18 / 31
第18話 奴隷オークション1
しおりを挟む
奴隷オークションは、出品者と購入者、そして両者の仲介役、あるいは管理人である奴隷商人ギルドの3者が存在する。
奴隷商人ギルドは場所の手配や参加者、商品である奴隷の管理を行う代わりに、出品者からは主催者料金、購入者からは参加者料金、さらに奴隷売買時に手数料を受け取ることで公平に(少なくとも表向きは)オークションを進行する。
オークションの形式は様々であるが、今回〝|蟲の皇子(ヴァーミン・プリンス)〟イヴァの要請で開催することになった奴隷オークションはエルカバラードでは一般的な吊り上げ式であり、具体的には以下のようなシステムとなっている。
まず基本として、出品者は奴隷を提供する側で、購入者は奴隷を買い取る側だ。
出品される奴隷には、あらかじめ出品者が最低落札価格を設定しており、購入者はそこから値段を吊り上げていくのが基本となる。
もしも最低落札価格の落札者がいない場合、奴隷商人ギルドが最低落札価格の10分の1の値段で奴隷を購入してもよい(しなくてもよい)。
落札金額に上限は存在しないが、制限時間は存在する。
基本的に1つの商品に対する制限時間は最低でも5分、最大で30分。
まず値踏みは4~5分、金額を競り合う入札は1~5分。最終落札に20分。
値踏みは、購入者による商品の品定めである。奴隷商人ギルドの司会者が商品の説明を行うのを聞きながら、品定め料を支払った購入者たちが壇上の奴隷を見て、触って、話して、商品価値を確認するのである。
この品定め料は奴隷商人ギルドの取り分となるので出品者には関係ないが、最低落札価格の2,000分の1程度が相場だ。
値踏みが終われば、次は入札が行われる。
入札は最大で5分間行われるが、最初の1分間の間に入札者がいない場合は落札者なしとなり、次のオークションが行われる。1分以内に落札者が現れた場合は、それ以降の競りが行われて、30秒以上入札者が現れない場合、最終落札は行われることなく、その時点で最高価格を提示した購入者が競り落とすことになる。
この落札金額のうち、100分の1が手数料として奴隷商人ギルドのものとなり、残りの金額が出品者に支払われ、奴隷は購入者に譲渡される。
もしも入札が白熱して、5分を超えた場合、最高落札が行われる。
購入者は入札時点の最高価格+αを出品者に提示して、最終的な購入者を決めてもらう。
この+αは何でも良い。追加の現金が一般的であるが、現金以外にも価値のある品物――例えば、宝飾品や土地の権利書、魔法の武具、そして奴隷である。また、この最高落札では、奴隷商人ギルドは手数料を受け取れない。だが、購入者として参加できる。
購入者は5分以内に+αを提示して出品者に送る。そして出品者は15分後以内に+αの目録を確認して、最終落札者を決定しなくてはならない。
「以上が、奴隷オークションの簡単な内容となります」
ルーミアは説明を終えると「何かご質問は?」と尋ねる。
「最終落札が発生した場合、購入者が大量に……例えば100人以上も出たとすれば、15分で目録を確認するのは難しくありません?」
テタルナはベッドの上に座るイヴァの背に豊満な胸を押し付けながら、ルーミアに問いかける。
「その可能性もゼロではありませんが、最終落札の時点では商品がかなりの高額になっていることが多く、今までの経験から申しますと、実際に入札する方は多くとも10人程度です」
「それでも今回、初めて大量の購入者が出たら?」
「その場合でも、制限時間に変更はありません」
青年は爽やかな笑顔を絶やすことなく、よどみなく答える。
「融通がきかないのですね。イヴァ様?」
「だから信頼できるともいえるよ。例えボクらが海賊ギルド……じゃなかった貿易商人ギルドと組んでいると知っていても、このオークションが終わるまではお客様として、もてなしてくれるよ」
ダークエルフの少年は挑戦するかのように言うが、ルーミアは変わらぬ笑顔を浮かべたまま「他に何か?」と問う。
「+αの制限はないのか?」
東西にある扉の内、西側を守るトルティが問う。
