かもす仏議の四天王  ~崇春坊・怪仏退治~

木下望太郎

文字の大きさ
上 下
84 / 134
三ノ巻  たどる双路の怪仏探し

三ノ巻16話  夕日の下で

しおりを挟む
 結局そのまま鈴下と一緒に、見守り活動を手伝うことになった。
 校門の方では会長が、ジャージ姿で植木バサミを手に植え込みと格闘している。意外に慣れた手つきで、作業のかたわらには道行く生徒らに気をつけて帰るよう声をかけたりもしている。

 見守り活動の合間に、鈴下は執拗に賀来に話しかけ、恋愛について聞いてきた。
 その話題を適当に流していた賀来だったが、いつの間にかぽつぽつと、かいつまんで話し出した。

 鈴下の有無を言わさぬ聞き方に、話してしまうのも分かるが。お願いだから、少し離れたところにいる斉藤――ずっと無言、無表情でいる、ある意味いつものとおりではあるが――の気持ちも考えてあげてほしい。
 そして、斉藤の横にいるかすみの気持ちも。本当に。

「うう~ん、なるほど……」
 大まかなところを聞き終えた鈴下はペンを走らせる手を止め、何度かうなずいた。

 視線を泳がせながら賀来は言う。
「あ~~、と、まあそんな感じなのだが……先輩は、何かアドバイスとか。せっかくだし」

「え? ああ――」
 鈴下は目を瞬かせた後、ぽん、と賀来の肩を叩く。
「――がんばれよ」
「一言!?」
 賀来が声を上げると、鈴下は眉をひそめた。
「いや、別に。話を聞くとは言いましたが、生徒会として恋愛相談まで受けるわけでは」

 だったら何で聞いたんだ。かすみは横でそう思った。取材だの何だのとは、そういえば言っていたが。
 そこまで考えて、ふと思いつく。男子という黒幕の条件からは外れるが。鈴下も他人の悩みを聞いている――本当に聞いているだけだが――。
 あるいは、黒幕ではないにせよ。その協力者、という可能性はないか? 悩みを持つ人間を探し、黒幕に報告するといったような。だとしたら今後も何度か接触してくるはず、そして最終的には黒幕を連れてくる。

 かすみは二人の方に行き、口を挟んだ。
「そうだ、先輩。これからも何度か、相談に乗っていただいても――」

 メモを繰りながら鈴下は言う。
「いえ。そんなに面白いネタでもなかったんで、結構です」

「結構、って……」
「面白……」
 かすみと賀来がそれぞれに絶句していたとき。

「ウス」
 斉藤が鈴下と、二人の間に巨体を割り込ませる。かばうように。
「先輩……オレら、手伝ったんで。そろそろ、帰ります……ウス」
 かすみからは大きな背が見えるばかりで、表情はうかがい知れない。

 鈴下が口を開け、目を瞬かせる。慌てたようにメモとペンをしまい、頭を下げた。
「あ~、申し訳ない。すいませんほんと、デリカシーがなくて。取材となるといっつもこうで」
 髪のもつれる頭をわしゃわしゃとかく。

 そのとき。
「いやー、やったよ皆! 会長頑張ったよほんと!」
 赤く染まった空の下。植木バサミを片手に、髪やジャージに葉っぱをまとわりつかせた会長が、手を振りながら走ってくる。
 袖で汗を拭ってから言った。
「ほら、見てくれこの成果!」
 校門へと続く道沿いに植わっていた背の低い植え込みはそれぞれ、接地面付近を刈り込まれていた。全体としては丸い形に整えられており、植え込みとして不自然な形ではない。

 かすみは言う。
「すごい……よくこんなにできましたね、この短時間に」

 会長は拳を握って言う。
「ああ、これが俺の力……いや、斑野高校生徒会長の力だ……! さて」
 手を一つ叩く。
「後は、皆で掃除するだけだ!」

 よく見れば。刈った後の枝葉は、辺りの道に散らばったままだった。

 鈴下が息をつく。
「会長……片づけ終わるまでがボランティア活動、いつもそう言ってましたよね」
 ごまかすように会長は笑う。
「ま、まあそうだけど! 皆でやろうよ、そうだジュース、ジュース買ってくるから!」

 会長が走り去るのを見た後で、斉藤がかすみたちの方を振り向く。
「ウス……どうする、スか」
「まあ、ここで帰るのもちょっと……手伝いましょうか」




 掃除自体は手早く終わり、会長がジュースの缶を辺りに――靴箱前のコンクリートの地面に――並べる。
 その横に座り込み、全員に紙コップを渡して会長は言う。
「さあ、どうぞ好きなものを。お礼の気持ちだ、会長自らおしゃくさせてくれたまえ」

 並んだ缶――粒入りオレンジ、ナタデココとぶどうの粒入り、アロエとぶどうの粒入り、ナタデココ入り乳酸菌飲料――を眺めて鈴下はため息をついた。
「自分一人の好みを押しつけるのはやめて下さい。会長は粒入りジュースが大好きでも、粒入りジュースは会長のことを忌み嫌っているんですよ」
「論点すり替わってない!? 君につぶつぶジュースの何が分かるんだ……まあとにかく、皆遠慮しないで」

 それぞれが選んだジュースを、会長が紙コップに注いでいく。会長自身は慎重にナタデココとぶどう、粒入りオレンジを七対三の割合で注ぎ、わざわざ持ってきていたスプーンでかき混ぜた。
 鈴下は息をつく。
「『シオンカクテル』……いつものやつですね」
「ああ。君はこれだったね、いつもの」
 粒入りのおしるこ缶を手渡す。
「ええ。これの冷た~いのが美味しいんですよ」
 鈴下は普通に口をつけ、何口か飲んで満足げにうなずいた。

 かすみたちもそれぞれジュースを口にする。
そしてふと、かすみは思った。
 こちらに全く収穫はなかったけれど。崇春たちはどうしているのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...