上 下
8 / 50
piece2 バースデーケーキ

ほんとに大好きなんだね

しおりを挟む
翌日の放課後、悠里は彩奈に付き合ってもらい、製菓グッズが置いてある店を覗く。

「あ、悠里!こっちこっち」
手分けして陳列棚を探していた彩奈が、赤メガネの下の目を輝かせて手招きした。
その棚には、サッカー・野球など、スポーツを模した型がたくさん並んでいる。

バスケのユニフォームは、ノースリーブ。
悠里は目を皿のようにして、陳列棚を見つめる。
「……あった!」

シンプルなノースリーブのクッキー型。
大きさは、5センチくらいだろうか。
ちょうどいいサイズが見つかり、悠里は微笑んだ。

「……いい感じ?」
悠里の手元を覗き込み、彩奈も笑う。
「うん!彩奈、ありがとう」
「良かった良かった!」

悠里の長い髪を撫で、彩奈が棚を指す。
「あ、バスケボールの型もあるよ?これはいらない?」
「うん、大丈夫! ボールは、丸い型の上にアイシングで作れそうだから」

「もしかして、既に試作済み?」
ニヤニヤと彩奈が悠里の顔を覗き込む。
「さすが、気合い入ってんねえ」
「もう、彩奈!」
照れ隠しにむくれて見せ、悠里は話を切り替えた。

「せっかくだから、材料も買っていっちゃおうかな。いい?」
「もちろん!」
2人は笑い合いながら、製菓材料の売り場へと向かった。


ケーキとクッキーの材料をひと通り購入し、2人は、休憩とお喋りのためにカフェに入っていた。

「ねえねえ、悠里。どんなケーキを作るの?」
期待が膨らんで堪らないと言った体で、彩奈が問いかける。
悠里はにっこり微笑み、ノートに描いたケーキ全体の図案と、昨夜作ったアイシングクッキーの写真を見せた。

ワクワクと覗き込んだ彩奈の目が、パッと輝く。
「すごーい!バスケのボールとゴールだあ!これ、悠里が自分で描いたの?」
「うん!どう? それっぽく見える?」
「見える見える!むしろ、そうにしか見えない!」

ゴールのクッキーの上にボールのクッキーを乗せた画像を指し、彩奈が言った。
「この、ボールがゴールに入りそうな感じがいいよね!」
意図した通りのイメージが彩奈に伝わり、悠里は嬉しくなる。


「あ、ねえねえ、悠里」
彩奈が、パチンと指を鳴らす。
「誕生日の日付をさ、スコアボード風に描くのはどう?」
悠里は大きな目を輝かせて頷いた。
「それいいね!やってみたい!」

2人は早速、バスケットボールのスコアボードを検索する。
「この、デジタルのスコアボード、カッコよくない?」
彩奈が見せてくれたスマートフォンの画面を覗き込む。

シンプルなデザインで、上には時間、下には、両チームの点数が左右に表示されている。
そして中央には「basketball」の文字が入っていた。

「うん!カッコいいね!これを真似するなら、上に今年の西暦、下に日付で、真ん中にお名前かなあ」
「いい、いい!」

悠里の言葉に、彩奈が大きく頷いた。
自分では思いつかなかった素敵なアイディアをくれた親友に、悠里は微笑みかけた。
「可愛くなりそう。彩奈、ありがとう!」


彩奈は、嬉しそうな悠里を見つめ、目を細める。
「バスケのケーキ。まさにシバさんのためのケーキだね!」

その言葉に、悠里は頬を染めながら頷く。
 「……うん。がんばる!」
「くう一っ!恋する乙女、可愛いぞぉ」
彩奈が頭を撫でてくる。

「悠里。ほんとにシバさんのこと、大好きなんだね」
悠里は、とっさに図案を描いたノートで顔を隠す。
そして、聞こえるか聞こえないかの微かな声と共に、頷いた。
「......うん」

きゃあっ、と彩奈が歓声を上げる。
「悠里がシバさんのこと好きって言ったー!可愛いすぎるう!」

そうして、写真のアングルを決めるように、両手の指で四角を作りながら微笑む。
「はあ~……この悠里を、シバさんに見せたいわ」
こんなん惚れてまうでしょ、と彩奈は満足げにうんうんと何度も頷いた。


「がんばるねえ、悠里」
「うん。ゴウさんと一緒に、たくさん思い出を作って。積み重ねて……それで、私のこと、好きになってくれたらいいな……」
半ば独り言のように、悠里は言った。

彩奈の手が豪快に、悠里の髪をクシャクシャと撫でる。
「わっ」
思わず首をすくめた悠里に、彩奈が笑った。
「これ以上好きにならせたら、シバさんのハートがパンクしちゃうんじゃない?」

