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第6話 海賊卿との会談
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武装商船『フレイミング・リーヴァー』号。
燃え盛る略奪者を意味する戦列艦には、合計200門もの大砲が搭載されており、乗組員の数は2,800名以上と、この時代においては最大級の船である。この時代の一般的な軍船が、砲門50で乗組員600であるといえば、その差がわかるだろう。もちろん、小さい利点として、小回りがなどあるのだが、砲撃戦においては砲門の数が勝敗を決するといっても過言ではない。
加えて、『フレイミング・リーヴァー』号の甲板には、その名前通りに昼夜を問わずに常に船内を明るく照らす篝火が数百以上も置かれている。これらの篝火1つ1つには炎の下位精霊サラマンダーが住み着いており、船長であるアデルラシードが命じれば、敵船を焼き払う戦闘員に早変わりするのだ。もちろん、帆を含めて船体は炎に強い素材で作られているし、サラマンダーは攻撃的な精霊であるが主人の船を燃やすような真似はしない。
船首部分には炎の上位精霊イフリートの巨像が取り付けられているが、これもただの装飾品ではない。主人の命令を受ければたちまちイフリートは解き放たれて、サラマンダーの炎よりも遥かに苛烈な火力を持って、敵の船を灰燼にするまで攻撃をやめることはないだろう。
アデルラシードはこれ以外にも、風の上位精霊ジンや水の上位精霊アプサラスといった精霊を使役しており、必要に応じて彼らの助力を請うのである。
と、軍船としての機能は十分であるが、生活の場としても不自由はない。
癒しの水が湧き出す宝珠の井戸や羊を生み出す植物バロメッツの農園、不老長寿をもたらすと言われる仙桃の果樹園などにより、水や食糧が不足することはない。乗組員の娯楽として、船の中だというのに酒場や娼館まで存在する。ただし、賭け事は禁止しているので賭博場は存在しない。
その他にも、船長アデルラシード専用の各地から集められた魔道書の図書館や怪我や病気を治す水薬を開発する研究室、そして彼の情婦を囲う後宮(ハレム)などが存在する。
そして今回、イヴァたちの通された場所は重要な事柄を決める会議室である。
四角い長机の中心には〝海賊卿〟アデルラシードがおり、彼の左右に幹部らしい者たちが座っている。
筋骨隆々な赤肌を露出させた傷だらけの大男。
アマツの民族衣装を着ている黒い髪と白い肌の少女。
コンロンの民族衣装を着ている青い髪を持つスキュラの娘。
イヴァと似たような砂漠の民族衣装を着こなすワージャガーの壮年男性。
鮮やかな赤毛と髭の老ドワーフ。
色とりどりの宝石と派手な鳥の羽尾で装飾された海賊帽子をつけた片腕が鉤爪の義手になっているゴブリンの青年。
|真なる銀(ミスリル)の鎧を身に着けて、|神の黄金(オリハルコン)の槍を背負ったギルマンの初老?
