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【最終話】世界の真理

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次の瞬間、ピンク色の光線が俺に向かって飛んでくる。

光線を浴びた俺は──。

みるみる人間の姿に戻った。

「うおりゃーっ」

俺は、俺を踏みつぶそうとしていた魔王の足を下からつかんで持ち上げた。

3メートルの巨体を誇る魔王も、いきなりのできごとに、つんのめった。

「どういうことだ!? コトネのしわざか!? いや、あの娘にそんな力はないはず。どうやって僕の呪術を破った!?」

「さあね。コトネ、どうやったんだ?」

「自分でもわからない。わかるのは、以前よりも私の力が強まっているということだけ」

だが、その力も長続きしないようだ。

俺の腕は、またカタツムリみたいにヌメヌメとしてきている。

頭にも、触覚みたいなものが、また生えてきた……。

「ふはははっ。どうやら一時的に呪術を弱めただけのようだな。またカタツムリに変わりかけているぞ」

「おい、コトネ! どうなってんだ!?」

「魔王のいうとおり、私の魔力では、これが精いっぱい。呪術を弱めておける時間は……1分もない」

「1分で魔王を倒せってか!」

「そう」

「ちっ、無茶いうなよ!!!」

俺は体育館に走った。

「ヤニック君、勇者ともあろう人が、逃げる気かい?」

「コトネーーーッ!」

「ヤニック!」

俺は赤いラケット──コトネを握りしめた。

「コトネ──俺はもう二度と、おまえを離さない!」

「ヤニック……!」

振り向けば魔王。
俺はやつと対峙した。

「ヤニック君、無駄なあがきだよ。あきらめろ!」

ラケットがピンク色に輝き出す。

その光はどんどん強さを増し、ついに虹色の光となった。

そうか。
そういうことか。

あの魔王が、その光を見て一歩下がった。

「まさかヤニック君、キミが到達したというのか!? この世界の真理に──!」

「シンリ? そんなもん俺にはわからないが、奇跡を起こす方法なら、わかった気がするぜ!」

「もっと早く、キミを始末しておくべきだったかかもしれないね。高質量の闇!」

魔王は空中に手をかざした。

バリッ……バリバリバリッ!

空間が避け、真っ黒な穴が出現した。

穴は巨大化しながら、真っ黒なボールになった。

「なんだ!?」

「ふははははっ。永遠の闇をさまようがいい、ヤニック君!」

真っ黒なボールは巨大化しながらこちらに近づいてくる。

「魔王、おまえはいつも楽しそうに戦いやがる。根っから戦いが好きな、サイテー野郎だ。だが、だからこそ、強い魔力を得ることができた。だけど俺にも、大好きなものがある。コトネ、モナ、エルミー、アンヌ先生、レオ先輩、ボルテ先輩……。他にもたくさんの、かけがえのない人たち……」

「それが、おまえの好きなものだというのか?」

「いいや、違う。みんなとめぐり逢わせてくれた、大好きなもの。それは──」

俺はラケットで黒いボールを強打した。

「トゥーネスだーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーーッ!!!!!!

「なにっ!? 高質量の闇を打ち返せるヤツなど、この世にいるわけが……!」

ラケットにはじかれた黒いボールは一転、魔王を直撃した。

「ぐわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ……」

魔王は暗闇にのまれ、そして消えた。

   *

あとには、静寂だけが残っていた。

カタツムリに変容しかけていた俺の体が元に戻っていく。

魔王が消滅したため、呪術が解けたのだろう。

ボルテも人間に戻った。

そして、俺の腕の中には、人間に戻ったコトネがいた。

「「「「「わーーーっ」」」」」

メダカにされていた男子の勇者たちも、一斉に元に戻った。

「ヤッちゃーーーーーん!」

「ヤニック君!」

「ヤニックさん!」

「モナ! エルミー! アンヌ先生! 女子もみんな、元に戻ったんだな!」

気がつくと、俺のまわりには幾重にも円陣ができていた。

「ヤーニック! ヤーニック! ヤーニック! ヤーニック! ヤーニック!」

大歓声の中、俺はコトネに耳打ちした。

「助かったよ。コトネが俺を人間に戻してくれたおかげだ」

「私も、自分にあんな力があるとは知らなかった。なぜ、あんなことができたんだろう」

「えっ……それを俺にいわせるのか?」

「ヤニックは知っているの? それが魔王のいっていた『真理』と関係あるの?」

「まあ、そうだな。コトネにも、そのうちわかるよ。それより、これからはコトネに頼れないから、マジメにトゥーネスを練習しなきゃな」

「もう魔王はいない。トゥーネスも必要ない」

「トゥーネスって競技は、今は戦いの道具みたいにされてしまっているけど、最初に考えたやつは、たぶん楽しい遊びのつもりだったんじゃないかな。俺、トゥーネス好きだし、どこまでできるか、イチからやってみるよ」

「……そう」

コトネが珍しく、微笑んでいた。

そこにモナとエルミーが割り込んできた。

「ヤッちゃん、なにコトネちゃんとベタベタしてんのよ」
「お2人さん、なんかいいムードですねェ」

「べっ、べつに、そういうわけじゃねーよ!」

「いっときますけど、勇者パーティーを組んで魔王を倒す約束、忘れてませんからね」

「いや、魔王もういねーし!」

「甘ーーーーーーい!」

「なんだよ急に、アンヌ先生!」

「第2,第3の魔王が現れないとも限らないわ。夏休みが明けたら、学校で特訓よ!」

「いや、俺は退学しちゃったし。アンヌ先生も学校、辞めたはずじゃ……」

「いいえ、あなたには正式な退学届をもらってないわ。私も退職届、出してないし」

「なんだよ、それ!」

「というわけで、あなたは今でもグロワール高校1年G組の生徒です。イチから鍛え直すわよ!」

「わかったよ! 望むところだ!」

結局、俺はトゥーネスが好きなだけのヤツなんだ。

好きだから、とことんやってやる。

好きだから、きっと、どこまでもがんばれる。

「好き」は、俺たちに奇跡を起こしてくれる──それが、わかったから。


【了】
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