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Day3 成沢の不在
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――撮影Day3
夢見が悪かったので、本調子ではないままスタジオに向かう。
マネージャーの成沢不在を知らされたのは、メイクも終わった後。ルーティンのために『精神統一が必要』と、代理で来たマネージャーを追い出す。小箱を握りしめ大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせて瑠花を閉じ込め鍵をかけて鏡を見て「LUCA」だと確認する。
「LUCA待っていたよ。締め出すなんて酷いよ。」
緊張感の走る現場で、にやにやと近付いてくる成沢代理のマネージャーから黒いどろどろが溢れているのが見えて気分が悪くなる。
「ストップ!成沢代理の君はステイ!LUCAチャンに近づかないで!」
スカーレットが走って駆け寄ってくる。
「LUCAチャン?体に触るけど平気?医務室に行こう。顔色悪すぎだよ?昨日ちゃんと眠れたの?」
胡散臭い日本語が消えてしまうくらいは彼も動揺しているらしい。
「ごめんなさ……お願い。」
自力出歩くのは無理で、スカーレットに頼るしか出来なかった。とはいえ、お姫様抱っこされた途端に頼ったことを後悔した。
「カメラの無い時にそんな顔は狡いよ。はー、本気で墜ちちゃうよこんなの……」
「落とさないでよ。」
「くっそ!こんな成りで天然……見せるわけ無い。成沢の気持ちが分かりすぎる。」
何かぶつぶついいながら、頭からタオルを被せられ、外の様子は殆ど見えなくなる。
家族と成沢以外に触れられて嫌な感じを持たないのは初めてだった。連れていかれた医務室には、垂れ目のふんわりした中性的な加納先生は優しいグリーンを纏っていてホッとした。医者でもどろどろの黒を纏う人は多いので、診てもらう先生は限定していた。ここの医務室は初めてだけど安心できる先生が居たことにホッと心を緩ませた。
付き添いだと譲らないスカーレットが、診察に同席する。服を脱いだりするような診察はないものの、ずっと食い入るように見つめられて居心地が悪い。
「スカーレットさん?LUCAさんが落ち着いて診察ができないので退室してもらいます。」
先生はそういい、ドアの外にスカーレットを放り出した。細腕であの大きな男を追い出せる手腕にポカーンとする。
「LUCAさんこちらにどうぞ。疚しいことはしないと誓います。不安なら、ボイスレコーダー等を動かしていただいても大丈夫ですよ。」
診察室奥の扉を開け、小ぢんまりしたテーブルセットの椅子をすすめられる。嫌な感じはしないので、黙って促されるままに座る。
部屋に入った先生は、診察室のドアにスカーレットが張り付いている気配がしたので、安心して話せないだろうと話が外に漏れにくい部屋を選んでくれた事を話してくれた。本来は鍵を閉めると防音ですが、LUCAさんは嫌でしょう?と先生は、優しい眼差しで向かい側の椅子に腰かけた。
「LUCAさんは、人とは違うものが見えたり、聞こえたりするのではありませんか?……嫌なら答えなくても良いのですが、その事で悩んでいるなら相談に乗れるかもと思ったのです。」
「見えます。……黒いどろどろ、近いと……密室だとだめで……小さい頃に兄と私で男にカメラで写真……瑠花だとだめでLUCAにならないと。黒いどろどろの見える男も女も気持ち悪くて……」
紡ぐ言葉は切れ切れだけど、先生は黙って頷きながら聞いてくれた。
「僕はどうでしょう?」
「先生は大丈夫。綺麗なグリーン……安心。」
「だから話してくれるんですね。LUCAさんの持つそれは、あなたを守ってくれる素敵な力ですね。」
「ただ、不安な気持ちが強くなりすぎると作用しすぎるように見えます。不安が大きくなった時のお薬は今まで飲んだことがありますか?」
