
時計の針は、まだ21時半。
これなら、今夜のうちに仕上げられそうだ。
悠里は、使い慣れた棒針を取り出す。
剛士に贈る、ネックウォーマー。
柄は、マフラーやセーターにもよく使われる縄編みに決めた。
見た目にも暖かそうな雰囲気がでる模様で、悠里の好きな編み方だった。
柔らかな黒の毛糸で輪を作り、棒針を入れて最初の一目を作る。
悠里は心を込めて、剛士へのネックウォーマーを編み始めた。
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