7 / 50
piece2 バースデーケーキ
4番は、キャプテンだよ
しおりを挟む
恥ずかしさに真っ赤になりながら、悠里は振り返る。
風呂上がりであろう、濡れた髪をタオルで拭きながら、呆れた表情で自分を見つめる弟がいた。
「ゆ、悠人。いつからいたの」
姉からの質問には答えず、悠人は並べられたアイシングクッキーを眺める。
「へー。バスケのボールとゴールだ」
「わかる!?」
バスケ部の弟にそれと認識され、悠里は思わず破顔する。
上機嫌な姉を見て、大体のことは察したのだろう、悠人が問いかける。
「バレンタインの練習?」
「ん。まあ、そんなとこ」
「柴崎さんだ」
「うるさい」
悠里は容赦なく、弟の口にクッキーを突っ込んだ。
「もがっ!?」
唐突な姉の蛮行に、悠人は目を白黒させる。
ゴールを描いた、大きい方のクッキーだ。
悠人は暫くの間、懸命にもぐもぐと口を動かしたあと、頷いた。
「……うま!」
「でしょ?」
悪戯っぽく悠里は微笑む。
あまりにも嬉しそうな姉の姿に、思わず弟も笑った。
「まあ、がんばりなよ」
冷蔵庫から牛乳を取り出し、悠人はキッチンから去ろうとした。
「あ、悠人」
そういえばと、悠里が彼を呼び止める。
小さな疑問を弟に投げかけてみた。
「ねえ。バスケのユニフォームの番号って、ポジションで決まってるの?」
「はあ?」
牛乳を飲み干したあと、怪訝そうに姉を見つめた。
「あー。決まってるわけじゃないけど、大体の方針はあるかな」
「じゃあ、4番って、シューティングガードの番号なの?」
「おお、姉ちゃんの口からポジション名が出るとは」
悠人が感心したように笑った。
「柴崎さん効果すげえ」
「もう、うるさいな」
照れ隠しにペチンと悠人のおでこを叩く。
悠人は笑いながら応える。
「4番は、キャプテンだよ」
「キャプテン」
「そ。バスケは3秒ルールとか、数字を使ったルールがあるから、1から3の数字は選手の番号には使わんのよ。審判のサインと被ったら、試合中に紛らわしいからね」
ふうん、と悠里は弟の説明に深く頷いた。
「だからレギュラーの人は大抵、4番から8番の人。4番がキャプテンで、5番が副キャプテンなことが多いかな」
「そうなんだ」
興味深そうに聞き入る姉の姿を見て、悠人はニヤリと笑う。
「バスケのルールブックなら、オレの机にあるから、読んでいーよ」
今度こそ、悠人はキッチンから去っていく。
「柴崎さんのカノジョなら、基本的なルールぐらい知ってた方がいいんじゃない?」
「ち、ちがっ……」
否定の言葉を告げる前に、弟は階段を昇っていってしまった。
ひとりに戻ったキッチンで、悠里は黒のユニフォームを着た長身を思い描く。
4番を付けた剛士の姿。
「そっか。キャプテンの番号だったんだ……」
やっぱり、ケーキのデコレーションには、ユニフォームも加えたい。
剛士の存在を表現したい。
明日、ユニフォームのクッキーを焼けるように、型を買いに行こう。
時計を見れば、間もなく深夜になるところだった。
今日のところは、これで終わりにしよう。
キッチンを片付けて、お風呂に入らなければ。
悠里はエプロンの紐を結び直し、洗い物に取り掛かった。
風呂上がりであろう、濡れた髪をタオルで拭きながら、呆れた表情で自分を見つめる弟がいた。
「ゆ、悠人。いつからいたの」
姉からの質問には答えず、悠人は並べられたアイシングクッキーを眺める。
「へー。バスケのボールとゴールだ」
「わかる!?」
バスケ部の弟にそれと認識され、悠里は思わず破顔する。
上機嫌な姉を見て、大体のことは察したのだろう、悠人が問いかける。
「バレンタインの練習?」
「ん。まあ、そんなとこ」
「柴崎さんだ」
「うるさい」
悠里は容赦なく、弟の口にクッキーを突っ込んだ。
「もがっ!?」
唐突な姉の蛮行に、悠人は目を白黒させる。
ゴールを描いた、大きい方のクッキーだ。
悠人は暫くの間、懸命にもぐもぐと口を動かしたあと、頷いた。
「……うま!」
「でしょ?」
悪戯っぽく悠里は微笑む。
あまりにも嬉しそうな姉の姿に、思わず弟も笑った。
「まあ、がんばりなよ」
冷蔵庫から牛乳を取り出し、悠人はキッチンから去ろうとした。
「あ、悠人」