「はい、制限はありません。購入者が支払うことができるものであれば、なんでも構いません。どれだけの価値を見出すかは出品者ごとに異なりますので、購入者はその辺りを考慮しながら+αを決めることになるでしょう」
「支払えないようなものを提示することは?」
「ご安心ください。我々、奴隷商人ギルドが責任を持って、購入者の支払い能力の有無を確認して、どのような手段を使ってでも必ず支払わせます」
自信を持って答えるルーミアに、イヴァは「信頼しているよ」と告げる。
「オークションの回数は何回行われるんだ? それに休息は入るのか?」
東側の扉を守るペルセネアが質問をした。
「オークションは19時より開始され、20回行われます。オークションの盛り上がり具合を見ながら、15分程度の小休憩を何度か挟む予定ですが、今までの経験から申しますと最短でも3時間程度、最長でも6時間といったところでしょう」
ちなみに今は17時である。
砂漠の民は蒸し暑い日中から活動するよりも、涼しい深夜から早朝や夕方から深夜に活動する者も少なくない。今回の客層は夜型の者が多いのだろう。
イヴァたちの起きた時間は14時程度だったので、眠気などはない。
20回あるオークションの内、イヴァの出品した商品が売り買いされる回数は10回で、残り10回は他の出資者が商品を競りにかける。
この回数からわかる通り、捕虜とした翡翠解放団262名は1人1人売られるわけではなく、10組にまとめている。
「以上でよろしいでしょうか?」
「今のところはな」
「では、オークションが始まるまでおくつろぎ下さい。御用がありましたら、お呼びいただければすぐに参りますので」
ルーミアは最後まで笑みを絶やすことなく、深々と一礼して退室する。
奴隷商人ギルドの人間を見送った後、イヴァは用意された肉料理を堪能しながら、アマゾネスの成熟した肢体を順番に楽しみながら、オークションが開始されるのを待つのであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
太陽が地平線の下に沈んだ後、昼の暑さが嘘のような冷たさに支配される。
だが、オークション会場であるアルアーク大聖堂は集まった人々の熱気に支配されており、外の寒さなど吹き飛ばしていた。
オークション会場に集まった人間とそれ以外の種族の比率は5対5で、男女比は7対3である。
とりあえず多くの奴隷を調達しようとする者、翡翠解放団に商売の邪魔をされて恨みを持つ者、〝蟲の皇子〟の悶艶蟲(ビッチメーカー)に調教された女の味が忘れられない者など、その奴隷を購入しようとする目的は様々であるが、いずれも目を輝かせて商品が現れるのを待っている。
そしていよいよ、奴隷オークションの幕が上がる。
「紳士淑女の皆様、大変お待たせいたしました! 只今より、オークションの方を始めさせていただきたいと思います」
司会者がバラミア語で型通りの挨拶を行う。
バラミア語を理解できないものもいたが、そう言った者は通訳を雇っているので、言葉で不自由することはない。
「それではさっそく最初の商品を見ていただきましょう」
ボロ服を身に着け、手枷で拘束され、鎖付きの首輪をつけられた66人の男性がジャラジャラと鎖の音を鳴らしながら、壇上に連れてこられる。会場内の客のうち、女目当てだった客がブーイングを行い、労働力としての奴隷を求めていた者たちは品定めを行う。
彼らは翡翠解放団の中でも最低限の戦闘訓練しか受けていない者たちで、元々の職業は農民や職人であった。革命の熱に浮かされて、そのまま兵士として活動していた。だが、今この場に連れてこられたことで、その熱は完全に冷めている。
一般的な成人男性の奴隷は一人3万程度が相場で、66人を普通に購入するのならば198万であるが、司会者の――正確にはイヴァの提示した最低落札価格は定価どころか何かの冗談ではないかと思えるほど遥かに安いものであった。
「最低落札価格は66人で10万! さあさあ、本来ならばありえない価格設定です! 皆様、どうぞ見て触って、品質を確かめて下さい。全員、健康な男たちです。革命に参加した者たちではありますが、全員の心は完全に折られておりますので、どうぞ安心してお使い下さい」
