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二ノ巻 闇に響くは修羅天剣
二ノ巻5話(前編) (不必要な)真剣勝負
しおりを挟む道場の真ん中――なぜか剣道場ではなく柔道場の畳の上――で、百見が声を上げた。
「それでは、『剣道場革命団体・マスクド・ブドー』所属、マスクド・スシュン対、斑野高校剣道部所属、黒田達己……両者の試合に先立ちまして、ルールを説明いたします」
畳の上で距離を置いて向かい合うのは、崇春――結局覆面はかぶっていない、というかもう全員覆面は取った――と、紺色の剣道着に着替えた黒田――面などの防具は身につけておらず、耳にかかるぐらいの真ん中で分けた黒髪をさらしている――。
お互いの手には竹刀ではなく、竹刀より短い程度のブラシぼうきが握られている。その持ち手以外の全体には、安全のためか布が分厚く巻きつけられていた。ほうきの先端部分も同様に巻き込まれ、棒状に真っ直ぐになる形で畳まれている。
あれからとりあえず入口を開け、剣道部員らに中へ入ってもらった上で、この勝負が始まったのだった。かすみや他の部員たちは場外の畳の上で座っている。
「時間無制限一本勝負。試合場は道場全域、場外は無し。例外として、道場の外へ逃走した場合のみ反則負けとします。武器は今手にしてもらっているそれ。そして――」
息を吸い込んだ後続けた。
「――本試合については真剣勝負。剣道ルールで指定されている打突箇所に限らず、身体のいずれかに有効打が入った時点で決着とします。ただし安全面を考慮し、眼球及び金的への攻撃は禁止。行なった場合は反則負けとします。質問は」
崇春はほうきを杖のようにつき、声を上げる。
「ないわい。さあ、かかってこんかい!」
黒田はほうきを左手に提げ、崇春を見据えたまま小さく礼をした。その細い目と眉は――地顔なのか――どこか困ったように垂れ下がっていたが。その視線は闘志を感じさせて真っ直ぐだった。
「お願いします!」
百見はうなずき、再び声を上げた。
「真剣勝負につき、礼は省略。……それでは一本勝負、始め!」
「やああ!」
気合いの声を上げる黒田は右足を半歩前に出し、武器を中段に構えていた。いかにも剣道らしい構え。
一方、崇春は両手を広く離して武器を握る。刃物ではなく棍棒を持つような構え。
「面っ!」
黒田が踏み込み、崇春の頭へ武器を振り下ろす。
「なんの!」
崇春は大きく横へかわす。
そこへさらに黒田が次々と武器を振るう。面、小手、胴。使い慣れた技で戦うという判断か、いずれも剣道のルールに則った攻撃。
崇春はあるいは身を引き、あるいは武器を構えて受けていたが。
不意に、武器を手放した。
「なにっ……」
黒田がつぶやく間にも崇春は踏み込む。組みついて相手の腰を両腕で抱え、引っこ抜くように持ち上げた。
「どっせええぇい!」
そのまま畳の上へ、背中から投げ落とす。
「ぶ……!」
黒田が息を詰まらせ、動きを止めたところで。
崇春はおもむろに武器を拾うと、横たわる黒田の喉元へと突きつけた。
「どうじゃい。勝負、あったの」
百見は崇春の方へ片手を上げる。
「一本! 勝者、マスクド・スシュン!」
「よっしゃああ!」
崇春は拳を握って快哉を上げた。
が、同時に剣道部員から声が上がる。
「えええ!?」
「ちょ、有りか今の!」
「いや、でもルール的には……」
百見が彼らの方へ向き直り、口を開きかけたそのとき。
「勝負あり。それ以外ねェだろが」
道場の入口で鋭く声を上げたのは。黒革の細長い袋――竹刀が入っているのか――をかついだ平坂円次だった。着替えてはおらず制服のままだ。
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