小説版「付呪師リゼルの魔導具革命」

清見元康

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第二章

第40話:ガラリアから見たリゼル 回想

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 人の出会いは奇跡だ。
 ガラリアは常々そう思っている。

 何もかもが順調だったわけでは無い。
 むしろ、苦難のほうが多かった。

 ガラリアは、付呪の才能が無い。
 ただ人より長い時間、学んだだけだ。

 だからガラリアの付呪は、安定はしても瞬発力が無い。
 普段遣いの日常品、家具や冷蔵庫、冷凍庫にキッチン用品。
 お風呂やトイレ等など、ガラリア工房で生み出された付呪は世界中で使われている。

 弟子が設立した[ガラリア工房支店]は[バストール共和国]の全ての街にある。

 ガラリアの魔道具は、今の世の生活の基盤を支えている。

 だが、そこが限界だった。
 十年、二十年と使い続けることができる魔道具は作れるが、今すぐ救わなけれいけない人々を救う魔道具が作れなかったのだ。

 苦しいとうめきながら死んでいく人々を何人も見てきた。
 助けてと請われても、ガラリアは無力だった。

 それでも、ガラリアは研鑽を積み重ね続けた。
 いつかは、いつかはと己に言い聞かせて。

 長い年月を生きていれば、出会いこそが力だとわかる。
 自分には無い発想に、ヒントがあるのだ。

 ある日のことだった。
 〈帝都〉いる知人から、面白い子が[魔法学校]にいると聞かされた。
 その少年は、魔法が使えないくせして[魔法学校]に入学できたらしい。
 良くそれが許されたな、と驚いたものの、理由を聞けば納得した。
 彼は、実技試験以外の部分で満点を取ったのだ。

 確かに面白い、とガラリアは興味を惹かれた。

 少しずつ、知人を通うじて彼の情報を集めていく。

 どうやら入学当初、彼は模擬戦で数回負けた後、しばらくは無敗を誇ったらしい。
 小さな練習用の杖を巧みに使い、一気に距離を詰め体術で制する。
 知人からの報告を聞きながら、ガラリアは寂しい気持ちになる。

 案の定、少年の戦法は対策された。
 徹底した逃げと遠距離魔法で、少年はどんどん勝てなくなっていく。

 それが現実だ。
 ガラリアもかつて似たような戦術を編み出し、あっという間に対策された経験がある。
 そうしてまた埋もれてしまうのだ。

 だが、知人の報告は驚くべきものだった。
 完全に対策を取られて尚、少年の模擬戦の勝率は五割もあったのだ。

 少年は、諦めずに抗い続けているのだと理解した。

 知人は、少しずつガラリアに少年の情報をよこしてくれる。

 ……今の学長に変わってから、ガラリアは〈帝都〉への興味を完全に失っていた。
 毎年来る講義の誘いも、学長が変わってから来なくなった。

 そこに、これほど心ときめく少年がいる。

 どうやら、少年の論文はことごとく握りつぶされているらしい。
 一部を、知人が届けてくれた。

 その中に、[多言語同時翻訳による未知の言語への影響]という論文があった。
 内容は興味深く、おそらくルーン文字にも活用できそうな記述がいくつか見つけられた。

 少年は、その可能性に気づいていない。
 恐らく同志がいないからだとガラリアは結論づける。
 一人での研究は、多方面の見方ができない。
 気づき、という可能性が大きく損なわれてしまう。

 ガラリアは、立ち上がった。
 [魔法学校]は彼にとって毒だ。
 この工房で、彼を引き取るのだ。

 名は、リゼル・ブラウンと言ったか――。

 ちょうどその時だった。
 古くからの友人が住む[世界樹の里]が、滅んだと報告があったのは――。


 ※


 ガラリアは、[世界樹の里]の生存者救出のために奔走した。

 生存者の数はわからない。

 里は、既に[帝国]によって占拠されていた。
 [世界樹の里]が滅んだ原因は、里が秘匿していた古代の遺物の暴発とされた。
 そして、[帝国]はまっさきに民の救助に駆けつけたのだと言っていた。

 だがガラリアは既に、[帝国]は里が秘匿している遺物を我が物にしようと画策していた情報を掴んでいた。

 ここまでやるのか、という怒りと絶望が、ガラリアを襲う。
 また、ガラリアは何もできなかったのだ。


 ※


 古い友人のドワーフ、グイン・バスが二人の少女を連れてきた。

 若い、というよりも幼いエルフの姉妹だ。
 二人は[世界樹の里]の、数少ない生存者だった。


 一人は、世界全てを憎むような濁った目をしていた。
 無理もない。彼女は、地獄の中心にいたのだ。
 既に人も殺しているらしい。
 名を、エメリア・ベリルといった。


 一人は、不気味なほど明るく天真爛漫な性格をしていた。
 だがガラリアは、すぐに納得する。
 親を殺され、故郷を焼かれ、彼女は狂ったのだ。
 強大な魔力を宿していながらも、魔法が苦手だと思い込むのは魔法へのトラウマが原因だろう。
 名を、ルグリア・ベリルといった。

