7 / 14
クラスの女子が妊娠する
しおりを挟む
広教のクラスで英語を担当しているベテランの教師から、津村麻記が、最近、授業中にずっと寝ていて、注意しても起きないと知らされた。
津村は成績もよく、大学進学を希望しているごく普通の女子生徒である。広教は、話を聞いてみますと答えて、終礼後、津村に声を掛けて、生徒相談室で話を聞いた。
津村が答えたのは、次のような内容だ。
毎日、塾から遅く帰り、深夜まで受験勉強をしている。最近は特に、公募推薦入試が近づいているので、睡眠時間を削って勉強している。授業中、どうしても睡魔に勝てず、居眠りをしてしまう。自分の生活管理ができていないから、気をつけていきたいので、心配は無用である。
広教は、津村の話を聞いて、それなら心配するほどでもない、授業を大事にするように、生活リズムを崩さないようにとアドバイスをした。
笑顔で帰ろうとする津村に、「夜遊びでもしてたのかと心配したよ」と広教は冗談を言った。津村は一瞬怪訝な表情を浮かべたが、さようならと笑顔で挨拶して帰って行った。
その数日後、芦田に相談があると呼び出されて地学研究部の部室に行くと、芦田と津村が並んで座っていた。津村はうつむいていて顔がみえない。
芦田が声を落としていった。
「先生、誰にも言わないって約束してくれます?」
「話によるけど、どうした?」
「言わないって約束してくれないと、話せないことなんです」
芦田の表情が深刻なので、広教は、すぐに誰にも言わないと答えた。
「津村さんは今、妊娠しています。二日前にわかったばかり。で、産みたいそうです」
「予定日は四月の上旬、卒業式は二月の終わりだから、あと二学期の残りと三学期の少しを乗り切れば、誰にも知られずに産めるはずです」
芦田は津村から聞き出した話を加えてそう言った。
「津村、そうなのか?」広教は予想もしなかったことを聞いて、動揺してしまった。
津村は首を縦に振るだけで、何も言わなかった。
「芦田、ちょっと」
広教は、芦田を部室の隣の理科研究室に連れて行き、津村に聞こえないように、事情を聞きだした。
芦田が言うには、芦田が津村の異変に気づいたのは、授業中に津村がずっと寝ている姿からで、普段の津村の姿とかけ離れていて、異様な感じがした。数日前に、帰ろうとする津村と下足箱のところで出会ったので、思い切ってどうしたの、最近体調悪いのと聞くと、津村は突然泣き出した。芦田はすぐに津村を誰もいない教室に連れて行き、津村から妊娠を心配しているという話を聞き出した。親にも言えないという津村に、芦田は、私が付き添うから産婦人科へ行こうといって、連れて行き、そして妊娠が判明したと言うことだ。
「で、どうしても産みたいのよ、津村さんは」
「相手は、わかっているのか」
「それが、絶対に教えてくれないの」
「相手の男は妊娠を知らないと言うことか」
「そうね」
「三学期の初めまで隠せたら、あとは自宅学習でしょ、卒業式までなんとかなりませんか?」
「うーん、体育の授業があるし、お腹も目立ってくるんじゃないか」
「体育は体調が悪いから見学にして、お腹は冬服のセーターや防寒着で隠せると思います。だから」
「階段や滑りやすいところもあって、安心できないな。やはり、母親には話さないと。すぐに家で気づくだろう」
「で、親が産むのに反対すれば?」
「よくわからない、産むのに反対ということは、堕ろすしかない」
「先生はどうしたらいいと思います?」
「堕ろしてほしくはない。でも、学校に妊娠がばれずに過ごすのは難しいと思う」
「今の学校では、生徒が出産するのを認めてくれないだろう」
「じゃあ、津村さんはどうしたらいいですか?」
「今すぐにはわからない。津村の話を聞こうか」
そう言って二人で、部室に戻り、津村と向き合った。
「私、産みたいんです」
「気持ちはわかる。で、相手の男には、話したの?」
「まだです」
「まずは話してみて、相手がどういうか、確認した方がいいと思う」
「その時は、必ず誰かに付き添ってもらうように」
「あと、お母さんには話しておこうか、たぶん、すぐに気づくはずだから」
「子供を産んでも津村が一人で育てていくわけじゃないから。相手の男や津村のお母さんの協力が必要だ」
「僕は、学校の誰にも話さない。津村は、今日、家に帰ってまず、お母さんに話して相談しよう。お父さんとも話すことになるだろう。それから、相手の男に話そうか」
「僕も芦田も絶対、誰にも話さないから、約束する」
「津村は自分の身体を大事にして、今言ったことを勇気出して話してきてほしい」
「何かトラブルになったら、電話して」広教はそう言って自分の電話番号を教えた。
津村は黙って頷いた。
芦田に一緒に帰るように頼み、津村を帰した。芦田が津村に寄り添うようにして帰っていく後ろ姿を広教はしばらく見送った。
一人になって広教は考えた。どうすれば津村が幸せになれるのか。産むとすれば、高校に在籍したままでは、出来ないだろう。自主退学をするしかない。産まないとすれば、不幸なことだが、津村の心に大きな影を落とすことになる。身体への影響も心配だ。
津村の大学進学はどうなるのか。今回のことで、彼女の人生への影響は少なからずあると考えられる。担任として、一人の大人として、自分に出来ることは何だろう。広教は思索を重ねたが、結論は出せなかった。
津村は成績もよく、大学進学を希望しているごく普通の女子生徒である。広教は、話を聞いてみますと答えて、終礼後、津村に声を掛けて、生徒相談室で話を聞いた。
津村が答えたのは、次のような内容だ。
毎日、塾から遅く帰り、深夜まで受験勉強をしている。最近は特に、公募推薦入試が近づいているので、睡眠時間を削って勉強している。授業中、どうしても睡魔に勝てず、居眠りをしてしまう。自分の生活管理ができていないから、気をつけていきたいので、心配は無用である。
広教は、津村の話を聞いて、それなら心配するほどでもない、授業を大事にするように、生活リズムを崩さないようにとアドバイスをした。
笑顔で帰ろうとする津村に、「夜遊びでもしてたのかと心配したよ」と広教は冗談を言った。津村は一瞬怪訝な表情を浮かべたが、さようならと笑顔で挨拶して帰って行った。
その数日後、芦田に相談があると呼び出されて地学研究部の部室に行くと、芦田と津村が並んで座っていた。津村はうつむいていて顔がみえない。
芦田が声を落としていった。
「先生、誰にも言わないって約束してくれます?」
「話によるけど、どうした?」
「言わないって約束してくれないと、話せないことなんです」
芦田の表情が深刻なので、広教は、すぐに誰にも言わないと答えた。
「津村さんは今、妊娠しています。二日前にわかったばかり。で、産みたいそうです」
「予定日は四月の上旬、卒業式は二月の終わりだから、あと二学期の残りと三学期の少しを乗り切れば、誰にも知られずに産めるはずです」
芦田は津村から聞き出した話を加えてそう言った。
「津村、そうなのか?」広教は予想もしなかったことを聞いて、動揺してしまった。
津村は首を縦に振るだけで、何も言わなかった。
「芦田、ちょっと」
広教は、芦田を部室の隣の理科研究室に連れて行き、津村に聞こえないように、事情を聞きだした。
芦田が言うには、芦田が津村の異変に気づいたのは、授業中に津村がずっと寝ている姿からで、普段の津村の姿とかけ離れていて、異様な感じがした。数日前に、帰ろうとする津村と下足箱のところで出会ったので、思い切ってどうしたの、最近体調悪いのと聞くと、津村は突然泣き出した。芦田はすぐに津村を誰もいない教室に連れて行き、津村から妊娠を心配しているという話を聞き出した。親にも言えないという津村に、芦田は、私が付き添うから産婦人科へ行こうといって、連れて行き、そして妊娠が判明したと言うことだ。
「で、どうしても産みたいのよ、津村さんは」
「相手は、わかっているのか」
「それが、絶対に教えてくれないの」
「相手の男は妊娠を知らないと言うことか」
「そうね」
「三学期の初めまで隠せたら、あとは自宅学習でしょ、卒業式までなんとかなりませんか?」
「うーん、体育の授業があるし、お腹も目立ってくるんじゃないか」
「体育は体調が悪いから見学にして、お腹は冬服のセーターや防寒着で隠せると思います。だから」
「階段や滑りやすいところもあって、安心できないな。やはり、母親には話さないと。すぐに家で気づくだろう」
「で、親が産むのに反対すれば?」
「よくわからない、産むのに反対ということは、堕ろすしかない」
「先生はどうしたらいいと思います?」
「堕ろしてほしくはない。でも、学校に妊娠がばれずに過ごすのは難しいと思う」