〝蟲の皇子〟が女たちに悶艶蟲を使ったのと同じように、苦悶百足で男たちの心をへし折っている。精神を破壊するには更に上位の傀儡蝿(かいらいばえ)や地獄蚯蚓(じごくみみず)、屍蟻(しかばねあり)なども存在するのだが、奴隷とすることを考えれば苦悶百足が一番手頃である。
何人かの購入候補者が壇上に上がると、健康状態や精神状態を確認する。
まるで家畜のように扱われているが、誰一人として抵抗しない。
「それでは、入札を開始します!」
品定めが終わると、司会者は宣言する
「12万」
「13万」
「15万」
1分もしないうちに金額が釣り上がり、2分が経過する頃には50万程度の金額になっている。
「54万」
「54万と1」
「55万」
「55万と1」
今回のオークションで、イヴァは入札する最低価格を決めていない。なので、1でも上の金額を提示すれば、入札は成立する。大抵の参加者は1万単位で値段を上げているが、1人だけ1単位で値段を上げている者がいる。
〝|疫病の従者(プレーグ・フォロワー)〟ピラトカナス。
顔の右半分はそれなりに整った容姿の青年だが、左半分は灰色に変色して見るも無残な変異を遂げている。
「目を合わせるだけで、病気をうつすことができるらしいぜ」
「人体実験をおこなっているって噂だぜ」
「じゃあ、買われた奴隷たちは……」
ヒソヒソと噂話が囁かれるが、4分経過した時点での価格は110万を超えている。このあたりまで来ると、競りに参加している者は7人ほどに落ち着いていた。
「112万」
「112万と1」
「115万5千」
「115万5千と1」
「116万」
「さて、残り時間1分を切りました!」
競りはさらに白熱し、直接競りに参加していない者たちもどの程度の値段に落ち着くのか予想をはじめる。
「198万を超えることはないだろう」
「それなら普通に揃えるのと変わりないですからな」
「130万前後が妥当なところでは?」
そんな予想を立てる間に、残り時間は秒読みとなる。
「残り40秒」「130万」「130万と1」
「残り20秒」「131万」「131万と1」
「残り10秒」「132万」「132万と1」
「残り5秒」「……135万」「135万と1」
「終了! 入札は終了です! 最終入札価格は135万と1。これより最終落札を行います。最終落札希望者は係りの者に従って、移動して下さい。最終落札が決まるまで、残っておられる方には、我々奴隷商人ギルドの奴隷オークションを楽しんでいただければと思います」
〝疫病の従者〟が幽鬼のように席を立ち、その他にも6人ほどの購入希望者が係員の指示に従い移動する。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
最後まで残った7人の内、3人はイヴァの招待客である。
船が沈み奴隷の多くが水死した武装商船の船長。
数日前に崩落事故で大量の奴隷が死亡して労働力が不足していた鉱山主。
死の国ネリザルより大量の発注があった奴隷商人。
この情報は、イヴァがエルカバラードに放った大量の蟲から得たものである。そこから、今回のオークションで良い買い手となる人物を招待客として選んでいる。
最終落札で招待客3人がそれぞれ提示してきた金額150万、172万+女奴隷1人、190万は、イヴァの予想範囲内であり、招待客以外の4人の内〝疫病の従者〟以外の提示してきた135万1+傭兵10人、140万+宝飾品20点、169万も驚く内容ではなかった。
「だけど、この金額は予想できなかったなぁ」
〝疫病の従者〟が提示したのは270万という大金である。
「罠か?」
「たぶんね。問題はどういった罠なのか……。金貨に疫病を付与する技術でも手に入れたのかな? いや、資金の受け渡しは信用手形だから、信用状の方かな?」
イヴァは少しばかり考える。
270万で売れば1人あたり4万以上と大きな黒字だが、それより1ランク下の190万を選べば、1人あたり2万8千と少々の赤字となる。もちろん、この後に控える商品を考えれば挽回できる損失である。