捻れた4本角とコウモリの翼を生やした細身のアーク・デーモン。
と、この場にいる幹部は8名。
イヴァの情報網によれば、後8人ほど幹部がいるはずだが、他の船を指揮しているのだろう。〝海賊卿〟が所持するのは『フレイミング・リーヴァー』号だけではなく、他にも大小様々な武装商船と奴隷船、監獄船を所持しており、それらの管理運営に割り当てられているのはずだ。
そんな〝海賊卿〟に対面するような形でイヴァが席につく。ペルセネアと護衛の軽歩兵は後ろに立ったままである。
「まずは再会を祝して、一杯やろう」
黒い眼帯で片目を隠している〝海賊卿〟はエルカバラード共通語のバラミア語で言うと、小姓らしき少年たちが飲み物を持ってくる。アデルラシードは海賊が愛用するラム酒であったが、幹部たちはこだわりがあるのか、ビール、ワイン、ドブロク、ミード、澄んだ水、いちごを絞ったジュース、お茶、ミルクなど、それぞれ違ったものだった。
イヴァには、黄金の盃に注がれた黒葡萄のワインが置かれている。
ダークエルフの少年は杯を手に取ると、「再会を祝して」と言って掲げた。皆が手にした杯を傾けると〝海賊卿〟は本題を切り出す。
「さて、領主殿のお話じゃ、俺らに協力してほしいことがあるとか?」
「うん」
イヴァは首を縦に振ると、自分の考えを話し始める。
話の内容はペルセネアに言ったこととほとんど同じ内容であり、エルカバラードの独立を保つために協力して欲しいというものであった。
話を聞き終えたアデルラシードは宝石のような赤い瞳を細めて、イヴァに言う。
「……なるほど、東西の混乱が収まりそうなのは知っている。それでどちらかが、この都市を奪い取るというのも、間違いないだろうな。だが、別にこの都市の支配権が誰に移ろうが、俺達は気にしない。港を貸してもらう料金が少し変わるだけで、それ以上の変化はないだろうよ」
「例えエルカバラードをどちらが支配しようとも『世界の海を支配する海賊国家に喧嘩を売るわけない』って考えているわけだね」
ダークエルフの少年は海賊国家といったが、正確には海賊団同士の同盟のようなものである。
それぞれの海を支配する〝海賊卿〟が150年ほど前に、もしもどこかの国が海賊を一掃しようと動き出したのなら、すべての海賊はその国を攻撃するという盟約を結んだのである。
今までその盟約は7回ほど使われており、海賊たちはその全てに勝利している。そして、敗者となった国の4つは滅ぼされて、残りの3つの内、大帝国を除く国は他国に併合されるか、滅ぼされるという末路を迎えていた。唯一存続している大帝国の被害も甚大であり、この時の敗北がなければエルカバラードが奪われることはなかっただろうと言われている。
だが海賊たちは陸地を占領したり、支配するつもりは無いようで、それどころか港の使用料を納めているほどである。さらに彼らは各地から奪った財宝を運んできて、散財してくれるので、港の住民たちは海賊たちがやってくるのを歓迎することさえある。
「戦いが終わった後で、俺らに喧嘩売るような馬鹿じゃないだろうよ」
アデルラシードはそう言って、ラム酒を呷(あお)った
「まあ予想通りだけど……、君たちはこの都市の統治権はどうでもいいんだね? 港を使わせてもらえれば、他はどうでもいいと?」
「ああ、だから陸地の権力闘争に加わる気はない。他を当たってくれよ」
やんわりと協力を拒絶する〝海賊卿〟に〝蟲の皇子〟は食い下がる。
「いいや、都市(エルカバラード)の支配に興味が無いならこそ。ボクとしては是非とも協力してもらわなきゃならない」
「ほぉ、まあ都市を完全に支配下に置きたいなら、競合相手にならない俺らを味方に引き入れたいだろうがな。言っておくが、金品で買収するのは無駄だぜ。海賊にとって、それは誰かから受け取るものじゃなく、他の船から奪い取るものだ」
「もちろん。そんな失礼な真似はしないよ」
ダークエルフの少年は余裕のある笑みを浮かべる。
「ボクが提供するのは、航海図だ」
「何?」
「ツペルナトム王の航海図。ボクを領主として後押ししてくれるなら、彼の隠し財宝の在り処を示した宝の地図をあげる」
〝海賊卿〟は馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「さっきも言っただろ? わざわざお前から貰わなくても、奪い取ればいい」
「ボクが持っているなら、その選択肢もあっただろうけどね」
〝蟲の皇子〟の笑みは変わらない。