そういえばと、悠里が彼を呼び止める。
小さな疑問を弟に投げかけてみた。
「ねえ。バスケのユニフォームの番号って、ポジションで決まってるの?」
「はあ?」
牛乳を飲み干したあと、怪訝そうに姉を見つめた。
「あー。決まってるわけじゃないけど、大体の方針はあるかな」
「じゃあ、4番って、シューティングガードの番号なの?」
「おお、姉ちゃんの口からポジション名が出るとは」
悠人が感心したように笑った。
「柴崎さん効果すげえ」
「もう、うるさいな」
照れ隠しにペチンと悠人のおでこを叩く。
悠人は笑いながら応える。
「4番は、キャプテンだよ」
「キャプテン」
「そ。バスケは3秒ルールとか、数字を使ったルールがあるから、1から3の数字は選手の番号には使わんのよ。審判のサインと被ったら、試合中に紛らわしいからね」
ふうん、と悠里は弟の説明に深く頷いた。
「だからレギュラーの人は大抵、4番から8番の人。4番がキャプテンで、5番が副キャプテンなことが多いかな」
「そうなんだ」
興味深そうに聞き入る姉の姿を見て、悠人はニヤリと笑う。
「バスケのルールブックなら、オレの机にあるから、読んでいーよ」
今度こそ、悠人はキッチンから去っていく。
「柴崎さんのカノジョなら、基本的なルールぐらい知ってた方がいいんじゃない?」
「ち、ちがっ……」
否定の言葉を告げる前に、弟は階段を昇っていってしまった。
ひとりに戻ったキッチンで、悠里は黒のユニフォームを着た長身を思い描く。
4番を付けた剛士の姿。
「そっか。キャプテンの番号だったんだ……」
やっぱり、ケーキのデコレーションには、ユニフォームも加えたい。
剛士の存在を表現したい。
明日、ユニフォームのクッキーを焼けるように、型を買いに行こう。
時計を見れば、間もなく深夜になるところだった。
今日のところは、これで終わりにしよう。
キッチンを片付けて、お風呂に入らなければ。
悠里はエプロンの紐を結び直し、洗い物に取り掛かった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ephemeral house -エフェメラルハウス-
れあちあ
恋愛
あの夏、私はあなたに出会って時はそのまま止まったまま。
あの夏、あなたに会えたおかげで平凡な人生が変わり始めた。
あの夏、君に会えたおかげでおれは本当の優しさを学んだ。
次の夏も、おれみんなで花火やりたいな。
人にはみんな知られたくない過去がある
それを癒してくれるのは
1番知られたくないはずの存在なのかもしれない
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ヴァンパイア♡ラブどっきゅ〜ん!
田口夏乃子
恋愛
ヴァンパイア♡ラブセカンドシーズンスタート♪
真莉亜とジュンブライトは、ついにカップルになり、何事もなく、平和に過ごせる……かと思ったが、今度は2人の前に、なんと!未来からやってきた真莉亜とジュンブライトの子供、道華が現れた!
道華が未来からやってきた理由は、衝撃な理由で!?
さらにさらに!クリスの双子の妹や、リリアを知る、謎の女剣士、リリアの幼なじみの天然イケメン医者や、あのキャラも人間界にやってきて、満月荘は大騒ぎに!
ジュンブライトと静かな交際をしたいです……。
※小学校6年生の頃から書いていた小説の第2弾!amebaでも公開していて、ブログの方が結構進んでます(笑)
くじら斗りゅう
陸 理明
歴史・時代
捕鯨によって空前の繁栄を謳歌する太地村を領内に有する紀伊新宮藩は、藩の財政を活性化させようと新しく藩直営の鯨方を立ち上げた。はぐれ者、あぶれ者、行き場のない若者をかき集めて作られた鵜殿の村には、もと武士でありながら捕鯨への情熱に満ちた権藤伊左馬という巨漢もいた。このままいけば新たな捕鯨の中心地となったであろう鵜殿であったが、ある嵐の日に突然現れた〈竜〉の如き巨大な生き物を獲ってしまったことから滅びへの運命を歩み始める…… これは、愛憎と欲望に翻弄される若き鯨猟夫たちの青春譚である。
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる