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第11話  プレゼント

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 その日は僕の誕生日だ。そう言ったら、彼が食事に誘ってくれた。

 ありがたくその申し出を受け、彼についてやってきた。うどん屋に。
 そして彼は誕生日プレゼントをくれた。かきあげと、エビ天。

 僕ら男子はクールな関係を重んじる。なので女子みたいにベタベタと、誕生日プレゼントを贈り合ったりはしない。せいぜいジュースおごってくれるとか、たまたまその日買ってた週刊漫画をくれるとか――贈り主が読み終わった後に――だ。

 ちゃんとしたものがあった方が嬉しいんですけど、僕は。

 いや、見方を変えよう。プレゼントの基本は消え物――お菓子とかバスボムとか、消費してなくなるもの――だと、雑誌で読んだことがある。
 彼はそれを押さえているのだ。さすがだ。
 そういうことにしておこう。


「まあまあだったな」

 僕が彼からのプレゼントを何度も噛み締め味わっていたとき。彼は不意にそう言った。
 僕が口を動かしたまま目を瞬かせていると、彼は続けた。
「今日の試合」

 今日は休日だったが、午前中に部活があった。他校へ出向いての合同練習と練習試合。
 最後に行なった団体戦、先鋒せんぽう――試合の順番、一番手――の僕がどうにか勝ちをもぎ取り、中堅――三番手、ここに強い選手を持ってくることはよくある戦略だ――の彼が当然のように勝った。他三人が負けたので、結果としては我が校の負けだが。

 まあまあというのが彼の相手に対する評か、僕の試合を言っているのか。それとも部全体のことか。分からないまま僕はかきあげを飲み込む。

 僕のことなら嬉しいが――それでも『まあまあ』だ――、そうでなかったらと思うと少し怖くて。僕は黙ったままでいた。

 その話はそこで終わったらしく、彼は水を飲んでから言う。
「しっかし、あれだ。まだ探してンだけど、全ッ然いいのがなくてよ」
「え?」
「ほら、前探しに行ったろ。和柄の服とかだよ」

 そんなことがあった。そういえばあのときもうどんを食べていた。
 あの日買った服はどうやら、まだ彼の家にあるようで。たまに着ているのを見かける。さすがに上下ともあれではなく、片方だけとか、和柄Tシャツを着て別の上着を羽織るとかだが。
 そういうときに限って僕を見つけて近寄ってくるのは、正直やめてほしい。

 通販で探したら、と話を向けたが、彼は首を横に振った。
 道着の跡が青く残る、腕をさすりながら言う。
「肌触りがなー、変だったら嫌だろ」

 そんなデリケートな奴だったっけ、お前。
 そう考えながらも、不意に思いついて。僕は密かにほくそ笑んだ――そうだ。あれがあった。あれを使わせてもらえば、きっと――。

 鼻息を長く吹いた後に言う。いかにも仕方なさそうに。
「しょうがないなあ……じゃあさ、何かいいのあったら、あげるよ。誕生日にでもさ」

 秋口にある彼の誕生日――全く似合わないことに乙女座だ――には、まだ日がある。
 そのときにはプレゼントできるはずだ。今日から準備し始めれば、きっと。

「いや、いいよ、悪ィし」

 そういう彼に向かって、僕は何度も首を横に振って見せる。満面の笑みを浮かべそうになるのを、どうにかこらえながら。
「いいから、気にしないでいいから。もしいいのがあったら、だよ」

「そうか? まあ、ありがと」
 彼は水を飲み干し、席を立った。
「じゃ、オレももう一つプレゼントやるよ。ジュースおごってやる」

 僕は彼からのエビ天を噛み締め、飲み込んで立ち上がった。

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