「航海図を手に入れたのが『奴隷商人ギルド』だよ。先月、彼らがピラミッドから多くの財宝を持ち帰っているのは知っているよね? 航海図も、その中に含まれている。さて、ここで問題だけど、彼らは航海図を売り払うことなく、それどころか、君たちに知られないように隠しているのは、なんでだと思う?」
アデルラシードは少し考えた後、忌々しそうに言う。
「海にも支配権を伸ばしたいのか? だが、奴らの奴隷船が海に出れば、たちまち俺らの餌食になるぜ」
「彼らはもう少し狡猾だよ。自分たちで財宝を取るんじゃなくて、君ら海賊の間で財宝の奪い合いをさせるつもりだ。少し前まで、陸地で行われていた内乱を、海の上で行わせようとしている」
「俺らがそう簡単に、連中の思い通りに踊るかよ」
イヴァの言葉に、アデルラシードは反論する。
そして、ダークエルフの少年も強く否定はしなかったが、肯定もしない。
「そうかもしれない。でも海賊たちの皆が皆、君たちのように理性的であるかな? 海での権力闘争だって、ささやかな火種で燃え上がるんじゃない? それに争いが起こらなくとも、航海図に隠された財宝を手にすれば、その海賊勢力は大きな力を持つことになるよ」
宝の地図は、海賊の野心に火をつける起爆剤でもあった。
ツペルナトム王といえば〝黄金王〟の別名を持っており、大陸全土の富を手にしたともいわれている。実際、幾つかの遺跡や墓所(ピラミッド)からは相当の財宝が発見されており、少なくない成功者を生み出している。
航海図に記された内容次第では、海が血の色に染まることになるだろう。
「……」
「そこで最初の話に戻るんだけど。ボクを領主の地位につけるように支援してくれたら『奴隷商人ギルド』は責任をもって乗っ取るよ。今いる幹部たちの首をすべてすげ替えて、その幹部の中に、君たちの中から何人か適当な者をいれる。もちろん航海図は譲るし、写しは責任をもって処分する。後は航海図をどうしようと、君の自由だ」
アデルラシードはイヴァの話を聞き終えると、幹部の1人であるデーモンの方を向く。悪魔は硫黄混じりの息を吐きながら「彼は嘘をついておりません」とだけ言った。
「アデル。アデルラシード、どうだろう? 支援と言ったけど、別にボクは君たちに最前線で戦って欲しいと言っているわけじゃない。ただボクを支持すると表明して欲しいだけだ。それだけで、流れは大きく変わる。もちろん、それを快く思わない勢力は、君たちにも敵対的な行動を取るだろうけど、幸か不幸か、ボクを支持しようがしまいが、その勢力は元々君たちに対して敵対的だ。海の下にいた怪物が首を出すようなもので、その方が君たちにとってはやりやすいだろ?」
〝海賊卿〟はしばらく考えた後、口を開く。
「いいだろう。少し裏を取る必要があるが、明日の夜までには返事を出す」
「良い返事を期待しているよ」
イヴァは席を立ち、右手を差し出す。
アデルラシードは手を握り返すと「客人のお帰りだ」と告げる。
(『奴隷商人ギルド』とは元々仲が悪いから手を結ぶ可能性はないだろうけど、最悪ギリギリまで静観されるかもしれないな~。まあ、それはそれとして、明後日には『奴隷商人ギルド』に顔を出す必要があるよね)
ダークエルフの少年は各勢力がどのように動きを行うか予想しながら、部下たちに「帰るよ」と言おうとするが、それよりも早く武装商船が大きく揺れた。
何が起こったのかと誰かが問う前に、伝令役の水夫が来て、
「船長、怪物どもの襲撃です」
と、〝海賊卿〟に伝えた。
「怪物?」
「多頭竜(ヒドラ)と飛竜(ワイバーン)、大海蛇(シーサーペント)が群れで襲いかかってきています。おそらく何者かが怪物を操っているのではないかと思いますが……」
そこまで聞いて、イヴァが口を開く。
「どうやら、お互い敵が多いみたいだね」
「お前さんが連れてきたんじゃないのか? けど、まあいい」
〝海賊卿〟は〝蟲の皇子〟に問う。
「共闘といこうぜ」
「もちろん」
イヴァはそう言うと、ペルセネアに戦う準備をするように言った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
武装商船『フレイミング・リーヴァー』号 乗員名簿
・船長×1
アデルラシード(ダークエルフ:男)
他の武装商船を指揮する提督でもある。
・幹部×8
副長ノイリーク(イオルコス人:男)
アデルラシードの片腕。オネェ言葉を話す美少年好き。
白兵戦闘隊長アマネ(アマツ人:女)
刀を使う女傑。アデルラシードの愛人でシェンルーとは犬猿の仲。
上級呪術師シェンルー(スキュラ:女)
風水と呼ばれる術を使う。アデルラシードの愛人でアマネとは犬猿の仲。
護衛隊長エヴィノク(ワージャガー:男)