「見えない危険を回避して、安全策を取るべきか。罠があると知りつつ踏み込んで、食い破るのか……。最初から悩ましてくれるね。ペルセネアはどう思う? オークションで得たお金は折半だから、遠慮なく意見を言ってみて」
「取れる時に、取るべきだと思う」
アマゾネスの意見に、ダークエルフの少年は「そうだね」と頷く。
(もう一つの可能性として、大金払っても66人の奴隷がほしいって可能性もあるけど……まさかね)
その予想が正解だということは、この時点ではイヴァも思いもしなかった。
とりあえず翡翠解放団の66人の取り引きは終わり、最終落札価格270万という金額に参加者の多くが驚きの声を上げることになる。
何はともあれ奴隷オークションは始まったばかりであり、次の奴隷たちが壇上に連れてこられた。
次の商品として壇上に姿を表したのは、22人の女たちである。
大抵の男の理性を奪う淫靡な匂いを撒き散らしながら、女たちは期待するような目で購入者たちに視線を送る。
会場の熱狂は度合いを増して、最低価格100万と強気の値段にも関わらず、競りを始める前の品定めを希望する者たちは先程の5倍以上も現れた。
奴隷オークションはまだ始まったばかりである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アルアリード大陸には数え切れぬほど多くの疫病、疾患、伝染病が存在している。
治療法のわかっているものも多くなっているが、それでも10年に1度くらいは数万単位の死者が出る悪疫が蔓延することがある。この手の病魔は感染するべき生き物が死に絶えると自然と治まる。
―― アルアリード大陸の病魔 ――
奴隷商人ギルドは場所の手配や参加者、商品である奴隷の管理を行う代わりに、出品者からは主催者料金、購入者からは参加者料金、さらに奴隷売買時に手数料を受け取ることで公平に(少なくとも表向きは)オークションを進行する。
オークションの形式は様々であるが、今回〝|蟲の皇子(ヴァーミン・プリンス)〟イヴァの要請で開催することになった奴隷オークションはエルカバラードでは一般的な吊り上げ式であり、具体的には以下のようなシステムとなっている。
まず基本として、出品者は奴隷を提供する側で、購入者は奴隷を買い取る側だ。
出品される奴隷には、あらかじめ出品者が最低落札価格を設定しており、購入者はそこから値段を吊り上げていくのが基本となる。
もしも最低落札価格の落札者がいない場合、奴隷商人ギルドが最低落札価格の10分の1の値段で奴隷を購入してもよい(しなくてもよい)。
落札金額に上限は存在しないが、制限時間は存在する。
基本的に1つの商品に対する制限時間は最低でも5分、最大で30分。
まず値踏みは4~5分、金額を競り合う入札は1~5分。最終落札に20分。
値踏みは、購入者による商品の品定めである。奴隷商人ギルドの司会者が商品の説明を行うのを聞きながら、品定め料を支払った購入者たちが壇上の奴隷を見て、触って、話して、商品価値を確認するのである。
この品定め料は奴隷商人ギルドの取り分となるので出品者には関係ないが、最低落札価格の2,000分の1程度が相場だ。
値踏みが終われば、次は入札が行われる。
入札は最大で5分間行われるが、最初の1分間の間に入札者がいない場合は落札者なしとなり、次のオークションが行われる。1分以内に落札者が現れた場合は、それ以降の競りが行われて、30秒以上入札者が現れない場合、最終落札は行われることなく、その時点で最高価格を提示した購入者が競り落とすことになる。
この落札金額のうち、100分の1が手数料として奴隷商人ギルドのものとなり、残りの金額が出品者に支払われ、奴隷は購入者に譲渡される。
もしも入札が白熱して、5分を超えた場合、最高落札が行われる。
購入者は入札時点の最高価格+αを出品者に提示して、最終的な購入者を決めてもらう。
この+αは何でも良い。追加の現金が一般的であるが、現金以外にも価値のある品物――例えば、宝飾品や土地の権利書、魔法の武具、そして奴隷である。また、この最高落札では、奴隷商人ギルドは手数料を受け取れない。だが、購入者として参加できる。