「パ、パンクって」
「まあシバさんの場合、悠里でいっぱいにして、パンクさせちゃった方がいいかもね!」
彩奈が意味ありげに、悠里の顔を覗き込んだ。

「ああいう、いろいろ抱え込んでる人にはさ。抱えてるもん全部取り落としちゃうくらい、思い切りぶつかった方がいいよ!」

彩奈らしい威勢のいい言葉に、悠里は苦笑する。
どちらかと言うと自分は、取り落とさせるよりも、支えたい、と思うのだが。


彩奈が、ケーキの図案を描いた悠里のノートを、トントンと指して言う。
「いっそのこと、悠里から告白しちゃえば?」
「し、しないよ」
悠里は真っ赤になって首を左右に振った。
「私、今のままで充分だもん!」

彩奈には言えないが、本音では、過去と向き合う決意をした剛士を、急かすようなことをしたくなかった。

悠里は、剛士と手を繋いで話した、イルミネーションの夜を思い返す。
剛士に、信じて待っていると伝えた。
今はただ、穏やかで優しい2人の時間を、ゆっくりと積み重ねていきたい。

痛みと戦う剛士の心を、少しでも癒したい――


「何をコドモみたいなこと言ってんのよ。焦れったいなあ」
彩奈は笑いながらもう一度、悠里の頭をクシャクシャと撫でた。

「まあ、両想いで、まだ付き合ってないときがイチバン楽しいってのは、わかるけどね!」
「あ、彩奈……」

なんと言い繕うこともできない。
悠里は真っ赤に染まった頬のまま、俯くしかなかったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

R18 溺愛カレシと、甘い甘いエッチ♡ オトナの#秒恋 〜貴方と刻む、幸せなミライ〜

ReN
恋愛
♡R18 ラブラブな2人の激甘エッチ短篇集♡ 愛溢れる幸せなエッチ短篇集♡ 互いを思い合う、2人の気持ちが伝わりますように。 本編 #秒恋(学園ものラブコメ)もよろしくお願いします! ・第1章は、2人の初エッチ♡ 前半は、2人で買い物をしたりお料理をしたりする、全年齢OKの甘々エピソード。 後半は、愛し合う2人の、初めてのエッチ♡ 優しい言葉をかけられながら、たくさん愛される、R18エピソードです。 ・第2章 初エッチから、2週間後の2人。 初めて、舌でイかされちゃったり、愛の証をつけられちゃうお話♡ ・第3章 まだまだ初々しい悠里。 でも、だんだん剛士に慣らされて? 無意識に、いやらしく腰を振っちゃう可愛い悠里に、夢中になってしまう剛士のお話♡ ・第4章 今回は、攻守交代。 クラスメイトと、彼の悦ばせ方の話をした悠里は、剛士に「教えて?」とおねだり。 剛士に優しく教えられながら、一生懸命に彼を手とお口で愛してあげる…… 健気でエッチな悠里、必見♡ ・第5章 学校帰り、初めて剛士の家にお呼ばれ♡ 剛士の部屋で、剛士のベッドで組み敷かれて…… 甘い甘い、制服エッチ♡ ・第6章、11/18公開! いわゆる、彼シャツなお話♡ 自分の服を着た悠里に欲情しちゃう剛士をお楽しみください♡ ★こちらは、 #秒恋シリーズの、少し未来のお話。 さまざまな試練を乗り越え、恋人になった後の甘々ストーリーになります♡ 本編では、まだまだ恋人への道のりは遠い2人。 ただいま恋の障害を執筆中で、折れそうになる作者の心を奮い立たせるために書いた、エッチな番外編です(笑) なので、更新は不定期です(笑) お気に入りに登録していただきましたら、更新情報が通知されますので、ぜひ! 2人のなれそめに、ご興味を持ってくださったら、 本編#秒恋シリーズもよろしくお願いします! #秒恋 タグで検索♡ ★1 『私の恋はドキドキと、貴方への恋を刻む』 ストーカーに襲われた女子高の生徒を救う男子高のバスケ部イケメンの話 ★2 『2人の日常を積み重ねて。恋のトラウマ、一緒に乗り越えましょう』 剛士と元彼女とのトラウマの話 ★3 『友だち以上恋人未満の貴方に甘い甘いサプライズを』 2/14バレンタインデーは、剛士の誕生日だった! 親友たちとともに仕掛ける、甘い甘いバースデーサプライズの話 ★4 『恋の試練は元カノじゃなく、元カノの親友だった件』 恋人秒読みと思われた悠里と剛士の間に立ち塞がる、元カノの親友という試練のお話 2人の心が試される、辛くて長い試練の始まりです… よろしくお願いします!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

届かない手紙

白藤結
恋愛
子爵令嬢のレイチェルはある日、ユリウスという少年と出会う。彼は伯爵令息で、その後二人は婚約をして親しくなるものの――。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中。

処理中です...