 彼女たちは、グインの親戚の家で育てられることとなった。
 場所も近い。
 [石と苗木]という宿屋だ。
 頻繁に様子を見に行くことにしよう。

 やがて、ガラリアは、エメリアを弟子に取ることに決めた。
 才能があり、熱意もある。
 彼女の復讐心を、別の方向に向けたいという思いもあった。

 ルグリアも誘ったが、断られた。
 防衛意識が働いているのか、魔法から遠ざかろうとしている節がある。
 それならば、無理強いはできまい。


 ※


 結果として、ガラリアはエメリアの育成に失敗した。
 エメリアは、復讐の心を失うことは決して無かったのだ。
 常に何かに怯え、それどころか自棄に陥ってしまった。

 ああ、死にたがっているのだな、とガラリアは直感する。
 今がつらくてつらくて、逃げ出したいのだ。
 だが、[帝国]も許せない。
 エメリアは、[帝国]と刺し違えようとしている。

 やがて彼女は、[禁断の地]に眠るとされる古の秘宝、[帝級]の遺物を探す冒険者の一団に合流した。

 ガラリアは、力尽くで止めようとした。
 だが、本気の殺意と敵意をぶつけてくるエメリアに、ガラリアは怯え、敗北した。

 ガラリアが目を覚ましたのは、既に冒険者部隊が旅だった後だった。

 どうやらルグリアとグインもついていったらしい。


 これは死出の旅となるだろう。
 そんな予感がしていた。


 愛弟子から離反され消沈していたガラリアは、ある時ふと[魔法学校]の少年のことを思い出す。

 古い知人に連絡すると、どうやら彼は[魔法学校]を破門されたらしいと知る。
 それならばとガラリアは工房に誘おうとするも、どうやら行方不明らしい。

 ああ、また取りこぼしてしまったのだ。

 そうして、しばらくガラリアは[石と苗木]に入り浸り、思い出に縋る日々を過ごした。

 不穏な噂は毎日のように増えていく。
 [暗殺者ギルド]の影。
 行方不明になった付呪師。
 だが、ガラリアに何ができようか。
 たった一人の弟子すら、導けなかった愚か者に――。


 ※


 信じられない情報が飛び込んできた。
 [禁断の地]に向かった冒険者部隊が帰ってくるのだ。
 だが、古代の遺物を手にしたという情報は無い。

 それでも十分だった。
 生きて、帰ってきてくれさえすれば……。

 エメリアは、無事だろうか。
 怪我を負ってないだろうか。

 ちゃんと、帰ってくる冒険者たちの中にエメリアはいてくれるだろうか。
 不安がガラリアの心をかき乱す。

 エメリアは、死に場所を探していたのだから。


 こそこそと、ガラリアは影に隠れて冒険者たちの獣車を遠目に眺めた。

 大部隊だ。
 確か、〈サウスラン砦〉の廃棄が決定されたと聞いた。

 だのに皆の表情は明るい。

 獣車に積まれている物資の数が多い。
 敗走では、無かったのか?

 ガラリアは、冒険者たちの中にエメリアの姿を見つける。

 ああ、無事でいてくれた。
 戻ってきてくれた。

 安心のあまり膝から崩れ落ちそうになりながらも、違和感に気づく。

 エメリアは、あんなはにかんだ笑みを浮かべる子だったか?
 あれではまるで、恋する乙女のような――。

 エメリアの瞳が、隣にいる少年に注がれていることに気づく。

 復讐と力に囚われていた愛弟子が、恋を知って帰ってきたのだ。


 ※


 [石と苗木]での再開を終え、工房に戻ったガラリアは興奮していた。

 あれはリゼル・ブラウンだ。
 彼の技は、はるか昔にガラリアが提唱した[魔導格闘術]を更に昇華させたものだった。
 [魔法学校]の生徒だったのだ、知る機会くらいはあっただろう。
 いいやそれだけではない、恐らく多くの技術の複合した気配が見えた。

 その後[冒険者ギルド]で集めた情報によれば、彼はガラリアが求めてやまない瞬間火力に特化した付呪師らしい。

 だが、ガラリアは知っている。
 こういう時にこそ、足をすくわれるのだ。

 最も警戒すべき可能性は、あの少年こそがガラリアを討つために使わされた暗殺者だという可能性。

 ……そういえば、つい最近新しい遺跡が発見されたと聞いた。
 そこで彼の人となりを探ってみるのも良いかもしれない。

 もしも、もしも彼がやってきたのが本当に偶然だったのなら。
 いよいよ、長年の夢が形になるかもしれない。

 生まれつきの魔力の総量に関係なく、全ての人々に平等に未来が開かれている世界。
 それを実現するための、根幹。
 [付呪師ギルド]の設立を――。

 とにかく明日だ。
 リゼルを冒険に誘い、それから、それから――。


 鳥のさえずりでガラリアは飛び起きる。

 まだ日が登ったばかりだ。
 だがガラリアは我慢できず、工房を飛び出し[石と苗木]目指して駆け出した。

 夢が、間近に迫っている気がした。
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