購入者は5分以内に+αを提示して出品者に送る。そして出品者は15分後以内に+αの目録を確認して、最終落札者を決定しなくてはならない。
「以上が、奴隷オークションの簡単な内容となります」
ルーミアは説明を終えると「何かご質問は?」と尋ねる。
「最終落札が発生した場合、購入者が大量に……例えば100人以上も出たとすれば、15分で目録を確認するのは難しくありません?」
テタルナはベッドの上に座るイヴァの背に豊満な胸を押し付けながら、ルーミアに問いかける。
「その可能性もゼロではありませんが、最終落札の時点では商品がかなりの高額になっていることが多く、今までの経験から申しますと、実際に入札する方は多くとも10人程度です」
「それでも今回、初めて大量の購入者が出たら?」
「その場合でも、制限時間に変更はありません」
青年は爽やかな笑顔を絶やすことなく、よどみなく答える。
「融通がきかないのですね。イヴァ様?」
「だから信頼できるともいえるよ。例えボクらが海賊ギルド……じゃなかった貿易商人ギルドと組んでいると知っていても、このオークションが終わるまではお客様として、もてなしてくれるよ」
ダークエルフの少年は挑戦するかのように言うが、ルーミアは変わらぬ笑顔を浮かべたまま「他に何か?」と問う。
「+αの制限はないのか?」
東西にある扉の内、西側を守るトルティが問う。
「はい、制限はありません。購入者が支払うことができるものであれば、なんでも構いません。どれだけの価値を見出すかは出品者ごとに異なりますので、購入者はその辺りを考慮しながら+αを決めることになるでしょう」
「支払えないようなものを提示することは?」
「ご安心ください。我々、奴隷商人ギルドが責任を持って、購入者の支払い能力の有無を確認して、どのような手段を使ってでも必ず支払わせます」
自信を持って答えるルーミアに、イヴァは「信頼しているよ」と告げる。
「オークションの回数は何回行われるんだ? それに休息は入るのか?」
東側の扉を守るペルセネアが質問をした。
「オークションは19時より開始され、20回行われます。オークションの盛り上がり具合を見ながら、15分程度の小休憩を何度か挟む予定ですが、今までの経験から申しますと最短でも3時間程度、最長でも6時間といったところでしょう」
ちなみに今は17時である。
砂漠の民は蒸し暑い日中から活動するよりも、涼しい深夜から早朝や夕方から深夜に活動する者も少なくない。今回の客層は夜型の者が多いのだろう。
イヴァたちの起きた時間は14時程度だったので、眠気などはない。
20回あるオークションの内、イヴァの出品した商品が売り買いされる回数は10回で、残り10回は他の出資者が商品を競りにかける。
この回数からわかる通り、捕虜とした翡翠解放団262名は1人1人売られるわけではなく、10組にまとめている。
「以上でよろしいでしょうか?」
「今のところはな」
「では、オークションが始まるまでおくつろぎ下さい。御用がありましたら、お呼びいただければすぐに参りますので」
ルーミアは最後まで笑みを絶やすことなく、深々と一礼して退室する。
奴隷商人ギルドの人間を見送った後、イヴァは用意された肉料理を堪能しながら、アマゾネスの成熟した肢体を順番に楽しみながら、オークションが開始されるのを待つのであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
太陽が地平線の下に沈んだ後、昼の暑さが嘘のような冷たさに支配される。
だが、オークション会場であるアルアーク大聖堂は集まった人々の熱気に支配されており、外の寒さなど吹き飛ばしていた。
オークション会場に集まった人間とそれ以外の種族の比率は5対5で、男女比は7対3である。
とりあえず多くの奴隷を調達しようとする者、翡翠解放団に商売の邪魔をされて恨みを持つ者、〝蟲の皇子〟の悶艶蟲(ビッチメーカー)に調教された女の味が忘れられない者など、その奴隷を購入しようとする目的は様々であるが、いずれも目を輝かせて商品が現れるのを待っている。
そしていよいよ、奴隷オークションの幕が上がる。
