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piece2 バースデーケーキ

ケーキのデザインは

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その夜、悠里は早速ケーキのデザインを考え始めていた。

「バスケ、バスケ……」
参考になるものを探したくて、ひたすら画像検索しては、ヒントになりそうなものを書き出していく。


剛士に食べてもらうなら、バスケをモチーフにしたケーキを作りたい。

バスケットボールに、ゴール。
この辺りは、アイシングクッキーで表現できるだろうか。


ーー ケーキの味は、やっぱりチョコレートかな。

『数学って、腹減らね?』
そう言って、美味しそうにチョコレートパフェを食べていた剛士を思い返し、悠里は微笑む。

甘いものが、好きなのだろうか。
剛士のまた新しい一面、それも可愛らしい側面が見られたことが嬉しかった。

まだまだたくさん、知らないことがあるだろう。
これからも少しずつ、彼のことを知っていきたい。
その先にきっと、剛士との未来があるはずだから――


「ゴウさん……」
机の上に突っ伏して、そっと彼の名を呼ぶ。

つい先程まで一緒にいたのに、もう顔が見たい。声が聞きたい。
その手に、触れたい。

彩奈と拓真に気づかれないように、テーブルの下、そっと繋いでくれた大きな手の温もりを思い返す。
目を閉じれば、優しい感覚がまだ、手のひらにある気がした。
彼に手を握られるだけで、こんなにも嬉しい……


バレンタインデーはもちろん、何かお菓子を作って渡すつもりではあった。
それがまさか、剛士の誕生日を祝えることになるなんて。

教えてくれた拓真に、準備を手伝ってくれる彩奈に、感謝の気持ちが溢れ出す。

いつも優しく見守ってくれる2人のためにも、絶対にサプライズを成功させよう。
悠里は決意を新たに、身を起こした。
「……よし」
悠里はノートを広げ、ケーキや、デコレーションのためのクッキーの図案を描き始めた。


翌日、夕食を済ませた悠里は、早速アイシングクッキーの試作に取り掛かる。
まずは家にある器具で作れそうな、バスケットボールとゴールを試してみたい。

ボール用の丸い形のクッキーと、ゴール用の長方形のクッキーを、5個ずつ作ってみる。
悠里は、アイシングの材料となるシュガーパウダーとアイシングカラーを取り出し、混ぜ合わせた。

ボールに使う、明るめの茶色。
ゴールを描くのに使う、白と赤。
そして枠線を描くための、黒。

下書きしたノートを見ながら、悠里はアイシング作業を開始する。


まずは明るめの茶色で、バスケットボール用の小さなクッキーの土台塗りをした。
少し乾かしてから、次はボールの縫い目を黒で描いていく。

「……うん。可愛いかも」
悠里は、嬉しそうに独りごちた。
ボールの丸さを表現するには、縫い目を少し、カーブをかけて描くと良いようだ。
5つも描いてみれば、コツが掴めてきた。


次は、バスケットゴール。
長方形のクッキーを前に、悠里は集中する。

まずは、ゴールのバックボードを表現するために、白でクッキーを塗りつぶしていく。
それから黒のアイシングでボードの縁取りをし、真ん中に四角いゴールの枠を描く。

真っ直ぐな線を引くのは、なかなか難しい。
アイシングの入ったコルネを持つ右手を、左手でしっかりと支え、悠里は慎重に作業を進めた。


「……うん」
まずまずの出来に、悠里は頷く。

次いで、ゴールのリングを赤で描き、肝心のゴールネットに挑戦する。
白のアイシングが入ったコルネを持ち、悠里はゴールの網を描き始めた。

1枚めは不恰好なゴールネットになってしまったが、5枚目を描く頃には、だいぶ様になってきた。
ゴールリングとネットを、少し大きめに描くと、バスケットのゴールらしさが表現できる気がする。


「ふふ、楽しくなってきた」

描いたばかりのボールと、バスケットゴールを見て、ふと思いつく。
悠里はボール型のクッキーを、ゴールを描いたクッキーの斜め上に配置してみた。

こうすると、ゴールを目指したボールが、飛んできたように見える。
悠里は、顔をほころばせた。
「……可愛い!」


剛士が真剣な眼差しで、シュートを放つ姿が胸をよぎる。

美しい弧を描いて、ネットに吸い込まれていく、鮮やかなゴール。
観客席のどよめきと歓声。熱く弾ける空間――

「……ふふ、スリーポイント!なんちゃって」
「はあ?何やってんの?」
「わあ!?」

独りで盛り上がっていた悠里の背後から突然、呆れ声が飛んできた。
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