首を横に振る。心療内科の類いは、活動の妨げやイメージダウンに繋がると事務所が許可してくれなかったから、診察も内服もしたことはなかった。
「では、少しだけ渡しておきますね。とりあえず今一錠、舌の下に入れてゆっくり溶かします。一日三回までは使えますが、そんなに使うほどになったら病院の方がいいでしょう。私のパートナーが勤めている心療内科も紹介できますよ?」
病院のパンフレットと手紙を添えてくれた。舌下でゆっくりと溶ける薬を、何故か懐かしいと感じて首をかしげた。
「LUCAさん、もう大丈夫。成沢さんは明日も来れないみたいですけど、貴方なら大丈夫お薬も飲みましたからね。自分で思うように動けるはずですよ。さぁゆっくり立ち上がってみてください。」
小さな扉から診察室の光を見たときに、凄く高揚した気分になった。落ち着く薬を飲んだのに変な感じ。私はLUCA!頬に手を当て、鏡を確認して先生にお礼をいい診察室から出る。開いた扉に驚き、診察室に転がり込みそうなスカーレットがいた。
「もう大丈夫です。今日は御迷惑おかけしました。また明日よろしくお願いします。」
診察室前で体勢を崩して、口を開けたままのスカーレットを置き去りにして荷物を纏めて帰宅した。
成沢に恨み言Limeを沢山送ってやろうとスマホを見たら、成沢からの通知だけで百を超えていたので可笑しくなった。お風呂でゆっくりとマッサージをして、湯上がりに冷蔵庫のものを少しつまみ、軽くストレッチをする。ルーティンをこなすと落ち着く。ベッドでごろごろしながら成沢のメッセージを見る。
「今日はすまない。明日も行けないが、お前なら大丈夫。」
から始まり、励まし心配してくれるあたたかな言葉ばかりがずらりと並ぶ。今日倒れそうになったことも伝わっているのだろう。彼に撫でられたあたたかい手を思い出す。
医務室の加納先生の話と、紹介された先生のことを書くと即『病院には一緒に行きますから』と返事があった。ホッとして凄く眠くなった頃に、一件のメッセージが来たのだけど、充電も出来ないで携帯を握りしめたまま微睡む私には確認することが出来なかった。
夢見が悪かったので、本調子ではないままスタジオに向かう。
マネージャーの成沢不在を知らされたのは、メイクも終わった後。ルーティンのために『精神統一が必要』と、代理で来たマネージャーを追い出す。小箱を握りしめ大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせて瑠花を閉じ込め鍵をかけて鏡を見て「LUCA」だと確認する。
「LUCA待っていたよ。締め出すなんて酷いよ。」
緊張感の走る現場で、にやにやと近付いてくる成沢代理のマネージャーから黒いどろどろが溢れているのが見えて気分が悪くなる。
「ストップ!成沢代理の君はステイ!LUCAチャンに近づかないで!」
スカーレットが走って駆け寄ってくる。
「LUCAチャン?体に触るけど平気?医務室に行こう。顔色悪すぎだよ?昨日ちゃんと眠れたの?」
胡散臭い日本語が消えてしまうくらいは彼も動揺しているらしい。
「ごめんなさ……お願い。」
自力出歩くのは無理で、スカーレットに頼るしか出来なかった。とはいえ、お姫様抱っこされた途端に頼ったことを後悔した。
「カメラの無い時にそんな顔は狡いよ。はー、本気で墜ちちゃうよこんなの……」
「落とさないでよ。」
「くっそ!こんな成りで天然……見せるわけ無い。成沢の気持ちが分かりすぎる。」
何かぶつぶついいながら、頭からタオルを被せられ、外の様子は殆ど見えなくなる。
家族と成沢以外に触れられて嫌な感じを持たないのは初めてだった。連れていかれた医務室には、垂れ目のふんわりした中性的な加納先生は優しいグリーンを纏っていてホッとした。医者でもどろどろの黒を纏う人は多いので、診てもらう先生は限定していた。ここの医務室は初めてだけど安心できる先生が居たことにホッと心を緩ませた。
付き添いだと譲らないスカーレットが、診察に同席する。服を脱いだりするような診察はないものの、ずっと食い入るように見つめられて居心地が悪い。