元はアデルラシードの命を狙っていた暗殺者。闇からの奇襲が得意。
技術士官グリムドナル・ライトニングフレイム(ドワーフ:男)
船を魔改造するのが大好きなドワーフのお爺ちゃん。自分の名前が嫌い。
砲術長スキーニット(ゴブリン:男)
元は別の海賊団を率いていたが、アデルラシードに敗れて、忠誠を誓う。言うことをきかない部下を大砲に詰め込んで撃ち出すのが趣味。
潜水部隊長グドノア・ルカノア(半魚人(ギルマン):男)
海底にある半魚人(ギルマン)の国から来た客将。何を考えているのかわからないが、仕事は確実にこなす人物。
会計士ナーク(アーク・デーモン・男)
アデルラシードに呼び出された悪魔。彼が死ぬと自分も消滅する呪いを受けており、必死に船長を守ろうとしているが、危険な旅はまだまだ続く。
・操舵手×18
帆とコンパスを見て、操舵助手に舵輪の操作を指示する役割。
・操舵助手×18
操舵手の命令に従い、舵輪を動かす役割。基本的に操舵手とセット。
・下士官×45
白兵戦時、小隊(約50名)を率いる指揮官。
・砲撃士官×50
砲撃戦時、大砲を撃つ指示を出す。1人につき4門の大砲を担当する。
・小型艦長×30
船内に格納されている小型艇の艦長。周辺を探索するときの索敵隊長も兼任。
・見習い風水師×20
シェンルーの風水術を補佐する者。
・下位司祭×30
様々な神に仕える司祭たち、簡単な癒しの奇跡などが使用できる。
・下位魔術師×40
幾つかの呪文を使える魔法使い、戦闘よりも宝の鑑定や薬品の生成を行う。
・水兵×893
半月刀(シャムシール)とマスケットで武装しており、指揮も練度も高い。
・水夫×1,707
曲刀(ショーテル)で武装した雑用係。
基本的に船の掃除や武器の整備などの面倒な仕事をやることになるが、料理や裁縫が得意なものは、料理人や服飾人として重宝される。
燃え盛る略奪者を意味する戦列艦には、合計200門もの大砲が搭載されており、乗組員の数は2,800名以上と、この時代においては最大級の船である。この時代の一般的な軍船が、砲門50で乗組員600であるといえば、その差がわかるだろう。もちろん、小さい利点として、小回りがなどあるのだが、砲撃戦においては砲門の数が勝敗を決するといっても過言ではない。
加えて、『フレイミング・リーヴァー』号の甲板には、その名前通りに昼夜を問わずに常に船内を明るく照らす篝火が数百以上も置かれている。これらの篝火1つ1つには炎の下位精霊サラマンダーが住み着いており、船長であるアデルラシードが命じれば、敵船を焼き払う戦闘員に早変わりするのだ。もちろん、帆を含めて船体は炎に強い素材で作られているし、サラマンダーは攻撃的な精霊であるが主人の船を燃やすような真似はしない。
船首部分には炎の上位精霊イフリートの巨像が取り付けられているが、これもただの装飾品ではない。主人の命令を受ければたちまちイフリートは解き放たれて、サラマンダーの炎よりも遥かに苛烈な火力を持って、敵の船を灰燼にするまで攻撃をやめることはないだろう。
アデルラシードはこれ以外にも、風の上位精霊ジンや水の上位精霊アプサラスといった精霊を使役しており、必要に応じて彼らの助力を請うのである。
と、軍船としての機能は十分であるが、生活の場としても不自由はない。
癒しの水が湧き出す宝珠の井戸や羊を生み出す植物バロメッツの農園、不老長寿をもたらすと言われる仙桃の果樹園などにより、水や食糧が不足することはない。乗組員の娯楽として、船の中だというのに酒場や娼館まで存在する。ただし、賭け事は禁止しているので賭博場は存在しない。
その他にも、船長アデルラシード専用の各地から集められた魔道書の図書館や怪我や病気を治す水薬を開発する研究室、そして彼の情婦を囲う後宮(ハレム)などが存在する。
そして今回、イヴァたちの通された場所は重要な事柄を決める会議室である。
四角い長机の中心には〝海賊卿〟アデルラシードがおり、彼の左右に幹部らしい者たちが座っている。
筋骨隆々な赤肌を露出させた傷だらけの大男。
アマツの民族衣装を着ている黒い髪と白い肌の少女。
コンロンの民族衣装を着ている青い髪を持つスキュラの娘。
イヴァと似たような砂漠の民族衣装を着こなすワージャガーの壮年男性。
鮮やかな赤毛と髭の老ドワーフ。
色とりどりの宝石と派手な鳥の羽尾で装飾された海賊帽子をつけた片腕が鉤爪の義手になっているゴブリンの青年。
|真なる銀(ミスリル)の鎧を身に着けて、|神の黄金(オリハルコン)の槍を背負ったギルマンの初老?
捻れた4本角とコウモリの翼を生やした細身のアーク・デーモン。
と、この場にいる幹部は8名。
イヴァの情報網によれば、後8人ほど幹部がいるはずだが、他の船を指揮しているのだろう。〝海賊卿〟が所持するのは『フレイミング・リーヴァー』号だけではなく、他にも大小様々な武装商船と奴隷船、監獄船を所持しており、それらの管理運営に割り当てられているのはずだ。
そんな〝海賊卿〟に対面するような形でイヴァが席につく。ペルセネアと護衛の軽歩兵は後ろに立ったままである。
「まずは再会を祝して、一杯やろう」
黒い眼帯で片目を隠している〝海賊卿〟はエルカバラード共通語のバラミア語で言うと、小姓らしき少年たちが飲み物を持ってくる。アデルラシードは海賊が愛用するラム酒であったが、幹部たちはこだわりがあるのか、ビール、ワイン、ドブロク、ミード、澄んだ水、いちごを絞ったジュース、お茶、ミルクなど、それぞれ違ったものだった。
イヴァには、黄金の盃に注がれた黒葡萄のワインが置かれている。
ダークエルフの少年は杯を手に取ると、「再会を祝して」と言って掲げた。皆が手にした杯を傾けると〝海賊卿〟は本題を切り出す。
「さて、領主殿のお話じゃ、俺らに協力してほしいことがあるとか?」
「うん」
イヴァは首を縦に振ると、自分の考えを話し始める。
話の内容はペルセネアに言ったこととほとんど同じ内容であり、エルカバラードの独立を保つために協力して欲しいというものであった。
話を聞き終えたアデルラシードは宝石のような赤い瞳を細めて、イヴァに言う。
「……なるほど、東西の混乱が収まりそうなのは知っている。それでどちらかが、この都市を奪い取るというのも、間違いないだろうな。だが、別にこの都市の支配権が誰に移ろうが、俺達は気にしない。港を貸してもらう料金が少し変わるだけで、それ以上の変化はないだろうよ」
「例えエルカバラードをどちらが支配しようとも『世界の海を支配する海賊国家に喧嘩を売るわけない』って考えているわけだね」
ダークエルフの少年は海賊国家といったが、正確には海賊団同士の同盟のようなものである。
それぞれの海を支配する〝海賊卿〟が150年ほど前に、もしもどこかの国が海賊を一掃しようと動き出したのなら、すべての海賊はその国を攻撃するという盟約を結んだのである。
今までその盟約は7回ほど使われており、海賊たちはその全てに勝利している。そして、敗者となった国の4つは滅ぼされて、残りの3つの内、大帝国を除く国は他国に併合されるか、滅ぼされるという末路を迎えていた。唯一存続している大帝国の被害も甚大であり、この時の敗北がなければエルカバラードが奪われることはなかっただろうと言われている。
だが海賊たちは陸地を占領したり、支配するつもりは無いようで、それどころか港の使用料を納めているほどである。さらに彼らは各地から奪った財宝を運んできて、散財してくれるので、港の住民たちは海賊たちがやってくるのを歓迎することさえある。
「戦いが終わった後で、俺らに喧嘩売るような馬鹿じゃないだろうよ」
アデルラシードはそう言って、ラム酒を呷(あお)った
「まあ予想通りだけど……、君たちはこの都市の統治権はどうでもいいんだね? 港を使わせてもらえれば、他はどうでもいいと?」
「ああ、だから陸地の権力闘争に加わる気はない。他を当たってくれよ」
やんわりと協力を拒絶する〝海賊卿〟に〝蟲の皇子〟は食い下がる。
「いいや、都市(エルカバラード)の支配に興味が無いならこそ。ボクとしては是非とも協力してもらわなきゃならない」
「ほぉ、まあ都市を完全に支配下に置きたいなら、競合相手にならない俺らを味方に引き入れたいだろうがな。言っておくが、金品で買収するのは無駄だぜ。海賊にとって、それは誰かから受け取るものじゃなく、他の船から奪い取るものだ」
「もちろん。そんな失礼な真似はしないよ」
ダークエルフの少年は余裕のある笑みを浮かべる。
「ボクが提供するのは、航海図だ」
「何?」
「ツペルナトム王の航海図。ボクを領主として後押ししてくれるなら、彼の隠し財宝の在り処を示した宝の地図をあげる」
〝海賊卿〟は馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「さっきも言っただろ? わざわざお前から貰わなくても、奪い取ればいい」
「ボクが持っているなら、その選択肢もあっただろうけどね」
〝蟲の皇子〟の笑みは変わらない。
「航海図を手に入れたのが『奴隷商人ギルド』だよ。先月、彼らがピラミッドから多くの財宝を持ち帰っているのは知っているよね? 航海図も、その中に含まれている。さて、ここで問題だけど、彼らは航海図を売り払うことなく、それどころか、君たちに知られないように隠しているのは、なんでだと思う?」
アデルラシードは少し考えた後、忌々しそうに言う。
「海にも支配権を伸ばしたいのか? だが、奴らの奴隷船が海に出れば、たちまち俺らの餌食になるぜ」
「彼らはもう少し狡猾だよ。自分たちで財宝を取るんじゃなくて、君ら海賊の間で財宝の奪い合いをさせるつもりだ。少し前まで、陸地で行われていた内乱を、海の上で行わせようとしている」
「俺らがそう簡単に、連中の思い通りに踊るかよ」
イヴァの言葉に、アデルラシードは反論する。
そして、ダークエルフの少年も強く否定はしなかったが、肯定もしない。
「そうかもしれない。でも海賊たちの皆が皆、君たちのように理性的であるかな? 海での権力闘争だって、ささやかな火種で燃え上がるんじゃない? それに争いが起こらなくとも、航海図に隠された財宝を手にすれば、その海賊勢力は大きな力を持つことになるよ」
宝の地図は、海賊の野心に火をつける起爆剤でもあった。
ツペルナトム王といえば〝黄金王〟の別名を持っており、大陸全土の富を手にしたともいわれている。実際、幾つかの遺跡や墓所(ピラミッド)からは相当の財宝が発見されており、少なくない成功者を生み出している。
航海図に記された内容次第では、海が血の色に染まることになるだろう。
「……」
「そこで最初の話に戻るんだけど。ボクを領主の地位につけるように支援してくれたら『奴隷商人ギルド』は責任をもって乗っ取るよ。今いる幹部たちの首をすべてすげ替えて、その幹部の中に、君たちの中から何人か適当な者をいれる。もちろん航海図は譲るし、写しは責任をもって処分する。後は航海図をどうしようと、君の自由だ」
アデルラシードはイヴァの話を聞き終えると、幹部の1人であるデーモンの方を向く。悪魔は硫黄混じりの息を吐きながら「彼は嘘をついておりません」とだけ言った。
「アデル。アデルラシード、どうだろう? 支援と言ったけど、別にボクは君たちに最前線で戦って欲しいと言っているわけじゃない。ただボクを支持すると表明して欲しいだけだ。それだけで、流れは大きく変わる。もちろん、それを快く思わない勢力は、君たちにも敵対的な行動を取るだろうけど、幸か不幸か、ボクを支持しようがしまいが、その勢力は元々君たちに対して敵対的だ。海の下にいた怪物が首を出すようなもので、その方が君たちにとってはやりやすいだろ?」
〝海賊卿〟はしばらく考えた後、口を開く。
「いいだろう。少し裏を取る必要があるが、明日の夜までには返事を出す」
「良い返事を期待しているよ」
イヴァは席を立ち、右手を差し出す。
アデルラシードは手を握り返すと「客人のお帰りだ」と告げる。
(『奴隷商人ギルド』とは元々仲が悪いから手を結ぶ可能性はないだろうけど、最悪ギリギリまで静観されるかもしれないな~。まあ、それはそれとして、明後日には『奴隷商人ギルド』に顔を出す必要があるよね)