「今の学校では、生徒が出産するのを認めてくれないだろう」
「じゃあ、津村さんはどうしたらいいですか?」
「今すぐにはわからない。津村の話を聞こうか」
そう言って二人で、部室に戻り、津村と向き合った。
「私、産みたいんです」
「気持ちはわかる。で、相手の男には、話したの?」
「まだです」
「まずは話してみて、相手がどういうか、確認した方がいいと思う」
「その時は、必ず誰かに付き添ってもらうように」
「あと、お母さんには話しておこうか、たぶん、すぐに気づくはずだから」
「子供を産んでも津村が一人で育てていくわけじゃないから。相手の男や津村のお母さんの協力が必要だ」
「僕は、学校の誰にも話さない。津村は、今日、家に帰ってまず、お母さんに話して相談しよう。お父さんとも話すことになるだろう。それから、相手の男に話そうか」
「僕も芦田も絶対、誰にも話さないから、約束する」
「津村は自分の身体を大事にして、今言ったことを勇気出して話してきてほしい」
「何かトラブルになったら、電話して」広教はそう言って自分の電話番号を教えた。
津村は黙って頷いた。
芦田に一緒に帰るように頼み、津村を帰した。芦田が津村に寄り添うようにして帰っていく後ろ姿を広教はしばらく見送った。
一人になって広教は考えた。どうすれば津村が幸せになれるのか。産むとすれば、高校に在籍したままでは、出来ないだろう。自主退学をするしかない。産まないとすれば、不幸なことだが、津村の心に大きな影を落とすことになる。身体への影響も心配だ。
津村の大学進学はどうなるのか。今回のことで、彼女の人生への影響は少なからずあると考えられる。担任として、一人の大人として、自分に出来ることは何だろう。広教は思索を重ねたが、結論は出せなかった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
黄昏は悲しき堕天使達のシュプール
Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・
黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に
儚くも露と消えていく』
ある朝、
目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。
小学校六年生に戻った俺を取り巻く
懐かしい顔ぶれ。
優しい先生。
いじめっ子のグループ。
クラスで一番美しい少女。
そして。
密かに想い続けていた初恋の少女。
この世界は嘘と欺瞞に満ちている。
愛を語るには幼過ぎる少女達と
愛を語るには汚れ過ぎた大人。
少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、
大人は平然と他人を騙す。
ある時、
俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。
そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。
夕日に少女の涙が落ちる時、
俺は彼女達の笑顔と
失われた真実を
取り戻すことができるのだろうか。
【新編】オン・ユア・マーク
笑里
青春
東京から祖母の住む瀬戸内を望む尾道の高校へ進学した風花と、地元出身の美織、孝太の青春物語です。
風花には何やら誰にも言えない秘密があるようで。
頑なな風花の心。親友となった美織と孝太のおかげで、風花は再びスタートラインに立つ勇気を持ち始めます。
※文中の本来の広島弁は、できるだけわかりやすい言葉に変換してます♪
期末テストで一番になれなかったら死ぬ
村井なお
青春
努力の意味を見失った少女。ひたむきに生きる病弱な少年。
二人はその言葉に一生懸命だった。
鶴崎舞夕は高校二年生である。
昔の彼女は成績優秀だった。
鹿島怜央は高校二年生である。
彼は成績優秀である。
夏も近いある日、舞夕は鹿島と出会う。
そして彼女は彼に惹かれていく。
彼の口にした一言が、どうしても忘れられなくて。
男子高校生の休み時間
こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる