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三ノ巻  たどる双路の怪仏探し

三ノ巻2話  二人除いて宴もたけなわ(前編)

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 とにかく口の中のものを――皿に山盛りになっていた分も――食べ終えた後。
 かすみはいったん考えるのをやめ――正気でいるのがつらすぎる――、普通にパーティに参加していた。
 ジュースを飲み、テーブルの上のポテトサラダを――崇春が異常に買い込んだジャガイモを、かすみや百見と調理したものだ――、義務感から口にする。
 他にもいくつかテーブルには料理が並んでいたが。一つだけ妙なものがあった。

 食べ物ではなかった、飲み物でも。なぜか場違いに、花があった。
テーブルを飾るにしてはそっけなく、百均で買ったような質素な花瓶に、一種類だけの花が。仏様を描いた画で見るような、はすの花が何本か活けられていた。
 仏法者である崇春や百見が、仏花というか供え物として用意したのだろうか。それにしては供える対象――仏像なり仏画なり――が見当たらないが。

 思っていると、横から袋が差し出された。コンビニの小さなビニール袋。鮮やかな色のマカロンが入っているのが見えた。

「食べるか?」
 言ってきたのは賀来だった。彼女が差し入れに買ってきたのだろう。

 かすみは首を横に振る。無理に肉と野菜を詰め込んだせいで、もうお腹一杯だった。

「そうか、我はいただくぞ」
 賀来は中から一つを取って、袋はテーブルに置いた。

 賀来は両手でマカロンをつまみ、小さな唇へと運ぶ。開かれた口、そこからのぞく並びの良い歯が、マカロンを小さくかじる。これもまたリスを思わせる動作ではあったが。どうも、かすみのそれとは違うようだ。
 もくもく、と口を動かすうち。その目が、とろけるように細められた。

 かすみはなんだかため息をついた。もう何度目かは分からないが。
 それでも賀来を眺めながら、顔は妙に緩む。
「ほんと可愛いですね、賀来さんは」
「え?」
 瞬きする賀来から目をそらし、続けて言った。
「や、その。……可愛いです、マカロン食べてるとき」

 苦しまぎれに――あるいはほんのわずかな、悔しさをまぎらわせるために――、そう言った。
 実際、賀来の造作は本当に良かった。人形のよう、という言葉がぴったりだった。彼女独自のファッション――ゴシックロリータとゴシックパンク、足して二で割ったそれらに手作り感と、家庭科の授業で作ってみました感をかけ算したもの――が、だいぶ印象を差し引いてはいるが。

 賀来が鼻から息をこぼし、マカロンを持ったまま身を折り曲げる。その背中が小刻みに震えた。
「そこだけぇ!? 嬉しくないなそれ……ほめられてるのに嬉しくないぞ! 何だこれ!」

 やがて顔を上げ、目の端を拭って言う。
「そうだな……だったら私、我は。マカロン食べながら告白することにしようぞ。――こうか?」

 マカロンの端を小さくかじり、わずかに首をかしげてみせる。上目づかいにかすみの顔をのぞき込んだ。そのまま、こちらの目の奥まで見通すような眼差しでささやいた。
「ね。なってよ、私の……私だけの、恋人に」

 かすみは小さく息を呑む。つばも、少し。
 ――これはもう、ちょっと。小憎こにくらしいぐらい可愛かった。

 自分の頬がとろけかけるのを感じて、同時。そのままの形で、顔全体がひどく引きつる。

 賀来は大きく歯を見せて笑った。
「なんてな、なーんてな! さすがは我が魅了チャームの魔力よ、同性まで愛の虜囚りょしゅうにしてしまうところであったな! 我がことながら怖ろしい力よ」
 ばしばしとかすみをはたいた後、大きく口を開けてマカロンの残りを一口に食べる。

 もしゃもしゃと噛んで飲み込んだ後、賀来は顔を伏せて言う。
「でもなー、そうだなーそもそも我には関係のないことだったかなー? 告白なんて、な」
 手で片方の頬を覆い、そちら向きに首をかしげて。照れたように、目をつむって続けた。上半身を左右にくるくると、振り回すように動かしながら。
「何せ我は……その、ほら、告白とか、するんじゃなくてー、される? された? 方だし? つい先日」

「え……?」
 かすみは目を瞬かせたが。
「あ」
 すぐに思い当たった。

 つい先日の怪仏事件――かすみが崇春と出会ったときの、地蔵の姿をした怪仏――のことだ。怪仏の正体と目された賀来に、事件を止めるよう説得したとき。なんだか崇春が口説き落としているかのような流れになり、賀来はその流れのままに――ちょろいことに――止めることを承諾したのだった。
 付きうてもらうぞ――交際ではなく、放課後に同行してもらうという意味だったが――、などといった言葉も崇春から出ていたが。

 その後あれは、どういう扱いになったのだろう? 


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