かもす仏議の四天王  ~崇春坊・怪仏退治~

木下望太郎

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二ノ巻  闇に響くは修羅天剣

二ノ巻2話(前編)  剣士邂逅(かいこう)

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 ――そして今。崇春は再び闇の奥、茂みの向こうへ声をかけた。

「頼もう。誰ぞおるなら――」

 言葉が全て終わる前に。茂みは向こうからかき分けられた、いや――切り開かれた、言葉どおりに切って開かれた。横一文字、何か棒の――あるいは剣の――ような物の、一薙ひとなぎで。
 そしてその剣尖けんせんは、そのまま崇春へと向かっていた。

「むう!?」
 慌てて身をのけぞらせた、崇春の目の前でそれは止まる。まるでそこだけ時が止まったように、いささかの揺れもなく、ひたり、と。
その後ろでは、切り裂かれた枝葉が宙に舞っていた。

 開かれた茂みの先には。男がいた。剣道着か、はかま姿の男。
 かすみらと同年代か。枯れ草のように荒く波打つ、肩ほどまでの長髪の男。その男が、横へ振り抜いた木刀を片手にそこにいた。
見れば、左手は左腰で、帯に差したさやの端――刀身を納める、いわば口の部分の辺り――を手にしていた。鞘は黒く、プラスチックでできた薄いもののようだ。

居合や抜刀術というやつだろうか――と、かすみは考えた――時代小説や漫画では見たこともあるが。それにしても、木刀でできるものなのか。茂みを斬り裂くほどに。

男は鋭い目を崇春に向け、低く声を上げた。
「へェ……当てる気はなかったが、それにしても。オレの剣に反応できるとはよ。やるね、アンタ」

薄い月明かりの下、木刀を左の額へ掲げる。刀についた血を払うかのように、斜め下へ振った。流れるような動作で腰の鞘へと納める。
男はつかから手を離す。構えるでもなく両腕を垂らし、背を伸ばした。
なのに――かすみでも見て解るほどに――構えを取っているかのように、一分いちぶすきもその身になかった。もしも今殴りかかれば――あるいは、殴ろうと思った瞬間にさえ――、斬って捨てられるのではないか、そんな気さえした。

 崇春が胸を叩いて――一応音を立てないためか、錫杖しゃくじょうは置いてきていた――言う。
「おうよ、多少目立つほどにはのう。さて……今一度聞くが、おんしゃあ怪仏か。ここで何をしておった」

 男は小さく口を開けた。
「……は? 怪物? 何言ってンだ……オレぁここで、素振りをよ」
 腰の木刀を叩いてみせる。

 後ろから百見が声を上げる。男の向こう、斬り倒された木に目を向けながら。
「失礼だが。その木、君が?」

 男は後ろを振り向く。横たわる木と、その前に転がる折れた竹刀。それらを見つめる。
「……さあな」
 それだけ言って竹刀を拾い、歩き出す。崇春らの脇をよけて、石段の方へと。

「待てい。わしは崇春すしゅん斑野まだらの高校の丸藤崇春まるとうすしゅん。……おんしは」

 背を向けたまま、男が歩みを止める。
「……平坂、円次えんじ。同じ学校だ。……っつか、オマエ」
 かすみの背後へ隠れるように縮こまった、賀来に目を向けて言う。
「隣の部、斉藤逸人そるとか、あいつのダチだろ。何しに来た」

 え、と賀来がつぶやく間に。円次と名乗った男は石段へと去った。
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