「紳士淑女の皆様、大変お待たせいたしました! 只今より、オークションの方を始めさせていただきたいと思います」
司会者がバラミア語で型通りの挨拶を行う。
バラミア語を理解できないものもいたが、そう言った者は通訳を雇っているので、言葉で不自由することはない。
「それではさっそく最初の商品を見ていただきましょう」
ボロ服を身に着け、手枷で拘束され、鎖付きの首輪をつけられた66人の男性がジャラジャラと鎖の音を鳴らしながら、壇上に連れてこられる。会場内の客のうち、女目当てだった客がブーイングを行い、労働力としての奴隷を求めていた者たちは品定めを行う。
彼らは翡翠解放団の中でも最低限の戦闘訓練しか受けていない者たちで、元々の職業は農民や職人であった。革命の熱に浮かされて、そのまま兵士として活動していた。だが、今この場に連れてこられたことで、その熱は完全に冷めている。
一般的な成人男性の奴隷は一人3万程度が相場で、66人を普通に購入するのならば198万であるが、司会者の――正確にはイヴァの提示した最低落札価格は定価どころか何かの冗談ではないかと思えるほど遥かに安いものであった。
「最低落札価格は66人で10万! さあさあ、本来ならばありえない価格設定です! 皆様、どうぞ見て触って、品質を確かめて下さい。全員、健康な男たちです。革命に参加した者たちではありますが、全員の心は完全に折られておりますので、どうぞ安心してお使い下さい」
〝蟲の皇子〟が女たちに悶艶蟲を使ったのと同じように、苦悶百足で男たちの心をへし折っている。精神を破壊するには更に上位の傀儡蝿(かいらいばえ)や地獄蚯蚓(じごくみみず)、屍蟻(しかばねあり)なども存在するのだが、奴隷とすることを考えれば苦悶百足が一番手頃である。
何人かの購入候補者が壇上に上がると、健康状態や精神状態を確認する。
まるで家畜のように扱われているが、誰一人として抵抗しない。
「それでは、入札を開始します!」
品定めが終わると、司会者は宣言する
「12万」
「13万」
「15万」
1分もしないうちに金額が釣り上がり、2分が経過する頃には50万程度の金額になっている。
「54万」
「54万と1」
「55万」
「55万と1」
今回のオークションで、イヴァは入札する最低価格を決めていない。なので、1でも上の金額を提示すれば、入札は成立する。大抵の参加者は1万単位で値段を上げているが、1人だけ1単位で値段を上げている者がいる。
〝|疫病の従者(プレーグ・フォロワー)〟ピラトカナス。
顔の右半分はそれなりに整った容姿の青年だが、左半分は灰色に変色して見るも無残な変異を遂げている。
「目を合わせるだけで、病気をうつすことができるらしいぜ」
「人体実験をおこなっているって噂だぜ」
「じゃあ、買われた奴隷たちは……」
ヒソヒソと噂話が囁かれるが、4分経過した時点での価格は110万を超えている。このあたりまで来ると、競りに参加している者は7人ほどに落ち着いていた。
「112万」
「112万と1」
「115万5千」
「115万5千と1」
「116万」
「さて、残り時間1分を切りました!」
競りはさらに白熱し、直接競りに参加していない者たちもどの程度の値段に落ち着くのか予想をはじめる。
「198万を超えることはないだろう」
「それなら普通に揃えるのと変わりないですからな」
「130万前後が妥当なところでは?」
そんな予想を立てる間に、残り時間は秒読みとなる。
「残り40秒」「130万」「130万と1」
「残り20秒」「131万」「131万と1」
「残り10秒」「132万」「132万と1」
「残り5秒」「……135万」「135万と1」
「終了! 入札は終了です! 最終入札価格は135万と1。これより最終落札を行います。最終落札希望者は係りの者に従って、移動して下さい。最終落札が決まるまで、残っておられる方には、我々奴隷商人ギルドの奴隷オークションを楽しんでいただければと思います」
〝疫病の従者〟が幽鬼のように席を立ち、その他にも6人ほどの購入希望者が係員の指示に従い移動する。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
