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幼少編

第19話 突然の別れ

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 12歳になった事で一人前と判断してもらい、領内の仕事や責務などかなりの数を任せてもらえるようになっていた。

 それでも、FP活動のための視察については毎日かかさず行っていた。

 「ラフィアット様!いつもご苦労様です!3年前に言われた通り貯蓄をしていたため、子を授かった今でも暮らしが安定しております!」

 「よかったです!またいつでも相談してくださいね」

 「ありがとうございます!今年取れた新種の麦と野菜です!よかったら持って行ってください!」

 住民と会うたびにみんな笑顔で話しかけてくれる。

 元の世界では、こういう状況を作りたくてFPを目指した理由もあったので、こちらの世界でそれが叶い幸せで充実した毎日を送っていた。

 「にしても、こんなに街が変わるとはなぁ。つくづくお前はすごいと思うよ」
 
 受け取った麦や野菜を両手に抱えながら、同行しているゲンが言った。

 「ラフィに助けてもらえてなかったら、私もお父さんも生きていなかったかもしれない…」

 アルティアも12歳になり、美人で大人の女性に近づいていた。

 「ティア大げさだよ!それに街が良くなっているのは私だけの力じゃないさ、ティアやみんなが協力してくれるからこれだけ早く変われたんだ、それに父上が領主だったから子供の私の声を聞いてくれるだけに過ぎないさ。これからもみんなで協力してより良い領地にしていきたい」

 「もちろんです、ラフィアット様。いつでもなんでも仰ってください」

 ジェイグが感動に震えながら答えてくれた。
 



 今日の視察も一通り終わり、夕方に差し掛かったころ、急に頭の中に聞き覚えのある声が響いた。

 『ラフィアット君…。大変な事になったの。急いで屋敷に戻ってきて』

 『シュウどうしたの?』

 『私からは説明できない…。自分の目で直接確認して欲しいの』
 
 シュウから【意識念話テレパシー】を通して無力感を感じる。とてつもない胸騒ぎを感じながら私たちは急いで帰路についた。 




 ジェイグ、ゲンと共に屋敷に着いた。一緒に視察していたアルティアも心配でそのまま着いてきている。

 こちらに気づいた使用人の一人が慌てて声をかけてきた。

 「ラフィアット様!すぐにパトリック様の部屋へお向かいください!」

 「父上の部屋…?」

 胸騒ぎが強くなる。みんなが悲しい顔をし、俯いている。

 急いで父の部屋に向かった。




 「父上!」
 
 勢いよく中に入る。

 「ラフィアット君。こっちへ…」

 涙ぐんだシュウがベッドで横たわる父のもとへ誘導する。

 「父上!大丈夫ですか!」

 父からは反応がなかった。

 手を触ると、凍ったように冷たい。

 「まさか……!」 

 「最初に見つけた使用人が、急いでお医者さんを呼んでくれたんだけど、その時には もう…。外傷がなく毒物も検知されなかったから、急死という説明だったわ…」

 「そんな………」

 それ以上言葉が出てこなかった。

 元の世界では天涯孤独であり、こちらでの母も生まれた時に亡くしていた私からすると、初めて肉親の死を目の当たりにした状況であった。

 父が領主であったためか、普通の親子関係とは言えなかったとは思う。

 だが、息子を常に信じて好きなようにさせ、陰ながら手助けしてくれたりもした。

 そういう愛というもの初めて触れ、暖かく感じ、心の底から父を尊敬していた。

 内心ではこれからも当たり前のようにそれが続くと思っていた…。

 思い出が映像として蘇ってくる。

 私はそのまま何もできず、立ち尽くした。




 葬儀は屋敷の庭で行われた。私自身勝手が分からない状況だったので、パルポロムさんが手伝いにきてくれていた。王都では教会が死者を弔いの儀式で送るとの事だったが、アタナス領は人口も少なく、弱小領地である。教会や宗教もないため、この領地の葬儀は火葬が一般的だった。

 簡単に説明すると、死者を送った炎に参列者が花を投げ込むという儀式だ。

 一番最初に行うのは、当然一人息子の私だった。

 「父上…。領地の事は私にお任せください。そして、天国で母様と一緒に見守っていてください。本当にありがとうございました…」

 綴った言葉はシンプルだったが、思いは十分に籠っていた。

 みんなの手前、涙自体を見せる事は出来なかったが、今にも泣きだしたい気分で一杯だった。

 私に続き、みなが次々と言葉と共に炎へ花をくべていく。

 悲しみとともに、その日の夜遅くに葬儀を終えた。




 葬儀が終わってからすぐに執務室へジェイグと共に向かった。様々な手続きのためである。

 領主としての引継ぎや王都への新領主の申請、商人たちへの対応など細かい事から説明を受ける。

 ジェイグも全てを把握している訳ではないので、緊急の引継ぎが必要な項目だけを今日のうちに聞いておこうと思った次第である。

 本来一番引継ぎが大変だと思われる税金回りに関しては、そもそも自分で対応していたためスムーズに話は進む。

 話を半分ほど終えたところで、ふと疑問に思う。

 (屋敷の皆は父に対して敬意を払っていた。しかし、自分に対してはどうなんだろう?次期領主とは言え、まだ12歳の若造である。中には反発する人もいるかもしれない…)

 不安になり、ギフトを使用する。

 【市場調査】
 Q:この部屋の人間のラフィアットへの忠誠は?
 A:YES 50%、NO 50%
 
 しまった、混乱していたためか、範囲を狭くしすぎた。

 ジェイグはYESだと思っていたばかりに、かなりショックだった…。

 物心着いてから、ずっとジェイグに助けられていた。内心は嫌々だったのだろうか…。
 
 少しずつ冷静になり、何かが引っかかる。

 そして、【市場調査】の特性を思い出し始める。

 そういえば、自分の回答って反映されなかったんだ。

 そう考えると矛盾が起きる。この部屋の中に私以外に2人もいるはずだ。 

 だが明らかにこの部屋には、私以外にジェイグしかいない。

 もう一度詳しく【市場調査】を行う
  
 Q:この部屋の人間の目的は?
 A:ラフィアットへの領主業務の引継ぎ 50% ラフィアットの暗殺 50%

 (…!!!!)

 自分が暗殺のターゲットになっている事を知り、緊張と恐怖のあまり汗が噴き出る。

 明確に、この部屋に暗殺を目的とした第三者が存在している事が確定したのだ。

 この状況をどうにか打破するには、まずこの事実をジェイグに伝えるところから始めなければならない。

 「……様!…様!ラフィアット様!どうなされましたか?」

 「あ、ああ。ごめん。少し考え事をしてしまっていた」

 「私こそすみません…。今日色々あったばかりなのに、引継ぎや仕事の話を詰込みすぎてしまって…。残りは明日にしてはどうでしょうか?」

 ジェイグが気を利かせ、優しい言葉をかけてくれる。

 ただ、ここで一人になってしまっては、本当に暗殺されてしまう。敵に悟られないように話を続ける。

 「いや、私は大丈夫だよ。それよりも、新しく思いついたんだがこれを見て欲しい」

 そういいながら、紙に書いた言葉をジェイグだけに見えるように手で隠しながら見せる。

 【注意 この部屋の中に見えない敵 ギフトで発見】

 「なるほど…。さすがラフィアット様です。面白い案ですね」

 ジェイグは、瞬時に察してくれたようだ。

 「ジェイグは、この場合どうすればいいと思う?」

 「簡単なことです。先手必勝ですよ!」

 そう言いながら、即座に剣を抜き、天井に向かって飛び上がりながら剣撃を放った。
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