#秒恋6 桜咲き、恋は砕け散る。〜恋人目前の2人は、引き裂かれる?甘いデートの筈が、絶望に染まった1日〜

ReN

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piece5 救出

もう大丈夫だよ

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駆け寄ったエリカの姿も、目に映らないのか。
悠里は喘ぎながら、必死に床を這い、まだ逃げようとしていた。

「悠里ちゃんから離れろ!!」
エリカが、悠里の足元にしゃがんでいたユタカを一喝する。
彼女の迫力に気負され、ユタカは慌てて後輩たちの傍に戻った。


悠里の呼吸が、異常に速い。
エリカは、そっと彼女の背に手を置く。
「悠里ちゃん」
悠里からの反応は、ない。
「はあっ、はっ、はあっ……!」
悲鳴の混じる呼吸を繰り返す彼女の身体は強張り、ガタガタと震えていた。

エリカは、悠里を刺激しないように、できる限り優しく抱き起こす。
涙と熱い吐息を溢れさせる悠里を胸に抱き寄せ、ゆっくり、ゆっくりと背をさする。

「悠里ちゃん……大丈夫、もう大丈夫だよ。ゆっくり、息しようね。吸うよりも、吐くのを意識してみて?」
エリカは、優しい声音で囁いた。
「背中、トントンするからね? それに合わせて、ゆっくり、息を吐いてみて?……うん、上手だよ……」


苦しげにエリカにしがみついていた悠里の細い指から、少しずつ力が抜けてくる。
「はあっ……はぁっ……」
呼吸も、徐々に落ち着きを取り戻してきた。
「よしよし……いい子だね」
エリカはそっと、グシャグシャに乱れてしまった悠里の髪を、撫でた。


悠里を優しく抱きしめたまま、エリカの目が真っ直ぐに、カンナを睨みつける。
「……最低」
「エリ、カ……」

もはや親友ではなくなってしまった彼女の言葉など、何も聞きたくない。
エリカは短く、絶交を宣言した。
「2度と顔見せんな」


エリカは、自分に縋りつく悠里の背中を撫でた。
晒された華奢な肩が、小さく震えていた。
無惨に引き裂かれたブラウスと、下着のストラップが壊され、千切れているのを、見た。

エリカの厳しい瞳が、ユタカたちに移る。
「最低だね、あんたらも……」
「え? あ、ちが……」
「オレたちじゃ……」
「死ねよ」
慌てて申し開きをしようとする後輩男子2人の声を遮り、エリカは吐き捨てた。

ユタカだけが、小馬鹿にしたような笑みを貼り付け、切り返してくる。
「えー? 酷いな、エリカさーん。オレたちはカンナさんの指示で、ここにいただけっすよぉ?」
「誰、あんた」

自分の名前を呼んできたユタカを、エリカは冷たい目で見据える。
ユタカは怯みもせず、答えた。
「やだなぁ、覚えてないっすか? 勇誠2年の岸部っす!」


「……ああ、」
エリカは、ゆっくりと頷いた。
「思い出したよ……剛士と同じポジションの、万年補欠くんだ」

ユタカの頬が一瞬、ピクッと引き攣った。
エリカは、冷たい目線をユタカに浴びせる。
「バスケで剛士に敵わないからって、こんなマネしたんだ」
グッとユタカが言葉に詰まったのを見て、エリカは追い討ちをかけた。
「卑怯者」


「……ははっ。めっちゃ煽ってくるじゃないすか、エリカさん。ちょっと、イメージと違いましたわ」
ユタカが笑みを貼り付け、エリカと悠里の傍にやって来た。
「万年補欠くんは、さすがにちょっと、傷つきましたよ~」

「君が、万年補欠に甘んじたのは、君が努力しなかったせい」
エリカは、真摯な瞳をユタカに向けた。
「1年のときは君、剛士と競り合ってたじゃん。むしろ、ドリブルは君の方が速かった。だから剛士は、君に追いついて、追い越すんだって、毎日練習していたよ」

ユタカは表情を保とうとしたが上手くいかず、その頬からは笑みが剥がれ落ちてしまう。
「……いやいや。オレと剛士じゃ、そもそものセンスが違うし」
「言い訳だけは、一人前だね?」

エリカが、嘲笑をユタカに注いだ。
「剛士と戦うことから。努力することから。君が逃げただけ」
「……は?」
「剛士を恨むのは、お門違いもいいとこだよ」

完全に笑みの消え失せたユタカに、エリカはもう一度、言い放った。
「君が、万年補欠に甘んじたのは。君自身のせいだよ」


「……はは、エリカさぁん。自分の置かれてる状況、わかって言ってます?」
ユタカが、戯けたように両手を広げてみせる。
「この狭い室内に、男3人。エリカさんに、悠里ちゃん。あ、カンナさんはもう、アナタのこと助けないと思うよ? 覚悟はできてんですよね?」

ユタカが、馬鹿にしたように笑い出す。
「ねぇ、エリカさん。オレの相手してよ? こっちの後輩たちには、悠里ちゃんをあげるからさ」
エリカは、悠里の震える身体を抱きしめたまま、ユタカを睨みつける。

ユタカは膝をつき、エリカと真っ直ぐに目を合わせた。
「オレ、前からエリカさんと、1発ヤりたかったんだよねえ」
ユタカが強引に、エリカの手を取った。
「ね? オレと一緒に、楽しも? エリカさーん」

エリカは、片手で悠里を庇いながらも、気丈に答える。
「……はぁ? あんたで、私が楽しめるわけないでしょ」
ユタカの目を見返し、エリカは嫌悪に溢れた声で呟いた。
「この……粗チン野郎」

瞬間、ユタカがエリカの腕を捻り上げ、その頬を打った。
エリカの身体が、ぐらりと揺れる。
しかし彼女はバランスを崩しながらも、悠里を抱く腕だけは、離さなかった。


「……ははっ。そこまで言うなら、マジで試してみましょうよ」
ユタカが、低い声で笑った。
「オレが粗チンかどうか……ヤればわかるでしょ」
言いながら、ぐいっとエリカの腕を引く。
鋭い痛みに、エリカは思わず小さく呻いた。
彼女を庇おうとしたのか、悠里は、か細い悲鳴を上げながらも、必死にエリカに抱きついた。


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