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【第22話】クラリーヌの必殺技

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体育館の壁に穴があいてしまったが、まるで何事もなかったかのように戦術実技の授業は再開された。

「実戦において、守備の基本はなんだと思いますか? はい、エルミーさん」

いきなりクラリーヌ先生に指名されたエルミーだが、そこはさすがの優等生らしく、冷静に回答した。

「守りの基本は、相手の攻撃が自分に当たらないようにすること。それが困難な場合は、自分が受けるダメージを最小限にすることだと思います」

「はい、正解です。さすがはクラスリーダーさんですね。では、これから誰かに、あたくしの攻撃を交わしていただきます。えっと……じゃあ、ヤニックさん」

またか。
そうくると思っていたから、べつに驚かないけど。

「ふう……。で、先生。俺はそのマトのあたりに立っていればいい?」

「そうですわね。そうしてください。あたくしが打つ砲弾をよけるか、ブロックするかしてください。できたら、あなたの勝ち。できなかったら、先生の勝ちです。今度こそは先生、負けませんから!」

いつのまにか、先生と俺の勝負になってる!?
俺がツッコミを入れる間もなく、クラリーヌ先生は砲弾を取り出した。

「ちょっと待って、先生!」

「なんでしょうか?」

「この学校は、勇者になって魔王を倒す生徒を育てているんだろう?」

「はい、そうです」

「でも先生、実戦では、魔王は砲弾なんか打ってこないだろ。攻撃魔法をどうやって交わすかのほうが大事だと思うんだけど」

「はい、とてもいい質問です。そのために、みなさんは学校で魔術も学んでいるのです。ラケットに魔力シールドをほどこすことで、攻撃魔法を打ち返すことができます。これは2年生で習うテクニックですから、楽しみにしていてください」

「へえ……そうなのか」

「じゃあ、いきますよ! 準備はよろしいですね、ヤニックさん?」

「はあ」

クラリーヌ先生は砲弾を持って、ミケンにシワを寄せた。
子どもらしからぬ、真剣な表情だ。

空中に放り投げ、そして打った。

「秘術・ドラゴン■ール!」

超メジャーな登録商標を大声で叫ぶとは、なんという危険な技だ。

インパクトの瞬間、先生がそう叫ぶと、発射された砲弾が7つに分裂。
それぞれが発火し、7つの火の玉と化した。

攻撃魔法を打ち返す方法を習うのは2年生だといっておいて、1年生相手にコレかよ!

どうやら先生は相当の負けず嫌いのようだ。
まあ12歳なら仕方がないか。

俺はラケットにささやいた。

「コトネ、攻撃魔法は返せるか?」

「問題ない。しかし、ここで難なく弾き返してしまっては、みんなに怪しまれる。何か適当な『技の名前』を叫んでおいたほうがいい」

「はあっ? そんなこと、いきなりいわれても──」

考えている間に、火の玉は俺の目前まで迫っている。

「──わあっ! えっと……秘技・ドラゴン■ールZ!」

俺の構えたラケットがピンク色に輝く。
すると、迫ってきた7つの火の玉をパンパンパン……と、簡単に打ち返してしまった。

「おおっ」
「すごすぎ!」
「イケてる~!」

再び騒然となるクラスメイトたち。

「な、なんですって! くうっ──」

クラリーヌ先生は目を丸くしたが、すぐに気を取り直してラケットを構えた。

「──ならば、ええい! 秘術・ドラゴン■ールGT!」

「なんだと! えっと……ドラゴン■ール改!」

「えっと次は、何でしたっけ? うーんと……あっ、そうだ! ドラゴン■ール・ス……」

ドッゴーーーーン!

技の名前の詠唱えいしょうが間に合わなかったせいなのだろうか、火の玉は爆発とともにクラリーヌ先生が構えたラケットをこなごなに粉砕してしまった。

どうやらケガはしなかったようだが、へなへなとしゃがみ込んだ先生の顔は、ススで真っ黒である。

「ヤーニック!」
「ヤーニック!」
「ヤーニック!」

興奮したクラスメイトたちのヤニックコールが巻き起こる中、俺はクラリーヌ先生に歩み寄って手を差し出した。

「立ち上がれるか、先生?」

「まだあたくしのことを先生と読んでくださるのですか?」

「そりゃそうだろ、先生は先生だ。たとえ12歳でもな」

「ううう……ヤニックさん……あなたって人は……」

「ん?」

「大好きです!」

12歳。
大人への階段を上り始めたばかりの女の子に抱きつかれて、俺はどうしたらいいのかわからなかった……。
思った以上にやわらかいな。
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