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第4話
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ボスの右腕を自負する男、ショーン・ブリッジスは二階席にいた。左手には愛用のウィンチェスターライフルを抱えている。手すりの後ろで屈み、右側面の装填口から一発ずつ弾丸を込める。最大まで装填し、騎兵刀の護拳鍔のように引き金を覆ったレバーを引き下ろす。内部機構が噛み合う小気味良い作動音がしたところで戻した。これで弾倉から薬室へ、弾丸が一個送られた状態。いつでも撃てる。その上でさらに、一発分空いた弾倉へ弾丸を込め直した。
値の張ったスーツにしわが寄るのも構わず、手すりから身を乗り出す。構えながら叫んだ。
「テメエら無駄弾バラまくんじゃねえ、見えねえだろが!」
銃床を右肩につけ、煙の向こう、敵の隠れた方へと銃口を向ける。やがて煙が薄れ、赤い人影がおぼろげにのぞいた。
本来なら頭を撃ち抜いて決めたいところだったが。煙の中では不確実だったし、外せば何をしてくるか分からない。煙が引く前に胴体を狙ってケリをつける。そう考え、人影の中心を狙って引き金を引いた。
乾いた発砲音と同時、赤い人影は大きく揺らぐ、だが。相手は倒れる様子もなく、そこに立っていた。
当たり所が悪かったのか。そう考えてさらにレバーを下ろし、引き金を引く。同じ動作でもう一発撃つ。それでも相手は倒れなかった。
煙が引く。サンタクロースはそこにいた。盾にするものもなくただ立っていた。くわえた細巻の先から白く煙を昇らせて。
「ふん……!」
サンタクロースは腰の前に両手を下ろし、拳を握る。みちり、と服の生地が裂けかける音を立てて、腕の、胴の、脚の筋肉が膨れる。そして、小さな音を立てて。胸と腹から、三発の鉛玉がこぼれ落ちた。
ショーンはライフルを構えたまま口を開けていた。
「な……あ……?」
弾丸の跡だろう、サンタクロースの服には三箇所小さく穴が開いている。その中には鈍く光るものが見えた。縦横に編まれたワイヤーと細い鎖。防弾のための細工らしかったが、それにしても。弾丸の貫通はともかく、衝撃までは防げるわけがないのに。
サンタクロースは苦しむ様子もなく、おもむろに散弾銃の上部、小さなレバーを横へずらす。銃身が根元から三十度ほど折れ、中の空薬莢が飛び出した。銃帯から取り出した弾丸二発を、そこへ新たに込め直す。金属の噛みあう音を立て、銃身を戻しながら口を開く。
「なあおい。俺のこの服、なんで赤いか分かるだろ? てめぇらみてぇな、小悪党の返り血よ。そう……俺の血なんかじゃねえんだよ」
顔を引きつらせながらも、ショーンは再びライフルを構えた。今度は額へと狙いをつける。しかしショーンは見ていなかった、サンタクロースが足元の袋、かついできた大袋に片手を伸ばしたのを。
引き金を引く。が、外しようのない距離で撃ったはずの弾丸は、甲高い音と共に弾かれていた。サンタクロースが袋から取り出し掲げた、わずかな反りを持つ片刃刀の横腹に。昔の戦で使われた海軍刀にも似ていたが、これはまるで斧のように分厚かった。
サンタクロースは煙を吹き出す。
「全く、楽でしょうがねぇよ。どこ狙ってくるか分かるんならな」
サンタクロースがこちらへ銃を向けるのが見えた。一瞬後、轟音と共に腹へ胸へあごへ前歯へ舌へ、砂利粒ほどの散弾がめり込む。よろめき、手すりにすがろうとして、一階へと落ちた。頭から。
ショーン・ブリッジスは生まれて初めて、自分の背中をその目で見た。スーツの背に染みがあるのに気づき、舌打ちしようとして。曲がり切った首のまま、その暇もなくこと切れた。