「スカーレットさん?LUCAさんが落ち着いて診察ができないので退室してもらいます。」
先生はそういい、ドアの外にスカーレットを放り出した。細腕であの大きな男を追い出せる手腕にポカーンとする。
「LUCAさんこちらにどうぞ。疚しいことはしないと誓います。不安なら、ボイスレコーダー等を動かしていただいても大丈夫ですよ。」
診察室奥の扉を開け、小ぢんまりしたテーブルセットの椅子をすすめられる。嫌な感じはしないので、黙って促されるままに座る。
部屋に入った先生は、診察室のドアにスカーレットが張り付いている気配がしたので、安心して話せないだろうと話が外に漏れにくい部屋を選んでくれた事を話してくれた。本来は鍵を閉めると防音ですが、LUCAさんは嫌でしょう?と先生は、優しい眼差しで向かい側の椅子に腰かけた。
「LUCAさんは、人とは違うものが見えたり、聞こえたりするのではありませんか?……嫌なら答えなくても良いのですが、その事で悩んでいるなら相談に乗れるかもと思ったのです。」
「見えます。……黒いどろどろ、近いと……密室だとだめで……小さい頃に兄と私で男にカメラで写真……瑠花だとだめでLUCAにならないと。黒いどろどろの見える男も女も気持ち悪くて……」
紡ぐ言葉は切れ切れだけど、先生は黙って頷きながら聞いてくれた。
「僕はどうでしょう?」
「先生は大丈夫。綺麗なグリーン……安心。」
「だから話してくれるんですね。LUCAさんの持つそれは、あなたを守ってくれる素敵な力ですね。」
「ただ、不安な気持ちが強くなりすぎると作用しすぎるように見えます。不安が大きくなった時のお薬は今まで飲んだことがありますか?」
首を横に振る。心療内科の類いは、活動の妨げやイメージダウンに繋がると事務所が許可してくれなかったから、診察も内服もしたことはなかった。
「では、少しだけ渡しておきますね。とりあえず今一錠、舌の下に入れてゆっくり溶かします。一日三回までは使えますが、そんなに使うほどになったら病院の方がいいでしょう。私のパートナーが勤めている心療内科も紹介できますよ?」
病院のパンフレットと手紙を添えてくれた。舌下でゆっくりと溶ける薬を、何故か懐かしいと感じて首をかしげた。
「LUCAさん、もう大丈夫。成沢さんは明日も来れないみたいですけど、貴方なら大丈夫お薬も飲みましたからね。自分で思うように動けるはずですよ。さぁゆっくり立ち上がってみてください。」
小さな扉から診察室の光を見たときに、凄く高揚した気分になった。落ち着く薬を飲んだのに変な感じ。私はLUCA!頬に手を当て、鏡を確認して先生にお礼をいい診察室から出る。開いた扉に驚き、診察室に転がり込みそうなスカーレットがいた。
「もう大丈夫です。今日は御迷惑おかけしました。また明日よろしくお願いします。」
診察室前で体勢を崩して、口を開けたままのスカーレットを置き去りにして荷物を纏めて帰宅した。
成沢に恨み言Limeを沢山送ってやろうとスマホを見たら、成沢からの通知だけで百を超えていたので可笑しくなった。お風呂でゆっくりとマッサージをして、湯上がりに冷蔵庫のものを少しつまみ、軽くストレッチをする。ルーティンをこなすと落ち着く。ベッドでごろごろしながら成沢のメッセージを見る。
「今日はすまない。明日も行けないが、お前なら大丈夫。」
から始まり、励まし心配してくれるあたたかな言葉ばかりがずらりと並ぶ。今日倒れそうになったことも伝わっているのだろう。彼に撫でられたあたたかい手を思い出す。
医務室の加納先生の話と、紹介された先生のことを書くと即『病院には一緒に行きますから』と返事があった。ホッとして凄く眠くなった頃に、一件のメッセージが来たのだけど、充電も出来ないで携帯を握りしめたまま微睡む私には確認することが出来なかった。
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