最後まで残った7人の内、3人はイヴァの招待客である。
船が沈み奴隷の多くが水死した武装商船の船長。
数日前に崩落事故で大量の奴隷が死亡して労働力が不足していた鉱山主。
死の国ネリザルより大量の発注があった奴隷商人。
この情報は、イヴァがエルカバラードに放った大量の蟲から得たものである。そこから、今回のオークションで良い買い手となる人物を招待客として選んでいる。
最終落札で招待客3人がそれぞれ提示してきた金額150万、172万+女奴隷1人、190万は、イヴァの予想範囲内であり、招待客以外の4人の内〝疫病の従者〟以外の提示してきた135万1+傭兵10人、140万+宝飾品20点、169万も驚く内容ではなかった。
「だけど、この金額は予想できなかったなぁ」
〝疫病の従者〟が提示したのは270万という大金である。
「罠か?」
「たぶんね。問題はどういった罠なのか……。金貨に疫病を付与する技術でも手に入れたのかな? いや、資金の受け渡しは信用手形だから、信用状の方かな?」
イヴァは少しばかり考える。
270万で売れば1人あたり4万以上と大きな黒字だが、それより1ランク下の190万を選べば、1人あたり2万8千と少々の赤字となる。もちろん、この後に控える商品を考えれば挽回できる損失である。
「見えない危険を回避して、安全策を取るべきか。罠があると知りつつ踏み込んで、食い破るのか……。最初から悩ましてくれるね。ペルセネアはどう思う? オークションで得たお金は折半だから、遠慮なく意見を言ってみて」
「取れる時に、取るべきだと思う」
アマゾネスの意見に、ダークエルフの少年は「そうだね」と頷く。
(もう一つの可能性として、大金払っても66人の奴隷がほしいって可能性もあるけど……まさかね)
その予想が正解だということは、この時点ではイヴァも思いもしなかった。
とりあえず翡翠解放団の66人の取り引きは終わり、最終落札価格270万という金額に参加者の多くが驚きの声を上げることになる。
何はともあれ奴隷オークションは始まったばかりであり、次の奴隷たちが壇上に連れてこられた。
次の商品として壇上に姿を表したのは、22人の女たちである。
大抵の男の理性を奪う淫靡な匂いを撒き散らしながら、女たちは期待するような目で購入者たちに視線を送る。
会場の熱狂は度合いを増して、最低価格100万と強気の値段にも関わらず、競りを始める前の品定めを希望する者たちは先程の5倍以上も現れた。
奴隷オークションはまだ始まったばかりである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アルアリード大陸には数え切れぬほど多くの疫病、疾患、伝染病が存在している。
治療法のわかっているものも多くなっているが、それでも10年に1度くらいは数万単位の死者が出る悪疫が蔓延することがある。この手の病魔は感染するべき生き物が死に絶えると自然と治まる。
―― アルアリード大陸の病魔 ――
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】シャロームの哀歌
古堂 素央
恋愛
ミリは最後の聖戦で犠牲となった小さな村の、たったひとりの生き残りだった。
流れ着いた孤児院で、傷の残る体を酷使しながら懸命に生きるミリ。
孤児院の支援者であるイザクに、ミリは淡い恋心を抱いていって……。
遠い国の片隅で起きた哀しい愛の物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた
リオール
恋愛
だから?
それは最強の言葉
~~~~~~~~~
※全6話。短いです
※ダークです!ダークな終わりしてます!
筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。
スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。
※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる