闇の胎動

雨竜秀樹

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オークの軍勢

第1話 進撃

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 要塞の夜明け、冷たい風が石造りの壁に吹きつける中、見張り台に立つ兵士が震える声で報告を上げた。

「オークだ……、数千人のオークが接近してくる!」

 遠くの地平線には、鎧や武器が陽光に反射して輝く、粗野な軍勢が見えた。オークたちは粗雑だが恐るべき武器を手にし、斧、原始的な剣、メイスを掲げ、圧倒的な力を誇示している。彼らの先頭には、一際大きなオークの戦士が立っていた。

 そのオークは異様な姿をしていた。巨大な体躯に傷だらけの顔、そして何より目を引くのは、鼻のあったはずの場所にぽっかりと開いた二つの穴。彼は静かに足を止め、要塞の正面に立ちふさがった。その存在感に、周囲の空気が一瞬、凍りついたようだった。

「俺の名は、モルグだ!」

 重厚な声が響く。
 オークの首領、モルグ。鼻を失った戦士として知られるが、その名は恐怖と栄光を伴って、オークだけでなく人間たちの間に広まっていた。

「モルグとその軍隊は、この地を新たな栄光で染め上げるために来た。俺たちは最も強き者に仕える! 最も強く、最も偉大なボスのもとにひざまずき、共に戦い、共に勝利を得るのだ!」

 後に続くオークたちは一斉に鬨の声を上げ、モルグの背後で武器を掲げた。彼らの瞳には狂気にも似た光が宿り、戦いへの飢えが溢れていた。鼻のない首領に導かれる彼らは、血と戦利品を求めて集まった狂信的な戦士たちだ。

「最も大きなボスに栄光あれ!」とモルグが続ける。

 オークたちは膝を折り、地面に顔を押しつけた。それは戦いの宣言と忠誠の誓い、そして彼らの掟に従い、最も強い者に従うという古来からの儀式だった。だが、彼らが求める「最も大きなボス」はまだ姿を現していない。

 要塞の上では、司令官がこの異様な光景を見下ろしていた。彼の背後では、戦士たちが武器を握り締め、緊張感が高まっていた。敵の首領モルグの言葉には、一見すると誇りと忠誠心が感じられたが、その本質は単なる脅迫だった。モルグとその軍勢は、戦いと略奪を糧に生きる。彼らが求めるのは服従ではなく、戦争と栄光だ。

「奴らが望むのは、戦いだ」

 司令官は呟いた。
 その時、モルグが再び口を開く。

「最も大きなボスよ、姿を現し、俺と戦い、強さを示せ! 我々はお前に栄光を捧げ、すべてを勝ち取る!」

 司令官は深い息をつき、要塞の門の前へと歩み出た。彼の配下たちは慌てて止めるが、司令官は配下たちに脱出口から逃げるように命じた。要塞とは名ばかりで、戦闘員は十数名、非戦闘員を含めても50人にも満たない。長年の平和ゆえ、予算が削られ続けた弊害であった。

「俺が戦い始めたら、最後の者たちは脱出口を塞げ、急ぎ対策を……頼んだぞ」

 司令官はそう言って、一人。
 モルグの前に歩み出た。
 彼はモルグと目を合わせる。そして、低く、しかし力強い声で言った。

「俺が最も大きなボスだ。来い、モルグ。お前の忠誠を試してやる。」

 モルグはにやりと笑った。それは、戦いの予感に満ちた笑みだった。オークたちの鬨の声が再び天を突き、武器が地面に叩きつけられた。
 栄光を求めるオークたちは、新たな戦いに向けて、狂気の中で燃え上がっていた。
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