ダークエルフの少年は各勢力がどのように動きを行うか予想しながら、部下たちに「帰るよ」と言おうとするが、それよりも早く武装商船が大きく揺れた。
何が起こったのかと誰かが問う前に、伝令役の水夫が来て、
「船長、怪物どもの襲撃です」
と、〝海賊卿〟に伝えた。
「怪物?」
「多頭竜(ヒドラ)と飛竜(ワイバーン)、大海蛇(シーサーペント)が群れで襲いかかってきています。おそらく何者かが怪物を操っているのではないかと思いますが……」
そこまで聞いて、イヴァが口を開く。
「どうやら、お互い敵が多いみたいだね」
「お前さんが連れてきたんじゃないのか? けど、まあいい」
〝海賊卿〟は〝蟲の皇子〟に問う。
「共闘といこうぜ」
「もちろん」
イヴァはそう言うと、ペルセネアに戦う準備をするように言った。
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武装商船『フレイミング・リーヴァー』号 乗員名簿
・船長×1
アデルラシード(ダークエルフ:男)
他の武装商船を指揮する提督でもある。
・幹部×8
副長ノイリーク(イオルコス人:男)
アデルラシードの片腕。オネェ言葉を話す美少年好き。
白兵戦闘隊長アマネ(アマツ人:女)
刀を使う女傑。アデルラシードの愛人でシェンルーとは犬猿の仲。
上級呪術師シェンルー(スキュラ:女)
風水と呼ばれる術を使う。アデルラシードの愛人でアマネとは犬猿の仲。
護衛隊長エヴィノク(ワージャガー:男)
元はアデルラシードの命を狙っていた暗殺者。闇からの奇襲が得意。
技術士官グリムドナル・ライトニングフレイム(ドワーフ:男)
船を魔改造するのが大好きなドワーフのお爺ちゃん。自分の名前が嫌い。
砲術長スキーニット(ゴブリン:男)
元は別の海賊団を率いていたが、アデルラシードに敗れて、忠誠を誓う。言うことをきかない部下を大砲に詰め込んで撃ち出すのが趣味。
潜水部隊長グドノア・ルカノア(半魚人(ギルマン):男)
海底にある半魚人(ギルマン)の国から来た客将。何を考えているのかわからないが、仕事は確実にこなす人物。
会計士ナーク(アーク・デーモン・男)
アデルラシードに呼び出された悪魔。彼が死ぬと自分も消滅する呪いを受けており、必死に船長を守ろうとしているが、危険な旅はまだまだ続く。
・操舵手×18
帆とコンパスを見て、操舵助手に舵輪の操作を指示する役割。
・操舵助手×18
操舵手の命令に従い、舵輪を動かす役割。基本的に操舵手とセット。
・下士官×45
白兵戦時、小隊(約50名)を率いる指揮官。
・砲撃士官×50
砲撃戦時、大砲を撃つ指示を出す。1人につき4門の大砲を担当する。
・小型艦長×30
船内に格納されている小型艇の艦長。周辺を探索するときの索敵隊長も兼任。
・見習い風水師×20
シェンルーの風水術を補佐する者。
・下位司祭×30
様々な神に仕える司祭たち、簡単な癒しの奇跡などが使用できる。
・下位魔術師×40
幾つかの呪文を使える魔法使い、戦闘よりも宝の鑑定や薬品の生成を行う。
・水兵×893
半月刀(シャムシール)とマスケットで武装しており、指揮も練度も高い。
・水夫×1,707
曲刀(ショーテル)で武装した雑用係。
基本的に船の掃除や武器の整備などの面倒な仕事をやることになるが、料理や裁縫が得意なものは、料理人や服飾人として重宝される。
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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