「ハッハー!」
ご機嫌な声を上げて、サンタクロースはテーブルを跳び越える。
男たちは椅子を蹴倒し銃を取り落とし、先を争って奥へ引く。逃げ遅れた間抜けの頭がクルミのように堅い音を立てて、海軍刀に叩き割られた。
銃を向ける男もいたが、散弾銃の一撃に二人がまとめて打ち倒される。その横にいた一人が銃を突き出すが、筒先が震えるばかりでいっこうに狙いの定まる様子はなかった。
散弾銃を捨てて踏み込み、サンタはその手から銃をもぎ取る。
「なっちゃいねえな、教えてやるぜ。こう使うのよ!」
銃身を握り締めたまま、片足を浮かして振りかぶる。銃把の底を、頭へ目がけ叩きつけた。
歯を折り飛ばされながら男は倒れる。その首を踏み砕き、サンタはさらに奥へと跳んだ。悲鳴を上げて後ずさる、別の男の襟首をつかむ。首を締め上げながら片手で軽々と持ち上げた。顔を寄せて言う。
「なあ旦那。変だな、せっかくのイヴだってぇのに、皆なんで邪険にするんだい。おかしいったらねえぜ、なあ?」
男は足をばたつかせながら小刻みにうなずく。手にした銃の先を密かに向けようとした、が。
サンタクロースは勢いをつけ、男の体を大きく浮かせた。そのまま肩へかつぎ上げる。そしていったん手を離し、今度は片方の足首を握った。
「パーティだ……せっかくだからよ。踊ろうぜ!」
一度腰を落とし、跳ね上げる勢いをつけて。男の体を片手で、横殴りに振り回した。風を切る音を立て、男の体はテーブルを酒瓶を料理の皿を椅子を仲間をまとめて吹っ飛ばす。一度振り切ると、今度は逆へと振り回す。それが終われば次は縦に、斜めに、また横に。
悲鳴を上げながら逃げ惑う、男たちへサンタが言った。
「ヘイ、どうした野郎ども。シャイになんなよ踊ろうぜ! 来いよ、野郎ども、来い! 引っ込んでんじゃねぇぞもしもし、カモン! ハロー・ハロー・ハロー・ハロー・ハロー・ハロー・ハロー・ハロー・ハロー・ハロー!」
床に、柱に、男たちに、壁に。雑巾でも振るうように軽々と、次に次にと叩きつける。空いた片方の手で銃を二階へ撃ちながら。何個目かの机を叩き割ったとき、すでに男の頭からは柔らかいものが飛び散っていた。
値の張ったスーツにしわが寄るのも構わず、手すりから身を乗り出す。構えながら叫んだ。
「テメエら無駄弾バラまくんじゃねえ、見えねえだろが!」
銃床を右肩につけ、煙の向こう、敵の隠れた方へと銃口を向ける。やがて煙が薄れ、赤い人影がおぼろげにのぞいた。
本来なら頭を撃ち抜いて決めたいところだったが。煙の中では不確実だったし、外せば何をしてくるか分からない。煙が引く前に胴体を狙ってケリをつける。そう考え、人影の中心を狙って引き金を引いた。
乾いた発砲音と同時、赤い人影は大きく揺らぐ、だが。相手は倒れる様子もなく、そこに立っていた。
当たり所が悪かったのか。そう考えてさらにレバーを下ろし、引き金を引く。同じ動作でもう一発撃つ。それでも相手は倒れなかった。
煙が引く。サンタクロースはそこにいた。盾にするものもなくただ立っていた。くわえた細巻の先から白く煙を昇らせて。
「ふん……!」
サンタクロースは腰の前に両手を下ろし、拳を握る。みちり、と服の生地が裂けかける音を立てて、腕の、胴の、脚の筋肉が膨れる。そして、小さな音を立てて。胸と腹から、三発の鉛玉がこぼれ落ちた。
ショーンはライフルを構えたまま口を開けていた。
「な……あ……?」
弾丸の跡だろう、サンタクロースの服には三箇所小さく穴が開いている。その中には鈍く光るものが見えた。縦横に編まれたワイヤーと細い鎖。防弾のための細工らしかったが、それにしても。弾丸の貫通はともかく、衝撃までは防げるわけがないのに。
サンタクロースは苦しむ様子もなく、おもむろに散弾銃の上部、小さなレバーを横へずらす。銃身が根元から三十度ほど折れ、中の空薬莢が飛び出した。銃帯から取り出した弾丸二発を、そこへ新たに込め直す。金属の噛みあう音を立て、銃身を戻しながら口を開く。
「なあおい。俺のこの服、なんで赤いか分かるだろ? てめぇらみてぇな、小悪党の返り血よ。そう……俺の血なんかじゃねえんだよ」
顔を引きつらせながらも、ショーンは再びライフルを構えた。今度は額へと狙いをつける。しかしショーンは見ていなかった、サンタクロースが足元の袋、かついできた大袋に片手を伸ばしたのを。
引き金を引く。が、外しようのない距離で撃ったはずの弾丸は、甲高い音と共に弾かれていた。サンタクロースが袋から取り出し掲げた、わずかな反りを持つ片刃刀の横腹に。昔の戦で使われた海軍刀にも似ていたが、これはまるで斧のように分厚かった。
サンタクロースは煙を吹き出す。
「全く、楽でしょうがねぇよ。どこ狙ってくるか分かるんならな」
サンタクロースがこちらへ銃を向けるのが見えた。一瞬後、轟音と共に腹へ胸へあごへ前歯へ舌へ、砂利粒ほどの散弾がめり込む。よろめき、手すりにすがろうとして、一階へと落ちた。頭から。
ショーン・ブリッジスは生まれて初めて、自分の背中をその目で見た。スーツの背に染みがあるのに気づき、舌打ちしようとして。曲がり切った首のまま、その暇もなくこと切れた。
「ハッハー!」
ご機嫌な声を上げて、サンタクロースはテーブルを跳び越える。
男たちは椅子を蹴倒し銃を取り落とし、先を争って奥へ引く。逃げ遅れた間抜けの頭がクルミのように堅い音を立てて、海軍刀に叩き割られた。
銃を向ける男もいたが、散弾銃の一撃に二人がまとめて打ち倒される。その横にいた一人が銃を突き出すが、筒先が震えるばかりでいっこうに狙いの定まる様子はなかった。
散弾銃を捨てて踏み込み、サンタはその手から銃をもぎ取る。
「なっちゃいねえな、教えてやるぜ。こう使うのよ!」
銃身を握り締めたまま、片足を浮かして振りかぶる。銃把の底を、頭へ目がけ叩きつけた。
歯を折り飛ばされながら男は倒れる。その首を踏み砕き、サンタはさらに奥へと跳んだ。悲鳴を上げて後ずさる、別の男の襟首をつかむ。首を締め上げながら片手で軽々と持ち上げた。顔を寄せて言う。
「なあ旦那。変だな、せっかくのイヴだってぇのに、皆なんで邪険にするんだい。おかしいったらねえぜ、なあ?」
男は足をばたつかせながら小刻みにうなずく。手にした銃の先を密かに向けようとした、が。
サンタクロースは勢いをつけ、男の体を大きく浮かせた。そのまま肩へかつぎ上げる。そしていったん手を離し、今度は片方の足首を握った。
「パーティだ……せっかくだからよ。踊ろうぜ!」
一度腰を落とし、跳ね上げる勢いをつけて。男の体を片手で、横殴りに振り回した。風を切る音を立て、男の体はテーブルを酒瓶を料理の皿を椅子を仲間をまとめて吹っ飛ばす。一度振り切ると、今度は逆へと振り回す。それが終われば次は縦に、斜めに、また横に。
悲鳴を上げながら逃げ惑う、男たちへサンタが言った。
「ヘイ、どうした野郎ども。シャイになんなよ踊ろうぜ! 来いよ、野郎ども、来い! 引っ込んでんじゃねぇぞもしもし、カモン! ハロー・ハロー・ハロー・ハロー・ハロー・ハロー・ハロー・ハロー・ハロー・ハロー!」
床に、柱に、男たちに、壁に。雑巾でも振るうように軽々と、次に次にと叩きつける。空いた片方の手で銃を二階へ撃ちながら。何個目かの机を叩き割ったとき、すでに男の頭からは柔らかいものが飛び散っていた。
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