喪失迷宮の続きを

木下望太郎

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エピローグ  積もる話を

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 残り火のような西の空も、くすぶるようにその色を失っていく。その空を背にアレシアはいた。
 切り離された龍の一部は、斬り落とされた手と手をつないで。ただウォレスを見ていた。懐かしい、薄闇の色をした目で。

 ウォレスは立ち止まり、黙ってその目を見返した。その目の中に映る自らを。そのウォレスに表情はなく、薄闇にただ立っていた。

 アレシアが目を閉じる。そうして、かぶりを振った。ため息の後で口を開く。
「苦手だね。言ったっけね、一人はさ。……君はさ、どう」
 ウォレスは何も言わなかった。手にした瓶に重みを感じ始めた頃、アレシアが薄く微笑んだ。再び息をつきながら。

 どれほどそのままでいたか。ウォレスもまた息をついた。
「呑むかい」
 酒瓶を掲げると、アレシアはいっそう微笑む。




 迷宮のあった荒野のその先、黒い夜を切り取るように、わずかにいた火を挟んで。かわるがわるに瓶を取り、口へと運ぶ。
 時折ウォレスは小さな物を指で弾き、落ちてくるそれを口で受け止め。硬い音を立てて噛み砕き、飲み下す。
 アレシアは喉を鳴らして笑う。
「美味しいの? そんなの」

 ウォレスが手にしていたのは、斬り落とされたアレシアの片腕。その中へ手を突っ込んでは、中の小石をつまみ出す。そうしてまた放り上げ、口で受けては噛み砕く。
 ウォレスは鼻息をこぼした。
「全然。ただ、龍が俺を喰おうとしたなら。俺も龍を喰おうと思ってね」
 そうしたら俺も、迷宮になれるだろうか――龍ではなく、俺が知る迷宮に――。変わらないものに。あるいはあの日に。

 かぶりを振る。ウォレスは肩を揺すって笑う。
 アレシアは息をついた後、にんまりと微笑んだ。

 灯りの届く辺りの先は、寝ぼけたような薄闇ではなく、塗りたくったようにただ黒く。
 夜はまだ明けない。明けなくてもいい。迷宮よ、呑もう。それから、積もる話をしよう。


(了)


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